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いよいよ結婚式を迎える王女とそれを見守る母

 ユリアナはいよいよ結婚式当日を迎えた。この約半年様々なことがあった。

 アレッタの結婚式では母が号泣し、なだめるのに大変だったり、内輪の披露宴ではイングリッドまで泣き出した為、ユリアナはずっとなだめていた。

 そんなアレッタのウェディングドレス姿は美しく、ビリスが美しい美しいと号泣し、家族からなだめられていた。

 アレッタは開き直ったのかビリスとの生活をそれなりに楽しんでいるようだ。二人とも邸内に自室を持ったままそこで生活しており、夫婦らしい生活は、テレサが休みが合うようにしてくれていて、時折一緒に出かけたりして過ごしているようだ。

 母のお腹の子どもは順調に育っている。驚くべきことに、典医の娘の女性専門のお医者様が言うには、流産は間違いないが、二度と妊娠できない体というのは誤診だろうとのことだった。

 それか、そういうことにして、国王の関心を無くそうとする為につかされた嘘かのどちらかだとはっきり言われた。

 しかし父の愛情は変わらなかったのにその後も妊娠しなかったのは、毒物事件後の極度の緊張状態での生活、日々常に気を張る生活を送っていた母では、体も精神的にも気付かないうちに疲弊し落ち着かず、妊娠が難しかったのだろうとのことだった。

 ユリアナの結婚が決まり、自分もユリアナに付いて国を出ることにしたことで、緊張状態が解れ、体が動き出し妊娠したのではないか、とのことだった。だから安心して産めば良いと。

 今の生活環境なら無理さえしなければ無事に出産できるように自分が対応すると約束してくれた。

 そのことで母は泣き、ユリアナもまた涙した。どれほどの負担を母にかけていたのかと思うと、犯人たちが憎くて堪らなかった。

 しかももし医師に嘘をつかせたのだとしたら、確実に犯人が誰かわかるだろうに、母はそのことを父に伝えることはしないと言った。

 無事に産まれて落ち着いた頃に手紙で産まれたことだけを伝えるそうだ。

 今は伯爵家を継ぐための勉強を無理しない程度に少しずつ始めている。

 ユリアナは公務に王太子妃教育にと忙しくしながらも、間に母の元を訪れたり、マレーナと出かけたり、ミカエラとお茶をしたりと充実した生活を送り、フレデリクとは毎日触れ合い愛を確かめあった。

 そして今、ユリアナの花嫁姿が完成した。

 ドレスはフレデリクの意見を取り入れ少し可愛らしいデザインになってしまった。腰の後ろに大きなリボンがついていて、裾も後ろに長く、その裾の先までリボンの紐が続いている。

 一度試着したら胸元の谷間が少し見えてしまい、フレデリクが隠すようにと仕立て屋に指示を出し、布の薔薇の花がぐるりと一周付けられたデザインになった。

 髪はハーフアップでミカエラから貰ったティアラを着けている。母国では髪を上げることができなかったが、ここではしても良いかと思い全てアップしてもらった髪型にしてフレデリクに見せたら、全て下ろすかハーフアップ以外は認めないと言われた。

 ユリアナの白くて華奢なうなじを誰にも見せたくないと言うのだ。これでは一生髪を上げることが叶わないと思ったが、自分も髪がなくて首が寒くて落ち着かないから受け入れることにした。

 そして白い薔薇のブーケを持ったところで軽いノックの音が聞こえ、振り向くとフレデリクが迎えに来ていた。

「ユリアナ。準備はできた?」

 近付いてきたフレデリクがユリアナの指先に口付けた。

「はい」

「では行こうか」

 ユリアナはフレデリクの後ろに続いた。

 式は王都で一番大きな大聖堂で行われる。貴族や近隣の友好国の王族たちが参列していて緊張するが、それより緊張していることがユリアナにはあった。

 母のお腹が目立つようになってきて、実は表立って参列することができないのだ。当然ガーナット王国からも参列者が来ている。今回来たのは王太子夫妻だ。義兄とは関係が良いとも悪いとも言えない。あまり接点がないから。

