表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

その後の王女と元側妃と前国王

 ユリアナがミカルを産んでから一年。現在絶賛ユリアナは妊娠中だ。安定期に入っているので母と二人、港で船を待っていた。父がいよいよやってくるのだ。敢えてアルフォンスもミカルも母の邸でお留守番をさせた。港に長居するわけにいかないからだ。

「お母様。船が見えて来たわ。あれね。紋章が書いてある!」

「本当だわ」

 そんな母を見ると顔が固い。 

「何?お母様緊張してるの?」

「ちょっとね。久しぶりにお会いすると思うと」

「大丈夫よ。お母様は今も綺麗だわ。お父様もそう思うわよ」

「そ、そんなこと言っているんじゃなくて、ちょっと緊張しているだけよ」

「ふふふ。そう言うことにしておきましょう」

 ユリアナは護衛に囲まれながら離れたところから手を振る国民たちに手を振り返していた。王太子妃が来ると国民たちが待っていたのだ。笑顔で手を振る姿に国民たちから歓声が上がる。

「慣れたものだわ。すっかり立派な王太子妃ね」

「そう?王女の頃から変わらないと思うけど」

「そんなことないわ。全然違うもの。まず堂々とできるようになったわね。心にゆとりが感じられるし。大人の色気も出て来たんじゃないの?」

「え?そう?色気ある?私ないんじゃないかと思って。体も小さいし方だし。胸もそんなにねぇ・・・」

 ユリアナが頬を触ったり腰を触ったりしていると母が笑いだした。

「触ってもわからないわよ。人が見て思うものだもの。フレデリク様もきっと気付かれているわね。この前の王家主催の舞踏会もユリアナにダンスを申し込もうとしている貴族たちをけん制なさっていたわ。愛されているわね」

「そうね。自分でもそう思う」

 ユリアナは嬉しくて笑った。

「あらあら、惚気ちゃって」

 そんな話をしているうちに船が着岸し、しばらく待つと父が降りてくるのが見えた。

「お父様!」

 ユリアナは駆け出すと父に抱きついた。

「ユリアナ。久しぶりだな。だが、妊娠中だろ?走ってはいけない」

「これくらい大丈夫。それよりお父様が元気そうで良かったわ」

 前ガーナット国王の来訪にインデスタ―王国の国民たちが拍手をしている。その中をユリアナは父の手を取り歩いた。同じ色の親子が揃って歩く姿に見物に来ていた国民が感嘆の声を上げている。

 そして母の前まで来た。

「メリッサ。息災か?」

「はい。アルベルト様もお元気そうで何よりでございます」

 二人はしばし見つめ合っていた。

「ほら、早く邸に行くわよ」

 ユリアナに言われて我に返った両親が少し恥ずかしそうに歩き出した。ユリアナはその後ろを手を振りながら歩いて行く。時々おめでとうございますと祝福の声が聞こえ、第二子を待つ国民の期待に添えるようユリアナは更に笑顔で応えた。


 あの事件から一年と数か月。無事父は退位し、ブラームの戴冠式が行われた。国民は何があったか知らない。ただ、王妃は病で起き上がることができないとなっている。父が王妃の退位を宣言すると共に自身の退位も宣言し、新しい世代への交代を国民に伝えた。国民は父の退位を惜しんだが、それ以上に戴冠式を行うことの方に気持ちが流れて王妃の突然の病について誰も話もしなくなった。

 賢王だったアルベルト国王に続き、ブラームも期待されている。

 そして新たに王妃になったカルラは王子を産んだ。ブラームそっくりの王子で、全て王家の色を持っているそうだ。そのことで安心したカルラは、ブラームに戴冠式後に側妃を娶るように促したそうだ。ガーナット王国ではそれが求められる。カルラ一人では背負いきれないのだ。国民は王族が多いのを望むから。

