試験結果を受け入れる王女と受け入れられない王女たち
いよいよ試験の日が来た。ユリアナは自分の出来る限りを尽くしたと思い、自信を持って受けようと窓から太陽を見上げ精霊リューディアに誓った。
お気に入りのクリーム色のワンピースを着るとフレデリクからもらったペンダントを付けた。フランカたちが見ればまた色々言ってくるかもしれないが、ユリアナにだって意地がある。フレデリクの横に立つのは自分なのだ。それが決まっている試験とはいえ、本当に一位を取って誰にも何も言わせない。
だから負けられないのだ。ユリアナは学園に通わず邸で家庭教師や母から学んだ。その他にも様々な書物を読み、自分なりにも勉強したが、試験というのは初めて受ける。フランカたちが通った学園では試験が定期的にあったそうだから、その点で言えば不利なのは明らかだ。
だが、今回の講師の講義を聞き、できるだけの知識を頭に叩き込んだ。学べば学ぶほどインデスタ―王国への理解が深まり、王太子妃になるならばこれくらいの知識は当たり前に持っていなければならないことだと感じた。
私が王太子妃になる。強い意思で挑もうとユリアナは試験会場とされている謁見の間に向かった。
謁見の間に着くとユリアナが一番だった。机が三脚用意されていてユリアナは一番左に座った。そこに内務大臣ロセアン侯爵が入って来てユリアナに笑いかけてきた。
「お母様に補佐をしてもらうことになるそうですね。期待していますとお伝えください。感謝しているとも。アレリード伯爵が職務も返上したら他の貴族が取り合いになって大変になりますからね。その点ユリアナ様のお母様なら安心です」
「そう言っていただけると私も母も嬉しいです。必ずお役に立てるように二人で頑張ります」
「そう力まなくても大丈夫ですよ。アレリード伯爵がきちんと指導してくれますよ。彼女に任せておけば安心です」
そう言われてユリアナはほほ笑んだ。優しい大臣の元で働けるなら母も安心だ。ロセアン侯爵も笑みを返してくれた。
ユリアナは試験の開始時間の20分前に来たと言うのに中々二人がやってこない。その他の役人も揃い始めても来ないので不安になってきた。ガーナット王国として試験を受けることになったからにはきちんとしている姿を見せなけれな国の信頼に関わる。そう思いながら待っているとやっと二人が入って来た。試験開始二分前だ。間に合ってはいるが最低でも五分前には来て欲しかった。
二人が席に着くと試験用紙が裏返されて置かれた。ユリアナはペンも置かれていよいよ試験とはこういうものなのかと感じ緊張感が増して来た。やれることはやった。自信を持とう。ユリアナがそう思った時に鐘が鳴った。
国王陛下と王妃殿下がお出ましになり、前回同様一段高い位置の席にお座りになった。その横にフレデリクとマレーナが立つ。
「では私から試験の説明をしましょう」
そう言ってロセアン侯爵が一歩前に出た。
「試験時間は一時間。講師に言われたと思いますが、教科書をより深く学べば答えらえる問題となっています。問題の中にはご自身の考えを書く問題もありますが、我が国について深く学ばれていれば問題なく頭に浮かばれるでしょう。その問題に関してはどのようなことを書かれても正解と致します。
それでは始めましょうか。始め!」
ユリアナは用紙を捲った。ざっと見た感じユリアナの思った通り、教科書で学んだことを更に深く調べなければわからないようになっている。だがユリアナは一問目からスラスラとペンを走らせることができた。『良かった。どれも図書室から借りてきた本で勉強したことばかりだ』、そう思いながら回答していく。
最後の問題は王太子妃としての役目について回答する問題だった。ユリアナは悩んだが、長く書く必要はないと判断し、国民が必要だと思うことを考え、先を読み行動すること。国民の話をよく聞くこと、と書いた。
ペンを置き時計を見るとまだ20分残っていた。念のため書き忘れや間違いがないか確認したが大丈夫だったので。顔を上げて座って時間が来るのを待った。
「時間です。ペンを置いてください」
ロセアン侯爵がそう言うとフランカがバンと机を叩いた。
「話と違うわ!教科書を学べば答えられる問題だったのよね?全然違うじゃない!」