 ただ、全員が集まった時に、父が来る前に妹たちから何かと言われているのを何度か注意してもらった。そして兄弟の中で一番似ている。

 全ての色を持つ王太子。顔立ちは王妃に似ているが、他の兄弟に比べてやはり似いるなと思ってしまう。

 そんな義兄夫婦に知られてはならないと、式が始まる直前に、一番後ろにお腹が目立たないドレスを着て座ることになっている。

 披露宴には出席せず式が終われば直ぐに帰るのだ。体調不良ということで。

 母はそれを残念がったが、身の安全を第一に考えて欲しいと頼んだ。

 万が一王妃に知られるようなことがあってはならないからだ。

 扉の前まで来た。やっとこの日を迎えた。王太子妃としての始まりと、フレデリクの妻としての始まりだ。この国の国民の為に尽くし、フレデリクと共に歩む。そしてしっかりとして母を安心させたい。

 隣に立つフレデリクを見上げた。

「フレデリク様。愛しています」

 ユリアナが言うと頬に口付けをしてくれた。

「僕も愛している」

 この半年で二人の仲は一層深まった。色々なことを話し合い、一緒に公務もした。

 そしてお互いを更に知り、変わることのない愛を確かめ合った。

 扉が開かれ聖霊リューディアとスティーナの像の前へと二人で進む。長い距離がある。入って直ぐの場所に母が座ってユリアナを見ているのに気付きそれに目で答えた。母の目から涙が溢れ、その横に座っていたイングリッドに肩を抱かれ労われていた。

 ゆっくりと一歩ずつ踏みしめながら歩き像の前まで来た。

 二人は像の前で互いを慈しみ合うことを誓い、永遠の愛も誓う。結婚宣誓書にサインをし、向かい合うと互いに指輪を嵌める時になった。

 この指輪はフレデリクと街に行き選んだもので、ユリアナのは金にアメジストが嵌め込まれ、フレデリクのは金にエメラルドが嵌め込まれていてその他のデザインは同じだ。

 ユリアナはフレデリクの指にそっと嵌めた。大きな手で指も剣術の鍛錬のせいか、太くてゴツゴツしている。父以外の男性の手など間近で見たことがなく、フレデリクとは何度も手を繋いだはずなのに、改めて男の人の手だなあと思いながら、安心感を感じてそっとその手の甲を撫でた。

 少し驚いた顔をしたフレデリクと目が合いユリアナは頬を染めた。

 そしてユリアナの指先に口付けをしたフレデリクがユリアナの白い指に指輪を嵌め、その指輪に口付けを落とすとそっとユリアナの頬に手を当てる。

 ユリアナはそっと目を閉じて待つと、フレデリクが軽く触れるだけの口付けをし、ユリアナが目を開けると額にも口付けしてくれた。

 二人が聖霊リューディアとスティーナの像に背を向け来客たちの方を向くと、大きな拍手が沸き起こった。

 義兄たちの方に目をやると、義兄夫婦も笑って手を叩いてくれていたことにユリアナはほっとし、扉の方を見るとそっと出て行く母の後ろ姿が見えた。義兄夫婦がこちらを見ているうちに出て行けて良かった。出産前にガーナット王国に知られるわけにはいかない。

 ユリアナは視線が自分に集まるように、母がいないことに気付かれないようにと、左右に笑顔で手を振り、長い水色の髪を靡かせて歩いた。

 その姿に拍手する者、うっとりする者様々いて、腕を絡ませて横を歩くフレデリクが、途中から肩を抱き歩き始めたのにも気付かなかった。

 最後に扉の前で向き直るとフレデリクの手がユリアナの腰に回り、二人でお辞儀をして聖堂を後にし、そのまま披露宴会場となる王城へと向かった。馬車の中でフレデリクが少し不機嫌そうで、何か落ち度があったかと不安に思いユリアナは尋ねた。

