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【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
2章:「フィデリアの鬼退治」

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2章:閑話3-1「男同士の語らい」


 陽が暮れた後、レオン達はフィデリアへ続く道から少し離れた、ひらけた場所で野営の準備をしていた。

 

 北の方角に目を向ければ森が続く。さらにその向こうには城壁のように聳え立つ山――“ヒメル・グラウ山脈“が大陸を二つに分けるかの如く鎮座していた。

 

 通称、“天蓋山脈“と称されるそれは、東側の標高が最も高く、西に向かうにつれて低くなっている。

 その山脈の向こう側には――ベルクト共和国。かつて、レオンの故郷、“イースクリフ“に突如として侵攻してきた、このアエテルナ大陸最大の大国がある場所だ。

 

 その山脈は、北の大国から聖都を含む同盟国達を守るように、頼もしさと威圧感を放っていた。


 

「――なあ、隣。⋯⋯いいか?」


 

 長椅子に腰掛けて、包帯だらけの腕を見ていたレオンに、銀髪に褐色の肌を持つドワーフの少年――カルッパが声をかけた。

 

 彼は、これまでのような甲高い元気な声ではなく、落ち着いた――どこか、伺うような声で、レオンに告げた。

 


「⋯⋯どうぞ」

「⋯⋯サンキュ」

 


 レオンはそんな彼に、少し眉を顰めて返答した。

 腰掛けていた椅子の端にレオンは移動し、カルッパはその空いたスペースにちょこんと座る。

 

 二人はしばらく無言で、シャル達蒼穹の盾(アズール・シルト)が天幕などを設営しているのを眺めていた。

 


「見ているだけっていうのも、歯痒いよな⋯⋯」

 


 団員達の号令や掛け声だけが聞こえていた中、沈黙を破るようにカルッパはレオンに切り出す。


 

「⋯⋯そうだね。⋯⋯君も、断られたの?」

「ああ。『依頼人に手伝わせるわけにはいかない』だってさ。お前も、似たようなもんだろ?」

「⋯⋯うん。『僕たちに任せてゆっくりしていて』って言われて、断られちゃった」

「そうか」


 

 レオンは、カルッパに押し切られてしまった様子を伝える。カルッパは苦笑いをしながら続けた。


 

「女に全部やってもらう、ってのは、男としては辛いな。男は、俺とお前の二人しかいないっていうのに」

「そう、だね。⋯⋯確かに、男は僕と君の二人だけか」


 

 レオンは何かに気付いたように、少し目を大きく開いた。


 

「? どうした?」

「⋯⋯いや。そう言えば、男の人と話すの、久しぶりだなって思って⋯⋯」

「はあ? どういう意味だよ」

「⋯⋯文字通りの意味。いつの間にか、僕の周りは女の子ばっかりだった。シャ⋯⋯。⋯⋯蒼穹の盾(アズール・シルト)も、僕の団員達も⋯⋯女の子ばっかりだ」

「まあ、自慢に聞こえるけど。⋯⋯あの様子じゃ自虐にしかならないか。全然羨ましくないしな」


 

 カルッパはレオンを揶揄うように告げる。

 カルッパの脳裏には、恐らく魔獣を討伐した“後“の事が浮かんでいるのだろう。

 


 (そりゃ、『女を買った』とか、『ハーレム集団』とか噂されてもしょうがないか。少しはミハエルとでも仲良くしといた方がいいのかな? ⋯⋯でも、嫌な奴だしなぁ)


 

 レオンは呟くように考え事をしていた。その為、カルッパから呼びかけられているのにも気付かなかった。

 


「――おい。おいってば。⋯⋯レオン、って言ったっけ?」

 

「⋯⋯あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事してた⋯⋯。ええと、カルッパ⋯⋯さん」

 

「“カル“でいいよ。その方が呼びやすいだろ?」


 

 “カル“は少し気まずいのか、恥ずかしさを隠しているかのように目を伏せながらレオンに告げる。

 レオンもまた、突然心を開いてきたかのようなカルに動揺しながら答えた。

 


「――あ、ああ。わかった。ありがとう。カル」

「⋯⋯悪かったよ。バカにして」

「⋯⋯え?」


 

 カルはなおも目を逸らしながら、レオンに謝った。

 風が吹き、草原の草花が触れ合う音が一瞬の静寂を埋める。


 

蒼穹の盾(アズール・シルト)の団員たちから聞いた。なんでも、たった七人で大軍に挑んで、それを追っ払ったって」

「⋯⋯!!」


 

 目を見開いたレオンを制するように、カルは続ける。

 


「もちろん、内緒にしてくれって言われているよ。ただ、お前がただ“とっても可愛い団長“だけじゃないって。彼のことをもっと知って欲しいって教えてくれたんだ」

 

