2章:4-2話「子供二人と勝者の笑顔」
聖都コンスタンティアの西部。
自由貿易都市フィデリアへ一本で行ける道の入り口で、レオンたちはライチ団長率いる蒼穹の盾と合流した。
その姿は、まさに圧巻だった。
そこにあったのは、四台の箱馬車。
一台は指揮官、団長用と思われる小型の馬車で、残りの三台は荷物も乗るようにスペースが取られているのか、大きめの六人乗りの馬車だった。
全てが蒼に塗られており、縁取りは銀色の金属で補強されている。
扉には誇らしげに“蒼穹の盾“の紋章が描かれてる。
貴族の馬車のような派手さはないが、戦場での運用も想定された、質実剛健な機能美を感じさせる作りとなっていた。
それを引くであろう何頭もの馬も、その全てが足が太く、この馬車を引いて余りある力を持っていそうだった。にも関わらず、よく調教されているのか整然と並んで大人しくしている。その様子は、気品さえも感じるほどだった。
(凄い。これが、設立してから日の浅い中で、中堅クラスまでのし上った実力派小騎士団⋯⋯!)
レオンは感心していた。これほどまでの設備。団員を大切にしているライチ団長であれば、恐らく団員用の馬車もさぞ快適に違いないだろう。
(⋯⋯いつか、僕たちもここまでになれるかな?)
少年は今までの団長としての自分を振り返る。
運営費に生活費と、お金の事しか考える余裕がないレオンであったが、蒼穹の盾の“しっかりとした小騎士団運営“を見て考えを改めていたのだった。
「ライチ団長。おはようございます。お待たせしてしまい申し訳ございません」
「レオン君。おはよう、大丈夫だよ。僕たちも今着いたばかりなんだ。準備を整えているから、もう少し待っていて?」
レオンはライチ団長に挨拶をする。彼女は相変わらず落ち着いた、優しい声音で話しているが、準備はもう完了している様にも見える。
気を使わせてしまった、と思うレオンだったが、彼らは今度は蒼穹の盾の団員たちに囲まれていく。
「レオン様! 先日は団員たちを救っていただき本当にありがとうございました!」
「この御恩は一生忘れません!」
「あら、団長とお揃いの鎧⋯⋯尊いですわ!」
「お姉様たち、今日も麗しいですわー!」
「レオン様! いつ我々の“檻“にきてくださるの!?」
「お胸がおおきいですわー!」
「はぁ、その困り顔⋯⋯たまらないです(うっとり)」
レオン達は蒼穹の盾の団員達にもみくちゃにされていく。レオンの団員たちも、相変わらず満更でもなさそうだった。
エリザは、団員たちと会話をしている。漏れ聞こえてくる、彼女を心配する声。
ミーナは、団員さんたちに囲まれて矢継ぎ早に声をかけられている。
――『可愛い! 持って帰りたい!』 『是非蒼穹の盾に入りませんか!?』 『妹ですわ! 妹属性ですわー!』と四方から言葉を浴びるミーナはあうあう、といった様子で返答に窮していた。
そんな中で、よく通る少年の声が、現場を引き裂いた。
「おい! 遊びじゃねーんだぞ! いつまでここにいるつもりだ!」
声の主は褐色の肌に白銀の髪をしたドワーフの少年――カルッパだった。
彼は、レオンがいる事に気がつくと、少年の元まで近付いてきて、足から顔までジロジロ見ていた。
――が、突然笑い始めた。
「――! ははっ、よく似合ってるぜ? “お姫様“?」
彼はレオンの鎧――蒼穹の盾の特別仕様の鎧姿を見て、そう言い放った。
「⋯⋯それは、どうも」
「でも安心したぜ。後ろのでっかいねーちゃん達なら、確かにお前の事を守れるだろうな!」
「⋯⋯⋯⋯」
「腕が立つってのは、後ろのねーちゃん達だったのか。それなら、合点がいったぜ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「しっかり女に“守ってもらいな“! 戦乙女の格好した“レオンちゃん“?」
一方的にカルッパから声をかけれられていたレオンからぷちっ、という微かな音が聞こえた。