「私、何かフレデリク様のお心に添わないことをしたでしょうか?」

 すると向かい合って座っていたフレデリクがユリアナの横に座り肩を抱いた。

「すまない。ユリアナは何も悪くない。僕が狭量だっただけだ。多くの貴族や他国の関係者がユリアナに見惚れているのに気付いて、僕の妻をそんな目で見るな、僕の妻だと見せつけたくなった。

 誰にもユリアナを見せたくないと思って、今は披露宴を止めようかと考えてしまっていた」

「私はフレデリク様だけの妻ですよ」

「ああ。わかっているんだが、どうしてもユリアナを見せたくないと思ってしまったんだ。呆れたか?」

 この半年で今更である。

「いいえ。フレデリク様が私を愛してくださっている証拠ですからね。呆れたりしませんよ。

 でも、披露宴はちゃんとしましょうね」

「わかった。善処する」

「そうしてください。多くの方が来られますから私たちがいない、なんてことにはできませんよ」

 そうやって話しているうちに王城に着き、控室に移動すると次は急いで着替えをしなければならない。

 白いドレスに全面に銀糸で刺繍が施され、鎖骨の下まできっちりと覆われているデザインで、大きなアメジストのペンダントトップが付いたペンダントを着け、耳にも同じデザインの耳飾り、髪には大玉のアメジストの簪を刺して完成だ。

 そこにフレデリクが迎えに来て似合う似合う、綺麗だと褒めてくれた。披露宴のドレスはユリアナが自分で選びたいとフレデリクに伝え、フレデリクに一切前もって見せなかったのだ。

 フレデリクがどんなのを着れば喜ぶかユリアナは早々に気付いたので、仕立て屋と相談して直ぐに作り始めてもらった。

 そして着けている宝飾品は全てこの半年でフレデリクから贈られた物の中から選んだ。自分で選んだ新しい物はいらない。フレデリクが選んだものというのが重要なのだ。フレデリクから愛されている証なのだから。

 喜んでくれて良かったと思いながらも、ミカエラの言うとおりだなあと少し笑いが込み上げた。

 結婚式もしたし、そろそろアメジスト以外も着けてみようとこっそり思ったのだった。

 フレデリクのエスコートで披露宴会場に向かう。既に来賓客は会場の中で二人が来るのを待っている。

 扉の前に立つとユリアナは大きく深呼吸した。母がいないのが残念だが、母を守る為にはこれしか方法がない。

 しかし披露宴のドレス姿も見せたいと相談したユリアナに、フレデリクが披露宴は挨拶が全て終わってしばらくしたら退出しようと言われた。

 そして母の邸に行きそこで内輪で披露宴をするのはどうか?と言われた時、ユリアナはなんて優しい人かと思い抱きつき、こんなにユリアナの気持ちを理解して行動で示してくれるなんてと、その抱きついた胸を涙で濡らした。

 鐘が鳴り扉が開かれる。拍手の中フレデリクの横をユリアナは歩いた。そして、王座にいる国王の側に行き、国王の乾杯の声で披露宴が始まった。

 次々にお祝いを述べに来る人々にお礼を言いながら笑顔を向ける。長い列が続き最後の方に義兄夫婦が挨拶に来た。

 ありきたりな祝辞と、婚姻関係で結ばれた両国の親交を深める挨拶をして去って行った。こんなものかと思ったが、国王の前で母のことには触れられないと判断したのだろう。後から体調不良と言いに行かねばならない。母の邸の場所を調べて行かれては困る。

 列が終わり、今日はユリアナとフレデリクのダンスが一番最初だ。二人で手を取り合い中央へと進み出る。曲が始まり二人で踊り始めた。

 この曲を選んだのはフレデリクだ。インデスター王国の作曲家が作った曲で、永遠の愛を誓い合う曲なのだそうだ。

 難易度が高いのでユリアナは必死に練習を繰り返し、今では目を瞑っても踊れる程になった。軽やかに難しいステップを踏み続けるダンスは、二人の息が合わないと踊れないようになっていて、ユリアナは愛とは穏やかなだけではなく、激しいものでもあるのだなと感じ、またどんな困難でも二人で乗り越えようと誓い合う曲なのかもしれないと思った。

