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インデスタ―王国の王太子とガーナット王国の第一王女

前作のインデスター王国の物語の別の物語になります。前作の4年前になります。

前作を読んでいない方もお読みいただけるように書きますのでよろしくお願い致します。

 インデスター王国は大陸の西に浮かぶ島国だ。島国といっても大きな島で、海岸沿いの道を馬車で回ると一ヶ月かかる。

 王都は大陸に面した海の近くにあり、港から船で二日で向かいのブランディー王国に着くので、大陸の各国との交流も盛んだ。

 海に囲まれているので海産物が豊富な上、島のあちこちに金山と銀山がある。それらがある領地は全て王家の所領となっている。

 そして王太子が今船旅に出ようとしていた。もちろん遊びではない。仕事である。


 王太子の名はフレデリク。銀の髪と紫の目を持つ21歳だ。

 大陸の西南、と言ってもインデスタ―王国から見れば右下にあるガーナット王国の建国400年式典に、父親である国王の名代として祝辞を述べに行くのである。

 そして実はもう一つ目的がある。

 フレデリクには婚約者がいない。できれば外交政略として他国から妃を娶りたいと思っていたので、陛下や臣下たちと相談し、これを機にガーナット王国の第一王女を王太子妃に迎えたいという打診をする前の下調べをするのである。

 第一王女は父親である国王にそっくりだと聞いている。幼い時に仕事でインデスタ―王国にやってきたガーナット国王に会ったことが一度だけあるが、顔の印象はない。美しい金色の左目とエメラルドのような右目の印象が強くてそこしか覚えていないのだ。

 兄弟妹たちの中で一番国王に似ているらしいので、同じ目をしているならそれだけで美しいだろうと思っている。しかし、美しいだけでは王太子妃は務まらない。中身が伴っていないとならない。後の王妃になるのだから。

 フレデリク自身も厳しい教育を受けて来たし、自分で更に勉学の探求をしたり、剣術などの鍛錬もしてきた。まだまだ父親には敵わないが、これからも変わらず努力していき、国民に信頼される国王となるべく進むのみである。

 実は遠方の国から王女を妃にと書簡が来たことがあるが、遠いので丁重に断った。外交的に近い国の方が良いからという理由と、母国の家族に会いたくなったら、仕事の都合をつけて短い移動期間で会いに行ける方が嫁ぎやすいだろうと考えたのだ。

 フレデリクは第一王女に会うのを楽しみに、頭に叩き込んだ少ない情報を胸に船に乗り込んだ。海流により、行きは10日でガーナット王国の王都に着くことができる。陸路の1日を考えれば、船に乗っているのは9日。

 王家の船に馬とともに馬車も積み船は出航した。今回は海が危険な時期ではないので船旅を選んだのだ。これがあまりいい時期でなければ、一旦フランディー王国に二日かけて船で行き、そこから馬車の旅になっただろう。そうなると15日は少なく見積もってもかかってしまうので助かった。

 ガーナット国王と王宮への贈り物として金で作られた数々の宝飾品を用意した。なんせ、あの国は国王の家族が多い。男性用女性用と、年齢も下から上まで喜んでもらえるよう臣下たちと宝石商とで考え抜いて選んだものたちだ。

 フレデリクは遠くなり始めた陸地を見ながら楽しい旅になることを祈った。


 ガーナット王国は大陸の西南に位置し、温暖な気候の農業大国だ。多くの小麦と大麦が栽培され、他にも野菜や果物も多く作られている。それらの収穫量の半分は輸出されるほどだ。

 そしてこの国の強みがもう一つ。

 精密道具の開発制作が他国より発展しているのだ。例えば時計。他国では大きな置時計までしか作れないか、作ることさえできないのだが、ガーナット王国では胸ポケットに入るくらいの大きさで持ち歩きができる懐中時計を作ることができる。この技術はまだ他国ではない。

 特殊な機材を使わなければ作れない為、それを極秘にしているのでガーナット王国の懐中時計は多く輸出されている。

 今は更に小さな時計を作ることを視野に入れて開発を進めているところだ。他にも精密な測量計などもある。

 そんなガーナット王国の王家は歴代大家族だ。家族と言っていいのかどうかわからないが。

 現国王陛下に一番そっくりだと言われているのが第一王女ユリアナである。彼女の人生がもうすぐ変わろうとしている。


 ユリアナは第一王女だが、母親は第四側妃だ。

 まず、公爵家出身の王妃シーラ、侯爵家出身の第一側妃エステル、伯爵家出身の第二側妃ヘルディナ、同じく伯爵家出身の第三側妃イーリス、そして子爵家出身のユリアナの母第四側妃メリッサである。

 ガーナット王国には陛下が住む王宮の後ろに大小様々な邸がたくさんある。歴代国王陛下が何人も側妃を娶るからだ。何故そんなに娶るのかと言えば、ただの女好きな家系だからではない。王家特有の色を持つ子どもが欲しいからだ。

 その為昔は近親婚も多かったらしいが、子どもに良くないということがわかり、王族以外から妃を娶るのことになったのだが、遺伝で生まれて来る為、完全に王家の全ての特徴を持った子どもが生まれてくる確率は低い。

 その為陛下たちは多くの妃を娶り、王家の血を濃く継ぐ子どもを欲しがるのだ。

 王家の血が濃いからといって特に何か特殊なことができるわけではない。ただ、初代と同じ外見の血を途絶えさせない為に続けられている慣習だ。それでも、今代の国王陛下は側妃の数が少ない方で、結局5人の妻がいることになる。5人で少ない方なのだから、王宮の後ろの邸は空家がかなりある。その中から入宮する際に好きな場所を選ぶのだ。

