発見をする王女と活躍する王女たち
謁見の日、マレーナは外務大臣と朝は視察に行っていた。あくまでも視察が目的だと周囲の王妃の手先に見せなければならないからだ。
そこで王都で一番大きなオルゴール工房を視察しに来た。直売店もあり、そこを見ていると見たことがあるものを見つけた。
「ねえ。これ凄く綺麗だけど人気はあるの?」
「そうですね。お値段もお手頃ですし、その割に見た目が綺麗ですから、男性から恋人に渡すのによく買われますね。色違いもたくさんありますからね。そういった包装をよくします。
でもご令嬢のような方がお持ちになるには些か安いかと。庶民が恋人に贈る程のお値段なので」
マレーナは手に持ちじっと見つめた。ガラスでできたうさぎが乗っているオルゴールだ。色は8色。マレーナが見たものは赤色だった。今手に取っているのも同じ赤色だ。
「色に意味はあるの?」
「特にこざいません。大概がお相手の目の色や、自分の髪の色などを選ばれます」
「赤色の目や髪は一般的にこの国にはいるのかしら?」
「そうですね。赤色の目は見たことはありませんね。髪はいますよ。まあ、ですから赤の需要は少ないですね。ただ工房長の奥様が赤色の髪なので作っています」
何とも愛情深い話だ。
「素敵なお話ね。工房長を応援したくなったからこれをいただくわ。とっても可愛いもの。そうだ!全色買って友人に渡すわ。あ、私は旅行で来ているのよ。ねえ、これ。玩具よね?」
「はい。オルゴールがなっている間くるくると回って、ぶら下がっている鳥たちが飛んでいるように見えるんです」
「じゃあこれもいただくわ。それから、これとこれとこれもお願い。あー、あれも」
「ありがとうございます!」
マレーナは近くに見張りがいるように感じていた。マレーナが入ってきた時から視線がついて回っているのだ。王妃の手の者かもしれない。
そう思ってマレーナはここで大盤振る舞いをしたのだ。目的は赤色のうさぎのオルゴールだけ。それだけを買うと疑われるのでたくさん買ったのだ。可愛いオルゴールを大量に買う王女に見えるように。
オルゴールはマレーナ付きの侍女やメイドに配れば直ぐになくなる。良いお土産にもなった。
良いものを買えたとマレーナはご満悦そうに振る舞い、宿泊施設まで運んて欲しいことを伝えて工房を後にした。
宿泊施設に戻ると謁見の準備だ。忙しいったらないが今日で終わらすのだ。そして新たな両国の関係が築かれる。マレーナは重責を感じながら着替えをした。
「こんな朝早くからどちらに行かれるのですか?」
フランカが出掛けようとして声をかけてきたのは侍女だ。名前は知らない。母がいなくなって自分が邸に戻るといたのだ。兄に聞くと、母が数人侍女を連れて行ったから、よく働く侍女だからと王妃に紹介されたそうだ。
その時は何も思わなかったが、後から見るとよく働くと聞いていた割にはそうでもない。元々いた侍女やメイドたちの方が余程働く。
フランカの側にいたり、邸をフラフラしたり。今思えば王妃の見張りなのだろう。バカ正直な兄は簡単に人を信じてしまう。それか、受け入れないとならない雰囲気だったのか。あの兄なら両方考えられる。
現状フランカたち兄妹の生活が筒抜けなのだ。
「ラウラと出掛けるの」
「どちらにと聞いているのです」
「何その言い方?あなた侍女でしょ?私の家庭教師でも母親でもないのに。尋問されているみたいで気分が悪いわ。私は王女よ。言葉遣いには気をつけなさい」
侍女が冷たい視線をよこしてくる。
「とちらにお出かけになるのですか?」
少し言葉を変えてもその顔で言われれば不快なのに変わりはない。
「大衆浴場よ」
「王女ともあろう方がそんな場所へなんて認めることはできません」
「わかってないわね。あなたが認める必要はないの。私の行動は私が決めるの。
庶民は朝仕事の前に大衆浴場に行ってから行く人が多いんですって。洗髪専門の人もいて髪を洗った後乾かすところまでしてくれるらしいわ。もちろん別料金だけど。あなたは知ってる?」
「そんなもの存じ上げません。王女が知る必要はありませんからおやめください」
「庶民の生活を知るのも必要よ。その後はマレーナ様に紹介してもらったパン屋に行くの。
焼き立てのパンがたくさんあって、お店の中で食べることもできるらしいわ」
「そんなことの為にこんな時間から出掛ける必要はこざいません。邸で朝食を召し上がってください」
「そんなこと?庶民の生活を知るには自分が体験した方が良いわ。改善点も見つかるかもしれないし」
「いいえ。本日は外出禁止です。王女ともあろう方がそのような場所に行かれるなど恥ずかしい」
「聞き捨てならないわね。それは私のことが恥ずかしいと言っているの?」
「そういうわけではありませんが、行動には気をつけていただかないと」
「第一、あなたに外出を禁止される覚えはないわ。この邸に来て一年ほどでしょ?何故そんなに偉そうなの?
