美しいものが大好きな王妃と面白いことが大好きな国王とそんな二人の間に生まれた王女
その頃王宮では談話室に集まった三人が今日の出会いについて語らっていた。
「ユリアナもメリッサ様も美しかったわ。だから一目で大好きになったの。お話も合うからもっと好きになったわ。二人が来てくれて嬉しいわ。
メリッサ様を今度お茶会に誘っても良いかしら?」
ミカエラが両手を握り合わせて夫であるエドウィンに聞く。
「それはもちろん良いに決まっている。だがメリッサ殿はまだ慣れてないだろうから個人的なものにした方が良いだろう」
「そうね。ユリアナとメリッサ様と三人でお茶会。素敵ね!」
パッと顔が明るくなったミカエラに娘であるマレーナが文句を言う。
「お母様!何故私は呼んでくれないの?
私だってあんな可愛らしいお義姉様ができて喜んでいるのよ!ズルいわ!」
「あら、謁見中、マレーナはずっと不機嫌な顔をしていたからお母様は嫌なのかと思っていたわ」
「そんなわけないじゃない!晩餐の時もお義姉様とたくさんお話したもの!」
「うふふ。嘘よ。不機嫌だったのはおまけがいたからよね。お母様だってちゃんとあなたのことはわかっているわ。お茶会にもちゃんと呼ぶから安心なさい」
「約束よ!」
マレーナが両腰に手を当てて言っているのを見てエドウィンが苦笑している。
「まだまだ子どもだな。そんなんじゃミカエラにいつまでたっても勝てないぞ」
「もう!お父様まで!」
「それにしても、ガーナット王国の王家の色を全て持つ王女をよくガーナット国王は直ぐに他国に嫁がせたわね。
実際に見てより思ったわ。あんなに愛らしくて美しい王女を手放すだなんて。私なら考えられないわ」
ミカエラが片手を頬に当てて首を傾げる。
「それについては色々調べたんだよ。ガーナット王国では色々大変な思いをメリッサ殿はされたようだ。
王妃の生んだ長男も王家の全ての色を持って生まれたが、そもそも王妃の実家の公爵家は、何代か前に王女が降嫁していて、王妃の目は王家の色のエメラルド色なんだよ。
だから全てじゃなくても王家の色を持って生まれてくるだろうと思われていて、見事に王妃は全ての色を持つ王子を生んだというわけだ。
王家の色を持っている方が国民に好かれて喜ばれるそうだ。
その後に生まれた王子の中に全ての色を持つ子どもはいなかったから後継問題も揉めることはなかった。
しかし王女が欲しかった国王が、側妃としてメリッサ殿を娶り、王家との繋がりもなく、似た色さえ本人も家族も持っていない中、全ての色を持ってユリアナは生まれた。国王はとても喜んだそうだ。
その後他の側妃も王女を生んだがユリアナのような王女は生まれなかった。その為にメリッサ殿は苦労をすることになる。
嫉妬とは実に怖いものだ。メリッサ殿は何らかの薬を盛られて2人目の子どもを流産したそうだ。犯人は今も分かっていない。
食べ物が怖くなったメリッサ殿は小さな邸に住んで、自ら食事を作り、洗濯や掃除もしていたそうだよ。それくらいしなければメリッサ殿もユリアナも無事ではいられない状況だったんだろうな。
ガーナット国王からの親書にはユリアナだけではなくメリッサ殿についても書かれていた」
説明を終えたエドウィンが蒸留酒を一口飲んだ。
「まあ!益々大切にしないと!お国柄で王家の色を持つ子どもが喜ばれると言っても、そんなところに大切な娘と妻は置いておけないわね。
何が大切かガーナット国王はお分かりなのね」
「素敵!国の為より愛する娘の安全を選ぶだなんて!うちに来て良かったって思ってもらえるようにしないと!」
マレーナが感激したようにくるくる回る。
「ねえ。メリッサ様は今は実家の子爵家の当主の妹という肩書よね?一応貴族席に戻った形で。
でも、この国で私の側で友人としてずっといてもらう為には少し弱いわね。いくら王太子妃の母と言えどぐだぐだ言う面倒な人が出てくるわ。
何とかならないかしら?私はもっとメリッサ様と仲良くしたいの」
「そうだな。とりあえず、まずはうちの国の国籍を取ってもらうことだな。他国の子爵家よりは王太子妃の母だけの方が肩書としては良い。本人次第だがな。
メリッサ殿はガーナット国王をとても愛しているから、離婚したとはいえ国籍を変えることに何と言うか」
「そうね。無理は言えないわ。嫌われたくないもの。あの美しい紫の髪。羨ましいわ。それに笑ったお顔も柔らかくて品があって、ずっと見ていられるし、お話もとても合って楽しかったわ。
何とか考えないと。あなたも手伝って」
「もちろんだ。愛する妻のためなら手を尽くそう」
「まあ!ありがとう!」
そう言ってミカエラはエドウィンの頬に口付けた。
「いい年して娘の前で恥ずかしくないの?お母様はいつまでも新婚気分なんだから」
「あら、仲の悪い夫婦の間で生活するより良いでしょ?娘孝行だと思わない?」
「はあ。まあでも私もお母様の意見には賛成だわ。その話を聞くと、お義姉様もお母様が同じ国籍になる方がきっと安心なさるわ。他国の人間に危害を加えようとはさすがにしないでしょうし。
それにしても、あのお兄様がよくあんな素敵な方を見つけてきたわね。しかも見つけるだけじゃなく、ちゃんと自分を好きにさせてるだなんて、褒めてあげないと」
「それはそうよね!あの真面目で無愛想な息子がよくあんな素敵な女性を落とせたと思ってお母様も驚いちゃったわ。育て方を間違えたかと心配してたけど、間違ってなかったって安心したのよ」
「ねえ、ところでお父様。王太子妃試験て何をするの?」
マレーナが話を変えて聞く。
「学園で使うインデスター王国の歴史の教科書を渡す。もちろんそれぞれに講師もつけるが、二週間何度も読めば粗方覚えられるものだ。
試験も多少は難しいが、ちゃんと勉強していれば解ける」
「それでは三人とも点数がよくなるんじゃない?嫌よ、私、あのおまけの二人が義姉になるなんて!」
「言っただろ?ちゃんと勉強すればだと」
「まあ!何かするつもりね?」
「直接何もしないさ。二人が二週間どう過ごすか、ということだ」
「何それ?面白そうね。あの二人には関わりたくないけど、私も何か仕掛けを考えようかしら?」
「仕掛けなんて言ってはダメよ。本人が望んで選ばないといけないわ」
「あー、でもお義姉様の邪魔をしそうなのがいるわね」
「あら、それって愚息のことかしら?」
「そうとも言うわね。ベタ惚れのお兄様がお義姉様の勉強の邪魔をしなければ良いんだけど」
「そうねえ。そっちも対策を取らないと」
「でしょ?」
「素敵な義娘と友人を手に入れる為に私たちは共同作戦するわよ!」
「もちろんよ!お母様!」
「やり過ぎるなよ。二人とも。私だって考えているんだから。
国家間の決め事を軽んじる二人には考えを改めさせないとな」
「何よ。あなたが一番楽しそうじゃない」
「嫌だわお父様。大目に見てあげないと」
「マレーナこそ大目に見る気なんてないだろ?おまえは私に似ているからな」
「褒め言葉だと思っておくわ」
そんな不穏な話を楽しくする一家の夜は深夜まで続くのだった。