――その後、普段の少年の穏やかな様子から一変したように、その絹のような白い額に青筋が一つ立ったのだ。
「――くそがき」
「あん?」
「見た目通り、“子供“なんだね。思慮のかけらもない。自分の言いたいことだけを言う“お子ちゃま“だ」
「なんだと! お前だって子供だろうが!!」
はーやれやれ、とわざわざ大袈裟な身振りでレオンは切り込むと、カルッパは一瞬にしてカッとなった。
ドワーフのそんな様子に構わずレオンは続けた。
「見た目だけなら、僕の方がまだ大人に見えるよ? ⋯⋯きっと」
「俺はドワーフだからそう見えるだけだ! 歳だって俺の方が上だぞクソガキ!!」
「歳しか誇れるところないの? 内面は年より下に見えるよ? 思いやりって習わなかった?」
レオンは腰に手を当てて、大袈裟な身振りで彼に言い返す。
――それを見ていた彼女達が、『いや、レオンもそんなに変わらないよ?』という目をしていた事には、彼は気付かなかった。
「っ! 言わせておけば調子に乗りやがって! ぶっ飛ばしてやろうか!? 女男!!」
「⋯⋯ほら、すぐそうやって癇癪を起こす。お菓子を買ってもらえなかった“お子ちゃま“の様にね」
「このやろう! ぶっ飛ばしてやる!!」
カルッパがレオンに掴み掛かろうとした、まさにその時、
「――はい、そこまで。二人とも。喧嘩はダメだよ?」
ライチ団長が、苦笑いしながらカルッパの肩に手を置いた。
「――はい、レオン様も。そこまでにしましょうね?」
シルフに苦笑いされながらそう言われた。レオンはといえば、体が浮いていた。ルナに両脇を持ち上げられているようだ。
――ルナは、軽く持ち上がったレオンにちょっと嬉しそうな顔を浮かべている。
「「――ふんっ!!」」
同時にそっぽを向く二人。
出会ってから相性の悪い彼らは、その仲の悪さとは対照的に息の合った掛け合いをする。まるで長年連れ添った悪友か、意地っ張りの双子のようであった。
周囲の女性陣は、「あらあら」「まあまあ」「尊いですわー」と、やんちゃな弟達を見守る姉のように、生暖かい視線を送っていた。
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「――さて、準備もできたみたいだし、そろそろ出発しようか」
ライチ団長は優しげにそう言って、賑やかに話していた団員たちをまとめる。
――その声を聞いた瞬間、団員たちは今までの和やかな空気が嘘のように背筋を伸ばし、その貌を引き締めていた。
(これが、蒼穹の盾⋯⋯! そして、団長か⋯⋯!)
その様相は、すでに正規騎士のそれと全く遜色がないように見える。
士気の高さ、練度の高さが、この整然とした団員達から痛い程伝わってくるのだ。
――自らは蒼穹の盾の誇り高き団員だ、と伝え表すかのように。
(⋯⋯僕も、いつか必ず⋯⋯!)
一人決意をし、団長がレオンたちのために準備をしてくれた馬車に乗ろうとした時、彼は団長から呼び止められる。
「レオン君。レオン君は、こっちだよ?」
「⋯⋯へ⋯⋯?」
団長が指差す方向に彼は目を向けると、そこは指揮官用の馬車だった。
「⋯⋯え? あれは、ライチ団長の専用馬車では?」
「確かにその通りだよ。あれは指揮官用の馬車」
団長は顎に指を当てながら、さも当然というように続けた。
「僕は蒼穹の盾の団長。⋯⋯そして、レオン君も団長でしょ?」
「え、あ、その⋯⋯」
「だから、僕と君はあっち。道中、よろしくね? レオン君」
ウインクと共に、彼女は流れるような動作でレオンの手を取り、馬車へとエスコートする。
背後で、彼の団員達が「あっ!」「ずるい!」と声を上げるが、時は既に遅かった。
「⋯⋯あ、その⋯⋯え? え?」
彼は後ろから凄まじいまでの殺気を感じながら、ライチ団長に手を引かれて指揮官用の馬車に押し込まれるように乗せられ、その扉がピシャリと閉められた。
その後、窓からライチ団長が顔を出し、レオンの団員に向けて優雅に手を振ってみせたのだ。
――その笑顔は、完全勝利した勝者のそれであった。