 そこでまずは一人側妃を娶ることになったらしい。それはカルラからの手紙で知った。不安はあるが、自分が王妃として側妃たちを見て行くと書かれていた。

 第二王子は結婚し臣下に下った。第三王子も結婚し、王族としてブラームを支えるそうだ。 

 そしてフランカとラウラの結婚が決まった。

 フランカは王族に残り婿をもらう。伯爵家の長男で近衛騎士をしていた少し年上の人らしい。ヘルディナが襲われた時に、伝令として馬で駆けるフランカを護衛していたそうだ。その馬を駆る姿がカッコイイと、後日フランカが熱烈に求愛し続け結婚に至った。嫁入りではなく、フランカは王家としてやりたいことがたくさんあると言って婿に来て欲しいと頼んだそうだ。伯爵家を継ぐはずが王家に入ることになり、年の離れた妹が急遽跡継ぎになることで伯爵家は受け入れたらしい。

 そしてラウラは降嫁する。伝令として謁見の間で話しているラウラを見ていた中立派の侯爵家の当主が、我が息子のところに嫁いで欲しいと申し出たらしい。息子は物静かで中々良縁がまとまらない。是非ラウラをと父に歎願し、とりあえず様子見ということで顔合わせをしたところ、ラウラは運命を感じたそうだ。この人だと。今では二人で毎週出掛けているらしい。これはそれぞれからの手紙で知った。最近は手紙でやりとりをしているのだ。

 残るは第四王子と第五王子。父が相手を探しているそうだが、二人ともモテるので問題ないとフランカの手紙に書かれていた。

 兄妹それぞれの新しい道が決まっていく。そこから新しく歩きだすのだ。ユリアナもまだまだ王太子妃として足らないところがあるので頑張らないとと思っている。


 母の邸に着くとイングリッドが出迎えに出ていた。

「前ガーナット国王陛下、アルベルト様にご挨拶申し上げます。アレリード伯爵家当主イングリッドでございます。メリッサの義母としてメリッサを守ることをお約束致します」

 イングリッドが最敬礼した。

「アレリード伯爵には感謝している。メリッサもユリアナも、あなたといると楽しい気持ちになると言っていた。それはあなたに人を惹きつける魅力があるからだろう。おかげで、二人とも寂しさと無縁の生活がおくれている。お礼にこちらを」

 父が侍従に持たさせていた鞄から箱を出した。そして父が箱を開ける。中には煌めくダイヤの台座の上にピンクダイヤモンドで作られた薔薇の花がいくつも咲いていた。

「まあ綺麗!ありがとうございます。大切にしますわ。あら、私ったら。中へどうぞ」

 そして応接室に案内されると、そこにはアルフォンスがマットの上に座り積み木で遊び、ミカルが座ってそれを見ていた。

 父がそこに近づき声を掛ける。

「初めまして。アルフォンス、ミカル。私はアルベルトだ。アルフォンスの父だ」

 その言葉にアルフォンスが首を傾げる。

「アルフォンスのお父様が今日来るって言ったでしょ?なんて言うんだった?」

 ユリアナが言うとアルフォンスがニコッと笑った。

「ちちうえ」

「そうだ!私はアルフォンスの父だぞ」

 そう言ってアルフォンスを抱き上げる。アルフォンスはきゃっきゃっと喜んでいる。それにミカルがうーうーと自分も手を伸ばしている。アルベルトは片方の腕にアルフォンス。もう片方にミカルを抱き上げた。二人とも喜んでいるようで、アルフォンスはちちうえと何度も言っている。

