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「着いてたんなら連絡くれればよかったのに」

「ああ、それはごめん。今日着いたとこだったんだよ」


そう言いながら工場の奥にひっそりと建つジョナの家に入れてもらう。

壁には古い工具や部品が掛けられ、焦げついた鉄の匂いが漂っている。机の上には、作りかけの機械と、小さな花が一輪挿してあった。


「リィナは部屋に寝かせた。……すまん、あんな姿を見せちまって」


ジョナは苦笑しながら、酒の入ったグラスを差し出した。

「お前と飲むのは何年ぶりだ?」

「ちょうど5年じゃないかな。

そう思うとずいぶん昔なんだね。

ジョナが酔い潰れて家まで送ったのがつい最近に思えるよ」

「やめてくれ、あん時ずいぶん嫁さんに怒られたんだから」



沈黙が二人の間に流れる。

昔なら気まずくなる前にどちらかが冗談を言っていた。


空気を変えようとジョナが先に口を開いた。

「お前のアレ、ずいぶん広がっちまったな。

大層裕福になったんじゃないか?」


「……まぁ、な。」


エリオットは短く答え、グラスの中で琥珀色の液体を揺らした。


「まさか、あんなに流行るとはな。

“友情”ってやつ。」

ジョナは懐かしそうに笑う。

「最近はどこの街でも見かけるよ。子どもらが光らせては“これで友達!”なんて言ってる。いいもん作ったな。」


指が、わずかに震えた。

ジョナは知らない。

あの光の裏に、どれほど多くの命が消えていったかを。


「……あいつが死ぬ前に、声を残せたんだ。あれがなきゃ、リィナは納得できなかっただろう。」


ジョナの言葉に、胸が締めつけられた。

彼の瞳はまっすぐで、疑いのかけらもない。

だが――その“救い”は、罪の上に成り立っている。


ゆっくりと息を吸った。

グラスを机に置き、まるで自分の中の空気を吐き出すように静かに言った。


「……ジョナ。」


「……なんだ?」


「あれは、心を繋ぐ装置じゃない。……いや、繋ぐことはできる。

ただ、代償がある。」


ジョナの笑みが止まる。


「代償……?」


目を伏せて震える声で続けた。


「“友情”は、繋がった者の生命力を吸って色を変える構造になっている。」


「……どういう、ことだ?」


「つまり、あの装置は――“一緒にいたい”という想いが強ければ強いほど、生命力を吸い色を変える。

生命力と言っても体に支障をきたす程ではない。」


「――じゃあ」


「あくまで、健康体の場合は。だ。」


ジョナの目が見開かれた。

笑おうとして、口元が歪む。


「……嘘だ。

だって、お前……“心律同期装置”は人を繋ぐ装置だって……!」


「そうだと思ってたんだ!」

拳を握った。

「僕自身も。……じゃなきゃ、今頃ノアだって......」


「ノア、って……」


酒の匂いの中で、ぽつりと呟いた。


「ノアは...娘は死んだ。」


部屋の中の音が止まった。


「心律同期装置――“友情”は、感情の共鳴を利用する装置だった。

ノアが僕を信じれば信じるだけ色が上がっていった。

だけど!

病に侵されたノアの生命力では耐えきれなかったんだ。」


「そんな……」


ジョナは立ち上がった。

手が震え、グラスが床に落ちて割れた。

「じゃあ……あいつも……!」


「……ああ。」


エリオットはただ頷いた。

「ジョナの奥さんも、装置に“繋がった”んだ。

娘を想うあまり、その想いが装置を動かした。」


「……そんなものを、なんで……なんで広めたんだよッ!」


ジョナの叫びが狭い部屋に響いた。

怒りとも悲しみともつかない声。


「すまない。

……でも、あれはもう僕がどうこうできる範疇じゃなくなった。広まりすぎたんだ。

国はこの事実を知っていて黙ってる。

だから僕は……旅に出た。

“友情“を止める為に。」


それを聞くとジョナは頭を抱えだした。


「……あいつが、最後に言ってたんだ。

“これであの子と繋がってられる”って。

それを信じて死んでいった。」


「お前はあいつの願いを叶えてくれた。

感謝してる!でも.......」


「…………。」


「……皮肉だな。」


ジョナは荒く息を吐いた。

拳を握りしめ、何度も開いては閉じた。

怒鳴りたい言葉は喉まで出かかっているのに、声にならないのだろう。

やがて、ジョナは天井を見つめ涙を浮かべながらかすかに笑った。


「……すまない。」


「...いいや、お前だけに責任があるわけじゃないだろう。

あいつだってあの装置が無くても実際そう長くはなかったんだ。

それに、お前が作った装置で、リィナみたいに救われた子だっているんだ。」


「それでも、罪は消えない。

ずっと自分を責めてるさ。死ぬまで責め続ける。

他の誰かが赦しても自分だけは赦せない赦しちゃいけないんだ。

そうじゃなきゃ、ノアが浮かばれない。」


「だから、止めてくれ。これ以上あいつやお前の娘みたいなのを生む前に。

お前にしかできないだろ。頼む。」


ジョナの声が震えていた。懇願と怒りと悲しみが混ざった音だった。


胸の中で言葉が渦巻き、でも出てくるのは短い呼吸だけだった。


「……わかった。必ず止める。」


過去は消えない。

だから今私ができる精一杯のことをしよう。


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