 曲が終わり向き合って礼をすると、拍手の渦に包まれた。踊り切れた安堵でフレデリクに掴まるように腕を絡めると、フレデリクが笑いかけてくれた。それにユリアナも笑顔で応える。更に歓声が上がり、ユリアナは恥ずかしくなって下を向きたくなったが懸命に堪えた。

 来賓の中にはインデスター王国の高位貴族もいるのだ。他国から来た王太子妃を値踏みするだろうと言われていたので必死に笑顔を作り拍手に手を振り応えた。

 二人が一旦王家の場所に戻ると皆が次々に踊り始めたので、計画通りフレデリクと義兄夫婦のところに向かった。

「お義兄様。来てくださりありがとうございます」

 ユリアナが声をかけると義兄が振り向いた。周りは同じ色を持つ義兄妹が向かい合って立つ姿に興味があるのだろう、聞き耳を立てているのがわかった。

「おめでとう。ユリアナ。フレデリク殿に大切にしてもらうんだよ」

「はい」

「メリッサ様に挨拶したくて探しているんだが見かけたか?」

「実は母は昨日の朝から体調が優れず、無理をして出席して、周りの人に迷惑をかけられないと言って欠席しているんです」

「そうか。残念だな。相変わらずメリッサ様は周囲に気ばかり使っておられるのだな」

「相変わらずですか?」

「ああ。母に遠慮して父の色のものを一切身に付けないお方だしな。日頃見ていると他の側妃より周囲を気遣い奥ゆかしい方だなと思っていた。

 あんな母で申し訳ない。大変だったのだろう。ユリアナと共に国を離れるとは」

「お義兄様」

 義兄は何もかも気付いて、何もできなかったことに謝罪をしているのかもしれない。そう思うと、ガーナット王国と交流をしていく時に、これからは自分たちの代になると思うと心強いと感じた。

「義妹たちも迷惑をかけたな。今再教育をしている。もうインデスター王国に来ることはないから安心しろ」

「ありがとうございます」

 そこに一人声をかけてきた人がいた。

「ユリアナ!おめでとう。フレデリク殿下もおめでとう。幸せになるのよ」

 そう言ったのはイングリッドで予定通りだ。

「お祖母様。こちらはガーナット王国の王太子で私の義兄のブラームと、王太子妃のカルラです。

 お義兄様、こちらはアレリード伯爵です。母を養女として迎えてくれた方で、内務大臣補佐をしています」

「始めまして。アレリードでございます。ガーナット王国の小さな太陽にご挨拶申し上げます」

「ブラームです。そうだったな。メリッサ様はインデスター王国の伯爵家の養女となられたと聞いたがこの方のところなんだね」

「ええ。私、若い頃に夫と子どもを亡くしましてね。後継者を探していたらとってもいい話を耳にしましたの。内務大臣補佐という仕事柄色々耳に入るんです。

 それで王太子妃殿下のお母様も一緒にこちらに来られると聞いて、だったら養女になってもらおうと思ったのです。そうすれば、王太子妃の母が私の娘ですもの。

 そんな打算もあったんですけど、メリッサとユリアナに会って話をしたら、本当に二人とも優しくて可愛くて。今ではメリッサと一緒に暮らしているんですよ。まるで本当の親子のように仲良く過ごせてますの」