他国の王族、しかも国王陛下の前でそんな態度を取るなんてとユリアナはフランカを見た。するとフランカがユリアナの元にやってきてユリアナの回答を見た。
「何よ!ユリアナは答えられているじゃない!何でよ!誰かから教えてもらったの?どんな問題が出るか。そうじゃないと答えられないわ!違反だわ!」
「誤解よ。私は講師の方が教科書で学び更に深く学ぶようにとおっしゃったから、きっと教科書を元にもっと深くインデスタ―王国のことを知らなければならいということだろうと思って、自分で他の資料も調べて勉強したのよ。誰からも教えてもらっていないわ」
「嘘よ!他の資料も調べるようになんて言われてないわ!」
ラウラもやってきてユリアナの問題用紙を見る。
「それはおっしゃてないわ。さっきも言ったけど、講師の方は教科書で学んで更に深く学ぶようにとおっしゃたの。私はそれを更に調べるようにとういことだと判断しただけ」
「そんなの嘘よ!誰かが教えないとこんなに書けないわ!」
そこにロセアン侯爵がやって来てユリアナの問題用紙を見た。その後ラウラとフランカのも見る。
「ユリアナ様は満点ですね。よくここまで学ばれました。他のお二人はほとんど回答がなされていませんので一位はユリアナ様です。おめでとうございます。ユリアナ様が王太子妃に決定しました」
そこで溢れんばかりの拍手が湧いた。二人が悔しそうにしている。
「絶対におかしいわ!ユリアナの講師だけ多くのことを教えたんじゃない?そうじゃなきゃ学園も行っていないユリアナが満点なんて取れるわけないわ!」
フランカが叫ぶ。もう止めておいて欲しい。ガーナット王国の評価が下がってしまう。
「私は学園に通っていないけれど家庭教師から学んだもの。それに今回もたくさんの資料を読んだわ。フランカたちは何を聞いて何をしていたの?」
「ちゃんと講師の講義は受けていたわよ。教科書も読み込んだし!」
「講師の方がおっしゃってなかった?」
「確かに更に深く学ぶようにと言われたけどそれは教科書を読みこむようにってことだと思ったのよ!」
「それはフランカがそう判断しただけで、私の判断はより深く学べよ。だから更に資料を読めということだと思ってその判断が当たったの」
フランカとラウラが睨んでくる。二人は一体何を聞いていたのか?何をしていたのか?本気で一国の王太子妃、いずれは王妃という立場になることを理解して行動していたのか?ユリアナは理解ができなかった。本当に王太子妃になりたかったらどれだけ勉強してもまだ足りないと思うはずだ。
「三人の講師を務めた者がそこに控えている。三人とも私が言ったように王女たちに毎日伝えたか?」
陛下が立ち会っていた講師たちに聞いた。
「はい。毎日お伝えしました。教科書で学び更に深く学ぶようにと」
三人ともがそう答えた。
「では問題ないな。王太子妃はユリアナ。二人はそろそろ国に戻りなさい。迎えが既に来ている。帰りは船でフランディー王国へ行った後陸路を使うそうだ。明日の朝の船で発つそうだから荷物をまとめておきなさい。迎えは今王都の宿にいるから伝えておこう」
「そんな!こんな不公平な試験なんて!」
「フランカ。国王陛下に失礼よ。あなたたちは国王陛下の意図を汲めなかった。これ以上ガーナット王国の評判を下げるような発言はしないで」
「自分が選ばれたからって偉そうに!」
「そう思うならもっとちゃんと講師の方の話を理解しておくべきだったわ。自分が招いた結果よ。誰が選ばれても恨まないと約束したじゃない。それを守って」
「恨まないって言ったけど、許しはしないから!」
そう言ってフランカとラウラが去って行った。最後まで失礼な発言をしていることに気付かなかったことにユリアナは謝罪をする為にインデスタ―国王の方を向いた。
「妹たちが大変ご迷惑をかけると共に失礼な発言を致しました。申し訳ございません」
ユリアナは膝を折りひれ伏した。
「ユリアナ。顔を上げて立ちなさい」
陛下の言葉でゆっくりと立ち上がったユリアナは顔を上げた。
「怒っていないから大丈夫だ。中々愉快な妹たちだな。あれほど明け透けな王女も珍しい」
「お恥ずかしい限りでございます」
ユリアナは再度頭を下げた。