あなた気付いてる?さっきから私のこと、王女って呼んでるわよ。邸の他の人は王女殿下、フランカ殿下、私付き侍女はフランカ様。王女、なんて呼んでいるのはあなただけ。
私のことバカにしてるの?解雇しようかしら」
「私は王妃殿下からこの邸の助けをするようにと言われて来ました。解雇の権限はフランカ殿下にはありません」
「あらそう?ならシーラ様に言うわ。使えない侍女は引き取るか解雇してって。それで良いでしょ?」
フランカはラウラを迎えに行くために扉を開けた。後ろは振り返らない。きっと悔しそうにしているだろう。それでも止めに入れないのは身分があるからだ。言葉で止めようとすることはできても実力行使はできない。フランカは王女なのだ。簡単に触れて良い相手ではない。
触れればそれこそシーラではなく父親に報告するのみだ。
フランカはラウラを迎えに行くと、ラウラと侍女が同じような問答をしていた。ここまで来るとあからさま過ぎて笑えてくる。
ここまで監視をしなくてはならないのか。自分たちはただの王女だ。そんなに神経を尖らす必要はないだろうに。
二人は馬車に乗ると城下へと向かった。街中の馬車止で場所を下りると御者に二人で遊んで帰るから、迎えは4時にこの場所に来るようにと伝えた。
もちろん、来ても二人はいないのだが。
二人は後ろを気にしながらいくつもの角を曲がって歩き、追っ手がいないことを確認すると走った。そして目的地に着くと直ぐに馬車に乗り込んだ。
馬車は動き出す。ヘルディナが通るだろう道へ。ちょうどその道に合流する時にヘルディナの乗った馬車が通っていった。ラウラは御者にあの場所だと告げる。目印として決めていた青いハンカチが馬車の窓からはみ出していたのだ。
「王女殿下たちはくれぐれも無理はなさらないでください」
ガーナット王国の捜査責任者が告げる。
「大丈夫よ。自分たちの役割だけするわ。一応わきまえているのよ」
「そうよ。もうおバカな王女じゃないもの」
そう言って二人は笑った。途中仲間に合図を送り、フランカたちの馬車はヘルディナの馬車と距離を置く。それを繰り返すこと4回。そろそろ事故があった場所に近づくのでどの馬車もヘルディナの馬車から離れた。
しばらく止まって待つ。そして二十分経った頃にヘルディナを追いかけた。
ヘルディナの馬車は止まりそこでは地に倒れ伏す男たちが数人。そしてその中にはうずくまるヘルディナの姿があった。立っているのはいずれもガーナット王国軍の制服を着ている。
「大丈夫。味方です」
その言葉でフランカとラウラは馬車を飛び出しヘルディナの元へ向かった。
「ヘルディナ様!」
「ありがとう。助かったわ」
そう言ってヘルディナがラウラとフランカに縋り付いた。フランカはその背を撫でた後立ち上がり倒れている男たちに聞いた。
「誰の命令でこんなことをしたの?」
答えるものはいない。
「その服。シーラ様のご実家の警備隊のものではないわね。雇われ兵士?」
誰も喋らない。
「答えられないわけ?」
「ぐぅわ!」
フランカは近くの男の頭を踏みつけた。もちろんヒールで。
「雇われだったら素直に答えれば少しは罪が軽くなるかもね」
「ぐぅえぇ!」
今度は手の甲を思い切り踏みつける。
「何と言って雇われたの?早く言いなさい!」
「ぐぅはっ!がっ!がっ!」
フランカは別の男の頭を何度も踏みつけた。
「言いますから許してください!」
とうとう別の男が先に折れた。
「さっさとそう言っていればこんな怪我しなくて良かったのに」
「本当ね。おバカさんたちだわ。この状況で逃げられると思ったの?」
「ぐぇっ!」
ラウラが立ち上がり、近くの男たちの体を踏みつけながらフランカの元にやってくる。
「この国で最強なのは私たちなの。覚えておきなさい!」
「はい!!」
そう言う男たちから聞いた話はやはりとんでもないもので、ヘルディナは気を失い、フランカたちは怒りに燃えた。
「さあ、急いで帰るわよ!」
フランカとラウラはそれぞれ護衛から受け取った馬に乗り道を駆け出した。もちろん他の護衛も付いていく。
犯人たちを馬車に詰め込み、ヘルディナは一人馬車に寝かせて王城へと戻るために急いのだった。