「そうなんですね」

「ええ。次の後継者はユリアナが生んだ子を養子にすれば良いと思って。だってきっと四、五人は生まれますよ。

 この二人は仲が良いんですよ。見てて恥ずかしくなるくらいですの」

「大伯母上、そんな先の話をされてもユリアナが困るじゃないですか」

「あら、あなたは困らないでしょ?ユリアナが大好きですもんね。ちゃんと加減をしなさいよ」

「大伯母上!」

「アレリード伯爵はフレデリク殿の大伯母なのですか?」

「ええ、王妃のミカエラの伯母なんです」

「なるほど。ユリアナにとってこの上ない後ろ盾だな」

「ええ。私がユリアナを守りますから安心してくださいと、ガーナット国王にお伝えください。

 お会いして直接お伝えできて良かったですわ」

「こちらこそ。ユリアナを頼みます。

 ところでメリッサ様は体調はどうですか?」

「ご心配をおかけしています。数日寝ていれば治ると思います。疲れが出たんでしょう。

 あの子は頑張り過ぎなんですよ。伯爵家を継ぐための勉強をしているんですけど、まだ私が現役で頑張っているから少しずつ覚えれば良いと言っているのに。本当にもう」

「そうなんですね。体を大切になさって欲しいと僕が言っていたと伝えてください」

「かしこまりました。戻りましたら殿下のお言葉を伝えます。それでは失礼します」

 そう言ってイングリッドは去って行った。この後邸に戻り、ユリアナたちが来るのを待つ。任務完了と思っていそうだ。

 義兄たちには、母は何の病気か特定せずに欠席したことにしなければ、嘘をついたと後から思われては国家間の問題になってしまう。

 疲れだろうということにし、後に出産となっても、二度と妊娠しないと言われていたから気付くのが遅くなったということにするのだ。

 かなり時期的に無理があるが、そこで向こうが嘘をついたとすれば、自国の典医が誤診したことになってしまうので言えないだろうと考えた苦肉の策だ。

「内務大臣補佐もする家なら、領地の経営と城の職責でメリッサ様はこれから大変だな。ユリアナはちゃんと無理をされないように見ておかないととな」

「はい。お義兄様。では私たちもここで失礼しますね。他も回ってきます」

「ああ。行ってくると良い。父上には元気にしていたと伝えるよ。フレデリク殿、ユリアナを頼みます」

「ええ、もちろんです。大切にすることをお約束します」

「お義兄様もお元気で」

 そう言ってユリアナとフレデリクはその場を後にした。

 その後あちこちで引き留められ少しずつ会話をしながらも、そろそろという時間にユリアナとフレデリクは会場を後にした。

「フレデリク様。今日は本当にありがとうございます。私の我儘を聞いてくださって、フレデリク様の妻になれて嬉しいです」

 馬車の中、改めてフレデリクに感謝を伝えた。

「僕もユリアナの夫になれて嬉しい。それから、どんどん我儘を言ってくれて構わない。それに応えられる夫でありたいからな。あ、我儘の種類にもよるぞ」

「ふふ。ありがとうございます。フレデリク様も私に我儘を言ってください。それに応えられる妻でありたいです」

「そうだな、何か考えておく」

 そんな話をしている間に母の邸に着いた。ビリスが門を開けてくれ、またガシャンと閉まる。邸の前に着くと母と先に戻っていたイングリッドが出迎えてくれた。

 ユリアナの姿に声を殺して母が泣いているのがわかり、ユリアナは母を抱きしめその目を拭う。

「綺麗よ、ユリアナ。素敵な方と結婚できたわね」

「うん。ありがとう。お母様」

「義母上、必ず幸せにすると誓います」

「ありがとう。本当にありがとう」

 フレデリクも母の背を撫でる。

「さあ中に入りましょう」

 イングリッドに言われ出迎えに出ていたアレッタたちも一緒に中に入り、マリが食堂の扉を開いてくれその光景にユリアナは驚いた。

 机に並んでいるのは、母国にいた頃母が作ってくれたユリアナが大好きなものばかりだった。

「お母様。無理をしてはいけないと言ったのに・・・」

「王宮の食事に慣れたかもしれないけど、たまには私の作った料理を思い出して欲しくてついついたくさん作ってしまったわ」