「安心しろ。気にしていないから。しかし、これでやっと王太子妃が確定したな。誰も文句は言えん。今日から王太子宮に移動しなさい」
「かしこまりました」
「ユリアナ。明日からもう公務よ。私と一緒に孤児院に慰問に行きましょう」
「はい!お供いたします」
王妃の言葉にユリアナは俄然やる気が出てきた。これで誰もが認めるフレデリクの婚約者だ。今から公務をして、結婚したら直ぐにもっと役に立てるようにしようと心に誓った。
試験が終わり、引っ越しも終えたユリアナは母の邸へと来ていた。既にイングリッドが越してきていて、出迎えの人数も増えた。イングリッド付きの侍女やメイド、庭師、イングリッドより年上の執事も一緒だ。テレサはベテラン執事から学ぶことに喜んでいるらしい。
「試験は無事終わったのね。安心したわ。万が一のことがあったらと心配だったの」
「あの二人の勉強不足よ。かなり追加で資料を読まないと解けない問題だったわ」
「おめでとう!私の可愛い孫娘がいよいよ王太子の婚約者として正式に活動開始ね。
ここに来て私喜んでいるのよ。とっても楽しいの。使用人用の食堂はこの人数だと狭いから、家主の食堂でみんなで食事をしているの。大勢で食べる食事って楽しいのね」
「え!おばあ様もお母様みたいに食事をしているのですか?」
「もう何十年も毎日一人だったのよ。王城で仕事をしている時は王城の食堂で顔見知りと食事をするけどね。うちも使用人の数が少なかったけど、こういう案は思いつかなかったわ。
そうだ、フレデリク殿下に庭師はいらないっていうのと、今の人数なら掃除はできるから業者もいらないって言わないとね」
「帰って伝えておきます」
イングリッドが楽しそうにしていて、母も笑顔だ。頼もしい人たちも増えて賑やかになった。イングリッドは今は二階の部屋だが、一階が良いということで、一階の客室を二部屋繋げて使えるように改装中らしい。
「あの子たちはもう帰ったの?」
「もう迎えが来てるって。明日の朝出航で帰りは陸路らしいわ。観光しながら帰れば良いわね」
「それなら良かったわ。もう迎えが来てるなんて直ぐにアルベルト様が送り出したのね」
「そうね。もう会うこともないかしらね。お母様はもう手続きは終わったの?」
「まだよ。今出している書類が通ったらね。お姉様に手紙も出したわ。お姉様には言ってあったの。いずれはインデスター王国で国籍を取るだろうって。それが早まったわね」
「本当に出す書類が多くて面倒よね。ちょっと養女にするくらいでねぇ。結局邸は売りに出したのよ。私も心機一転しないとって思い直したの。私の娘はメリッサ。孫娘はユリアナ。
夫や子どもたちのことは忘れられないけど、残りの人生を楽しく生きていこうって」
「おばあ様のご期待に添えるように頑張ります!」
「楽に行きなさい。頑張り過ぎると倒れちゃうわ。
ねえ、それよりアレッタのこと気にならない?」
「あ!アレッタどうだった?」
「どうもこうもありませんよ。カフェを予約したと言うので行ったら、ビリスの両親とお姉様と弟様がいらして紹介されました」
「あら、ビリスってば本気ね!」
「婚約者として紹介されたのよねー」
楽しそうにイングリッドが言う。それにアレッタが真っ赤な顔になった。こんなアレッタを見たことがない。
「それでそれで?」
「息子をよろしくお願いしますって言われて、思わずはい、と」
アレッタが俯いた。
「まあ!おめでたいわ!素敵!いつ籍を入れるの?結婚式は?」
「実は、その場で結婚証明書が準備されてまして、実はサインをしてもう出しました」
そう言ってアレッタは顔を覆い蹲った。
「えー!じゃあもうアレッタはインデスター王国の国民?凄い早さね!」
「断れる雰囲気ではなかったのです!それにこんな私を歓迎してくれて。
子どもがいる家庭だけが幸せなわけではないって。夫婦が仲良く暮らせればそれだけで幸せな家庭になるって言われて。
ビリスとは今度結婚指輪を買いに行く約束をしました」
最後はもう消え入りそうな声だ。
確かに子どもがいても夫婦の仲が悪くて、幸せとは言えない家庭もあると聞いている。暴力を振るう夫など問題外だし、お酒や賭け事で問題を起こす夫もいるらしい。