 そしてミカルも一緒になって、ちちうえと言い出したので慌てて止めさせた。

「ミカル。ミカルのお祖父様ですよ」

「ちちうえ?」

「違う違う。お祖父様」

 フレデリクが聞いたら泣きそうな話だが、フレデリクは自分のことをお父様と呼ばせているから、父上という言葉が何かわかっていないのだろう。

「おじい」

「そうそう。頑張って。おじいさま」

「おじい」

「おじいで良い。無理矢理言わしても可哀想だ」

「おじい」

「そうだぞ」

「ちちうえ」

「そうだ。合っている」

 そんな会話をしていて、フレデリクより余程慣れている。さすがに子沢山の父親だ。

「可愛いな。アルフォンス。大きくなって母を支えるのだぞ」

「あい」

 何を言われているのかわからないだろうに何となく答えてるのだろう。

「ミカル。強く育て」

「うー」

 一応答えているように見える。

「こうやって、息子と孫を一緒に抱けるとは思わなかった。ありがとうメリッサ。ユリアナ」

「さあさあ、お座りになってください」

 イングリッドが促し全員が席に着いた。父はまだ腕に二人を抱えている。二人も初対面のはずなのに泣きもしないし嫌がりもしない。感じるものが幼いながらもあるのかもしれない。

「メリッサ。苦労をかけた。そして、処罰が甘くて申し訳ない」

「いいえ。アルベルト様のお側にいられてとても幸せでした。今も離れて暮らしていても幸せなことには変わりありません。こうしてユリアナとアルフォンスというアルベルト様の子がいるのですもの。

 アルフォンスがもう少し大きくなって出来事がきちんと記憶に残るようになったら、ガーナット王国を訪ねます。魂の故郷ですからね。きちんと見せておこうと思っています」

「ああ。楽しみにしている。だが私は毎年来るぞ。側妃たちに少なくても年に一度はメリッサのところに行くように命じられた。側妃たちなりのメリッサへの謝罪と、振り切れた感情があるのだろう。

 エステルなど、半年いなくても良いとか言っているからな。それは仕事があるからできないと言うと、仕事くらい自分たちが代わりにやると言われた。さすがに半年は無理だが滞在の期間は今回より延ばすつもりだ。折角言ってくれているのだからな。甘えるところは甘えようかと思っている」

 父が嬉しそうに語っている。側妃たちとの関係が良好なのだろう。母も嬉しそうだ。

 和やかに歓談が進み、笑いに溢れる再会となった。

 辛いこともたくさんあった。悲しいこともたくさんあった。しかし母と共に乗り越えてきた。

 これからもそれは変わらない。大切な人と共にいる為にユリアナは笑顔でい続けようと思った。


「ラディーナ。お父様が帰ったぞ」

「おとうしゃま!!」

 フレデリクが抱き上げると大喜びしているのは二人目の子だ。元気な女の子で水色の髪に紫の目をしている。ミカルと違って生まれた時からフレデリクが大好きなようだ。それにフレデリクはデレデレとし、頬ずりばかりしていたものだ。

「父上!」

 ミカルはフレデリクにラディーナを返せと言っているのだ。自分と遊んでいたのだと。

 ミカルは四歳。ラディーナをはもうすぐ三歳になる。そしてユリアナの腕の中には生まれて半年の第二王子ランディーがいる。

 イングリッドが本当に5人くらい産みそうねと言って笑っていた。

 あれから四年。アレッタが子どもを一人産んだ。そして、なんと母ももう一人産んだのだ。女の子を。父は年に二回ほど訪れるのだが、その度に母の邸に泊まる。再会した年になんと母が妊娠し、ちょうどその頃アレッタの妊娠も発覚し、アレリード伯爵家は大忙しになった。

「私の引退がまた遠のいたわ」

 そう言いながらイングリッドが楽しそうにしていたのを覚えている。

 今はほぼ母に引継ぎが終わり。半年後には伯爵位も母が継ぐ。それから母は仕事をしに王城に通う日々が始まるのだ。領地の経営は前から任せれていたので問題ないと言っていた。イングリッドはやっと完全に引退できると喜び、引退したら孫たちとたくさん遊ぶのだと嬉しそうに語っていた。

 一瞬で恋に落ち、今も愛しいフレデリクの元に嫁げて良かったとユリアナは思っている。幸せが次々訪れる日々が嬉しくて堪らない。フレデリクも同じだと言ってくれている。

 毎晩『愛している』と言ってくれるフレデリクに『私も』と答えるのが日課だ。子どもたちが増えて愛情は増すばかり。

 過去は過去。今は今。

 ユリアナは幸せを感じながら、子どもたちと遊ぶ夫を見つめ続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