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1

娘の名を託した少年と別れてからしばらく経った後、私はある工業区に辿り着いた。


確かこのあたりに知り合いの工場があったはずだ。

2代目心律同期装置の数がそろそろ底をつきそうになってきたから、しばらく工場の一部を貸してもらえるように頼んだのだが。


私がぶらぶらと工場の間を歩いていると、

廃工場の隅から泣き声が聞こえた。


近寄ってみると、小さな女の子が、“友情”を胸に抱いていた。

私に気づくなり駆け寄ってきて泣きながら

「おじさん、これ、直せる?」


差し出したその装置は無色だった。


「……どこでこれを」


「お母さんが、遠い病院に入院する前これがあればずっと一緒にいられるってくれたの。

でも、色がなくなって……お父さんはお母さんもう帰ってこれなくなったって」


彼女の声が震えていた。


私は、目を背けたくなるほどの罪悪感に襲われた。


“友情“は生命力を吸う。

病に伏せたこの子の母親は残り少ない生命力を奪われたのだろう。

また、私のせいで人が死んだ。


私は女の子の頭に手を置き、静かに言った。

「これは……もう直せないよ」


「でも、でも、これがないと……お母さんと一緒にいられなくなっちゃう」


―――――


「それがあれば、パパと一緒にいられるの?」


私は笑って、ノアの小さな手に装置を握らせた。

「そうこれはね、離れていても“心が繋がっている”って証だよ」

「......パパ。

私は証じゃなくてパパにそばにいて欲しいよ」

「それは……」

「でも、パパが遠くにいっちゃうのは私のためだもんね。

パパ、早く帰ってきてね」


あのとき、行くのをやめたらよかったのだろうか。

仮初の愛情じゃなく側で愛を捧いていたらよかったのだろうか。

少なくとも、あの装置さえなければ......

ノアはあと三年は生きていた。


辞めよう。

それは結果論だ。

旅に出ていなかったら治療法を探せばよかったと後悔していただろう。

装置を作らず旅に出たら娘の死を知るのは死体が焼かれた後だっただろう。


―――――


「そんなことはないよ。

繋がりは消えない。

覚えている限り、お母さんは君の中に記憶として残る。」


私は少女の掌の上に、装置をそっと置いた。

すると、不思議と淡い金色の光が一瞬だけ灯った。

と同時に装置から微かなノイズが流れ、

その中に、人の声が混じっていた。


『……これを聞いてるってことは、お母さん、もう帰れなくなったってことだよね。』


『ごめんね、リィナ。

“これがあったらずっと一緒”なんて……嘘ついちゃって、ごめんね。』


『……お母さんに会いたいって思ってくれた時は、

この“友情“を、そっと握って。

お母さんずっとリィナのこと見てるから。』


『お父さんと仲良くするんだよ。

大好きだよ。リィナ。私の愛しい子。』


ノイズが少し強まり、

最後に“ピッ”という音を残して、装置は沈黙した。


彼女は涙を拭かずに、ただじっと装置を見つめていた。

「……お母さん?」


私は言葉を探したが、出てこなかった。


私はこの装置に録音機能をつけた覚えはない。

これはこの子と母親の絆が起こした奇跡か、はたまた......。


「リィナ! ……お前、またこんなところで……」


父親らしき男がこちらへ駆け寄ってきた。

袖は油で汚れ、工具を持った手が震えている。

その男の顔を見た瞬間、私は思わず目を見開いた。


「すいません、うちの娘が……って……おい、お前――エリオットじゃねぇか!?」


「……ジョナ?」


数秒の沈黙。

驚きと懐かしさ、そして罪悪感が入り混じった感情がどっと私の中に押し寄せた。


「ジョナの娘だったんか」


「ああ、そうだ。

嫁さんに似てお転婆で困ったもんだよ。すぐどっかに行っちまう。」


ジョナは泣きじゃくる娘を抱き上げながら、腕の中の装置に気づいた。

その瞬間、眉が少しだけ動く。


「……これ、お前いじったか?」


「いや。何もしてない。ただ、さっき録音が流れた。

この装置にそんな機能つけた覚えはない。

......ジョナだよな?」


ジョナは装置を見つめ、少し寂しそうに笑った。


「……あいつが、どうしても最後に“声だけでも残したい”って言うからな。

お前の設計、ほんの少しいじって録音機能を組み込んだんだ。

……あいつの“最後の願い”だった」


「……そうか」


「こんなことできたのはお前の音声認識機能の設計が完璧だったからだ。

なんて言うか、ほんとにありがとな。」


私は言葉を失ったまま、その子の握りしめる装置を見つめた。


この子の母親を殺したのは私だ。

しかし、その母親の最後の願いを叶えられたのも私だった。


このことで自分の罪が軽くなるなんて思えるほど甘えた人間ではない。

しかし、やはり私も科学者の端くれ。

自分の作った物が誰かの役に立ち感謝されるのはただただ嬉しかった。


ノア、君の愚かな父親がこの感情を抱くことをどうか許してはくれないだろうか。





読んでくださってありがとうございます!

続きも少しずつ更新していきます。

面白かったらポイントや感想いただけると嬉しいです。




ここからしばらく工業区での話になります。




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