そんな夫より、フレデリクが選んだビリスの方が安心できる。
「きっといい夫婦になるわ。結婚式はしてよ」
「実はもう私が予約したのよ。たまたま式が延期になったから開いていた聖堂があってそこを予約したの。今ウェディングドレスを選んでいるところよ」
イングリッドが楽しそうにカタログを見せてきた。
「アレッタはどんなのが良いの?」
ユリアナが聞くとアレッタがまた顔を覆ってしまった。
「アレッタはね、自分で選ぶのすら恥ずかしくてできないって言うのよ。もうしょうがないから私とメリッサで選ぶことにしたの」
「私がそんなドレスなんて着なくても良いです。白い布でも巻いておけばいいのです」
何ともアレッタがこんな恥ずかしがり屋だとは思わなかった。
「ダメよ。お母様おばあ様。素敵なのを選んでね。私は楽しみにしておくわ。式はいつなの?」
「来週よ」
「え!早い!」
「入籍もしたし、さっさとした方が良いでしょ?今時は式をしない夫婦もいるらしいけど、やっぱりけじめとして式を挙げた方が良いわ。私も楽しくってしょうがないの。
ユリアナのウェディングドレスは王妃殿下が選ぼうとしたらフレデリク殿下に断られたそうよ」
「そうなんですか?私はまだ何も聞いてなくて」
ユリアナのウェディングドレス。真っ白なドレスを着てフレデリクの横に立つ自分を想像して、きっとフレデリクはカッコイイだろうと思いうっとりした。
「ちゃんとこんなのがいいとか言わないとダメよ。フレデリク殿下だとどんなのを選ぶかわからなわ。でもそろそろ作り始めないとね。楽しみにしているわ」
「はい。おばあ様」
母たちに試験の結果を報告し談笑して、ユリアナの気持ちは晴れやかになった。これから本当に新しい生活が始まる。この国で生きて行く。フレデリクに相応しい妻となり、国民の為に共に働く。
ユリアナは母たちに別れを告げ王宮へと向かった。
馬車は王宮の王太子宮前に付けられた。これでやっとここに住むことが出来る。フレデリクと新たな生活の始まりだ。
そう思って見上げているとケントがやって来た。ケントは王太子付きの近衛騎士で今頃フレデリクの護衛をしているはずなのだが。
「ケントどうした?」
ユリアナの護衛をしていたヨーランが聞く。
「ユリアナ様。申し訳ございませんが、王宮の入口までお越し願えませんか?オレも侍従に呼ばれて行ったんですけど収拾がつかなくて」
「何かあったのか?」
「妹王女様たちがユリアナ様に会わせろと騒いでらっしゃいます」
「外出中と伝えたんだろ?」
「言いましたよ。どこにとはもちろん言いませんが。そうしたら嘘だ。会わせろ。とまあ、おっしゃってます。出かけているなら王太子宮で待たせろとまでおっしゃいまして」
「ずっとか?」
「ガーナット王国の使者が挨拶に来たんですよ。外務大臣のボスマン侯爵が迎えに来られていて、試験の後、陛下とフレデリク殿下に謝罪をしに来られたんです。その後二人のところに行ったら帰らないと言い出したらしくて。試験の結果に不満だとか、不正があったとか言い出しましてね。もう一度同じ条件で試験をしたいと。
使者の方はもう決まったことだから明日の船で帰るとおっしゃっているのですが、とにかくユリアナ様に会って話をつけるとおっしゃって聞かないのです。王宮の入口まで来て会うまで待つとおっしゃってます」
ボスマン侯爵自ら迎えだなんて。それだけ重要なこととやはりガーナット王国は捉えているということだ。確かに今回の件では外務大臣以上の人間が来なければ誠意は伝わらないだろう。それを不正だなんだと言って我儘を言うだなんて。ユリアナは恥ずかしさと申し訳なさと怒りでいっぱいになった。
「会いに行くわ。外務大臣に迷惑をかけるだなんて」
ユリアナはヨーランとケントを連れて入口へと向かった。揉めている声が聞こえる。
「やっと来たわね!隠れてたんでしょ!不正をしたから!」
フランカが早々に食って掛かって来た。
「ユリアナ王女殿下。お久しぶりでございます。陛下が申し訳ないと伝えるようにとのことでした」
「ボスマン侯爵、父には私も母も元気で暮らしていると伝えてね」
「何を言っているのよ!不正でしょ!ふ・せ・い!じゃないとあんな問題解けるわけないわ!」