「忘れるわけないじゃない!どれも今も大好きなものばかりよ。ありがとうお母様」

 ユリアナは涙を流し母を抱きしめた。

「もちろん一人で作ったんじゃないのよ。みんなに手伝ってもらったの。じゃなきゃこんなに作れないわ」

 明るい笑顔に戻った母が楽しそうに説明してくれる。

「さあ、お祝いしましょう」

 母に言われて席に着くと、いつものようにアレッタたちも席に着く。着替えたのか全員が正装になっていた。

「フレデリク殿下、ユリアナ、結婚おめでとう。フレデリク殿下は全力でユリアナを幸せにすること。良いわね!では乾杯!」

 イングリッドの挨拶で宴が始まった。それぞれが好きなものを皿に取り、お酒も振る舞われてマリたちがはしゃいでいる。イングリッドが連れてきたメイドや侍女とも上手くやっているようで、全員の表情が明るい。

「私、聖堂でユリアナのウェディングドレス姿を見た時、嬉しくて、それと同時に少し寂しかったの。ユリアナにはフレデリク様という夫がいて、これからは私の手を離れてフレデリク様に守られて行くんだなあって思って。

 それは当たり前のことで、子どもは母親の手を離れていくものなんだけど、わかっていても寂しいって思ったら、お義母様が結婚後も支えるのが母親の役目よって。親子の関係が切れるわけではないからって。夫と喧嘩したとかで逃げてきたら匿ってあげなきゃよって言ってくれて、私にもまだできることがあるんだなあって思ったら色んなことが振り切れたわ。

 私、お義母様の娘になれて本当に良かったわ。とっても色々と学べるの。それに物事の考え方とか、そういう風に捉えると前向きになれるとか」

「メリッサはこれまで苦労してきたからね。でもこの後は伯爵家の当主になるべくゆっくり勉強すれば良いわよ。初めて会った時に感じた通り、感覚が良いからゆっくりやっても早々に仕事を引き継いでいけそうだわ」

「義母上。安心してください。ユリアナが義母上に会いたいと言ったら必ず全てを許可しますから。というか僕の許可なんて取らずに出掛けても構わないくらいです。

 僕も出掛ける先が義母上のところだと安心ですからね。ここは落ち着きますから」

「ありがとうございます。フレデリク様。でも勝手に行ったりしませんよ。行ってきます、と連絡を入れて出掛けます」

「そうね。家出したとか思われたら大変だもの。お伝えしてからよ。でも本当に家出したくなったら言わないでここに来なさい」

「大伯母上、そんなことにはなりませんよ」

「まあ、自信満々ね。その方が良いに決まっているけど、ユリアナは腰も折れそうなほど細いから今夜あまり無理させないでよ。それで家出されるのは嫌でしょ?」

「大伯母上!そんなことにはなりません!」

「細すぎますか?フレデリク様は細すぎると困るのですか?それなら少し増やそうかしら」

 ユリアナが自分の腰回りを触って言うとその手をフレデリクが押さえた。

「大伯母上の言うことは気にしなくて良い。今のままでも、増えてもユリアナに変わりはない。だが、無理に増やそうとしたり、減らそうとしたりはしなくて良い」

「はい。わかりました」

 ふと見るとアレッタがビリスに食事を取っているのが見えて仲睦まじそうだった。自分もと思い、ユリアナはフレデリクに肉の塊からフレデリク用に切り分け、サラダも皿に取った。更にユリアナが大好きだった母特製のシチューもよそい、フレデリクの前に並べる。他にも卵と野菜のパイ包みも取ると自分もシチューとパイ包みを取った。

 久しぶりに食べる味にほっとして、イングリッドに注がれたシャンパンをクイッと一気に飲み干した。

「ユリアナ。余り飲むな」

「え?でもこのシャンパン美味しいです」

「でもダメだ。飲み過ぎは良くないぞ。飲み慣れてないからな」

 フレデリクが言い募るのに仕方なくグラスを机に置いて果実水に変えた。それを見てフレデリクは安心しているようだ。

 ユリアナは心配し過ぎだわと思いながらも、気にかけてくれるのが心地良くフレデリクを見て笑った。


 

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