「⋯⋯そう、なんだ⋯⋯」

「浮かない顔してるな? 言ってたぜ? お前の団員たちもそりゃ凄かったが、お前が一番ヤバかったって」


 

 カルにそう言われて、レオンは顔を赤く染めながら目を伏せた。恥ずかしかったのだ。

 

 レオンは、先の戦いの事をあまり覚えていない。


 彼は頭に血が上り、感情が昂って自分でも抑えきれない程の“怒り“に満ちていた。

 そんな中で変な事も言ってしまったかもしれず、それを誰かに聞かれてしまったのではないのか、と。

 


 (感情を制御出来ないのは、魔法使いとして未熟な証拠だとお師匠様に言われてしまうな⋯⋯。)

 


 レオンが自嘲するように息を吐くと、カルはそれに気付かずに続けた。

 


「男らしくて、英雄みたいでカッコ良かったってさ。『俺の女に手を出すな!』って啖呵切って駆け出したって。⋯⋯本当に言ったのか?」

「⋯⋯! そ、それは、多分言ってない⋯⋯。⋯⋯はず」


 

 カルは少し笑いながら続けていく。

 ――設営された天蓋に徐々に光が灯るようになって、辺りを照らし始めていた。


 

「正直、見直したよ。たとえ力があったって、そんな大軍に少数で突っ込むなんて事、多分俺には出来ない」

「確信があった訳じゃないけど、あれは僕の力じゃないよ。あれが出来たのは、彼女達がいてくれたから。⋯⋯それと、この“魔剣“のおかげだよ」

 


 レオンはそう言って、背中の魔剣を取り出した。


 彼はその華奢な手で魔剣に巻かれた布を剥がすと、剣の()にルーン文字が刻まれている以外はなんの変哲もないような、無骨なロングソードが姿を現した。

 

 カルは身を乗り出してその魔剣を見ると、「ちょっと見せてくれ」とレオンに言い、受け取って確認し始める。

 カルは慣れた手つきで魔剣を眺め、指先で撫でたり、叩いて音を確認している。先ほどの和やかな目ではなく、その眼差しは真剣そのものであった。

 


「――見た目は確かに特徴はないけど、金属の密度が凄いな。鉄だとしたら、こんな上質な鉄、今じゃとても珍しい」

 

「⋯⋯そうなの?」

「ああ。それに、こんなに密度があるのに、魔力の伝導率も高そうだ。刃こぼれも一切無いから、強度も凄まじい。こんな素材見た事ない」

 


 カルは目を輝かせながら感嘆の声を上げる。様々な角度に剣を傾け、その度に刀身が黒や赤、金色の光を反射する。

 


「⋯⋯この魔剣、こんな色してたんだ」

「お前、折角の魔剣なんだぞ? もうちょっとは興味持っとけよ⋯⋯」

「⋯⋯あんまり、抜く機会が無くて⋯⋯」

「まあ、お前の体格だと、重過ぎるからな」

 


 レオンも自身の魔剣の刀身が赤黒い色に気付き、驚きの声をあげていた。彼はここで初めて、刀身の色を知ったのだ。

 そんな様子のレオンをカルは呆れたように見つめ、話を続けた。


 

「この魔剣。⋯⋯“太陽の欠片(オリハルコン)“みたいだな!」

「“太陽の欠片(オリハルコン)“?」

「ああ! 希少すぎて、もう地上には残っていないとされる、幻の鉱石だ! ⋯⋯まあ、伝説上の物質だし、そんな訳はないだろうけどな!」

「伝説の希少金属かぁ」

「仮にこれが“太陽の欠片(オリハルコン)で出来ているとしたら、国宝もんだからな! 一介の騎士どころか、王族だって触れることは許されないだろうよ!」

「なるほどね」


 

 カルはくしゃ、と音がするような屈託のない無垢な笑顔を浮かべながらレオンに告げた。


 

「まあ、とんでもない“業物“ってことだけは確かだ。大事に使えよ?」

「うん、ありがとう。⋯⋯カルは、随分と剣に詳しいんだね?」

「あったりまえよ! 俺の夢は、こういうスッゲェ“剣“を創り出すことだからな!」

「すごい⋯⋯! どんな剣を作りたいの?」

「へへっ、聞いて驚けよ! 俺が作りたいのはな――」

 


 レオンの質問に、カルは目を輝かせて答えた。

 

 レオンはレオンで、久々に同性の少年と話す事が出来て嬉しいのか、カルが自分の夢を楽しそうに語るのを、身を乗り出して聞いていた。

 二人は、食事の準備ができたという声がかけられるまで、ずっと楽しくおしゃべりしていたのだった。


 

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