「フランカ。何度も言っているけど、不正なんかしていないの。講師の方の話を聞いて、私なりに考えて更に勉強しただけ」
「そんなのおかしいわ!ユリアナだけ図書室の場所も知っているだなんて!」
「それは調べたくて近くにいた近衛騎士に王都の図書館に行きたいと言ったら、王城にも広い図書室があると教えてもらったのよ。だから何度か言って資料を借りて来ただけよ」
「何で私たちにも教えてくれないの?更に資料を読んだ方が良いって」
これはラウラだ。実にラウラらしい。何でも誰かにしてもらえると思っているのだ。
「何故?私が気付いたくらいだから二人も気付いているものだと思っていたわ。だって毎日言われるのよ?」
「とにかく、試験のやり直しをしないと帰らないわ!」
「まだインデスタ―王国へ迷惑をかけるつもり?いい加減にしなさい!あなたたちはガーナット王国の王女なのよ?二人がしていることは王女として国益になっていると思うの?」
「私たちが迷惑だっていうの?!」
「はっきり言うわ。迷惑よ。国と国で決めた婚姻に異議を唱えて勝手に着いて来て。お父様が何と思ったか。インデスタ―王国側が親切な対応をしてくれたから良かったけど、本当は二人は港でそのまま送り返されてもおかしくなかったのよ?」
「でも試験をしてくれるって!」
「そうよ。だからしてくれたじゃない。二週間も講師を付けてくれたのよ。
ねえ。二人は本当にインデスタ―王国の王太子妃になりたかったの?」
「何よ」
「何が言いたいのよ?」
「インデスタ―王国の王太子妃になるということは、インデスタ―王国の人間になるということよ。そして、インデスタ―王国の国民に尽くすの。あの教科書よりもっと詳しく知った方が、王太子妃としての役目ができるとは考えなかったの?
私は少しでも早くインデスタ―王国のことを知りたかったわ。ガーナット王国にいた時も、結婚が決まってからはずっとインデスタ―王国のことを勉強していたの。
二人は私の邪魔がしたかっただけよね?それか王太子妃という地位に就きたいだけ。それってインデスタ―王国に失礼だと思わない?」
「ユ、ユリアナのくせに生意気なのよ!王太子妃よ!いずれは王妃!国母になるの!その地位がどれだけ凄いことかわかっているの?なれるものならなりたいわよ!」
「だったらもっと努力すべきだったわね。それか私に付いて来ないで、国にいたら別の国からお話が来たかもしれないでしょ?
だから言っているの。私の邪魔をしたかったっていうのが一番よね?私が二人より上の位に就くのが許せなかったのよね?でもね、そんなことで王女が他国に迷惑をかけるなんて、今頃お父様がお怒りだわ。インデスタ―王国への敬意を表して外務大臣にあなたたちを迎えに行かせたのよ。
その重要性がわかっているの?何回でも言うわ。あなたたちは一国の王女なの。取るべき行動を考えなさい」
「ユリアナばかり良い目に合って。たった半年先に生まれただけなのに王太子妃になれるなんて。私が先に生まれていたら私がなれたのに!」
「たった半年でも私が第一王女なの。それは変わらない。そしてインデスタ―王国からの申し入れは第一王女ユリアナ、よ。第二王女だったとしても私が選ばれていた可能性もあるわ。
こんなくだらない可能性だけの話で他国に迷惑をかける王女なんて、第一でも第二でも第三でも選ばれないわよ」
「酷い!自分がどれだけ偉いと思っているの?子爵家の血筋のくせに!」
「子爵家の血筋でも、私は王家に生まれたの。そして王女としての務めを果たして来たわ。そして今回の婚姻も国と国で決めたこと。私の意思じゃないの。お父様と議会が決めたことに従ったの。それが王女の務めだから。
それ以外に何もないのよ。もし私が別の国へ嫁ぐように言われたら従っていたわ。それが王族でも高位貴族でもよ。王女の宿命よ。いい加減に理解しなさい」
ユリアナは言いたいことを言いきったとボスマン侯爵を見た。ボスマン侯爵はユリアナに頷き二人に今日からもう城を出て王都の宿泊施設に泊まるようにと言っている。
二人は言い返すこともできなくなったのか、黙ってそれに従った。そしてその後姿が遠ざかって行く。次に会うことはあるだろうか?ユリアナはどうか二人が王女としてもっと成長するようにと祈るしかなかった。