 誰もが王宮に近い邸を選ぶ中、ユリアナの母は途中で一番奥の小さな邸に引っ越した。それにはもちろん理由があるのだが。

 王家特有の色とは、髪は水色、目は左が金色、右目がエメラルド色だ。それら全てを持っているのは、まず王妃が産んだ第一王子で王太子のブラーム。王妃の実家のマルケマ公爵家は3代前に王女の降嫁先となっており、王妃の目はエメラルド色なのだ。そのこともあって王妃に選ばれ、見事第一子として産んだ王子が王家の色を全て持って生まれた。その時陛下は大喜びした。

 しかしそれではまだ一人の為、側妃を順番に迎えたが、全て揃った子どもは生まれなかった。また、王子しかいない為、政略にも利用できる王女が欲しかった陛下は、女系一家である、ユリアナの母の実家クライフ子爵家の次女であったメリッサを側妃に迎えた。

 ガーナット王国は余程のことがない限り、貴族は長子が嫡子となることになっている。クライフ子爵家はこれで4代続いて長女が跡継ぎをしており、その下にも妹しか生まれなていない為、きっと王女を産んでくれるだろうという淡い期待で迎え入れたのだ。

 国王陛下アルベルト30歳、メリッサ18歳の年の差婚だった。

 そして見事入宮して直ぐに妊娠し、生まれてきた子どもは王女だった。しかも、完璧な王家の血を継いだ王女だ。陛下は大喜びし、たくさんの贈り物をメリッサとユリアナと名付けた娘に贈った。

 その半年後第一側妃は第二王女フランカを、一年後には第三側妃は第三王女ラウラを産んだ。しかし、ユリアナのような王家の色を全て持っては生まれなかった。王妃もラウラが生まれた頃出産したが、またもや王子で、今回は母親と同じ色で生まれてきた。

 だが陛下はそれでも子どもが増えることに満足で、どの子どもも可愛がり、しっかりとした教育を受けさせる為の資金などを各妃に渡していた。

 しかし、やはりユリアナを産んだメリッサへの寵愛が一番だと王宮勤務の使用人たちは口にはしないが思っていた。陛下は王宮の自室で寝る以外は平等に各邸を訪れていたが、メリッサの元に行く時が一番嬉しそうだと感じていた。

 そして二年後メリッサが妊娠した。当然陛下は喜んだ。休憩時間にメリッサの邸に足を運び顔をを見に行き、執務室に医師を呼び順調が確認した。

 そんな中、王妃主催のお茶会が開かれた。全ての側妃が招待されていて、メリッサも体を締め付けないワンピースで参加をした。

 お茶会は妊娠中のメリッサを気遣って妊婦にも大丈夫なハーブティーが全員に配られた。

 そしてそんな中、ハーブティーを飲んだメリッサが倒れたのだ。

 直ぐに医務室に運ばれ、医師の治療を受けたが、残念ながら流産してしまった。しかも二度と妊娠できない体になってしまったのだ。それをメリッサが知ったのは倒れた翌日、お腹に痛みが残る中目を覚ました時だった。

 涙を流し謝罪するメリッサを陛下は慰め、謝る必要はないと言い聞かせるしかなかった。

 陛下はメリッサの邸の警備を強化し、何故こんなことになったのか捜査した。

 王妃主催のお茶会だった為、王妃と王妃の関係者、所謂王妃専属侍女たちにまず聞き取りをした。

 王妃はそれに抗議した。使った茶器は、お茶会をしたいと陛下に相談した際に陛下から贈られたもので、そんな大切な物で人を害するようなことはしない、と言うのだ。

 しかも、大きなティーポットで全員分一緒に注ぎ、しかも同じデザインの5客のカップ。

 淹れたのはハーブティーを淹れるのが得意な第二側妃の侍女で、配ったのは王妃の侍女。間違えずにメリッサに渡すのは難しいだろうと判断された。

 次に第一側妃への聞き取りをしようと思ったが、実は第一側妃も妊娠中で、自分が狙われていたかもしれないと怯え震え、話すこともままならなかった。

 しかし、第一側妃もその後流産した。メリッサと違ってまた妊娠はできるが、庭園を散歩中に段差で転んだらしい。

 第二側妃は淡々と状況を話したが、誰も怪しい動きをしていなかった。もちろん自分も関係ないと言い切った。そもそも王妃主催なのだから、そんなことは仕組めないと。

 次の第三側妃はメリッサと席は離れていたし何かできる状況ではないと言った。ましてや自分は妃の中でメリッサと一番仲が良いからそんなことしないと。

 その場にいた何人もいた侍女たちもおかしな行動をする人も見ていないし、そもそも何か入っていたなら、この場にあるはずのないものがあるはすだと言った。

 辺り一帯、各妃の邸、全てを探したが怪しいものは見つからなかった。

 そして、捜査している最中に検査結果が出て、毒は検知されなかったと報告された。

 その為、検知されない毒も僅かにあるが、妃たちへの疑いは残るものの捜査は打ち切りとなった。証拠も証言もなければ、検査結果も否ならばそうするしかなかった。

 そしてメリッサは引っ越しを決めた。一番奥にある小さな邸へと。

 小さな邸は入って右手に侍女の控の間とその奥に侍女の私室があり、左は小さな厨房と食堂がある。侍女も一緒に住むことができる邸なのだ。

 それまでは子爵家から着いてきてくれた侍女のアレッタの他に、王宮の執事が選んだ侍女も二人ついていたがアレッタだけにした。

 そして料理も王宮へ食べに行くか運んでもらうかだったのを、全て自分たちで作ることにした。

 材料を数日分運んでもらい、運んできた使用人には御駄賃と言うには少し多い金額を渡し、感謝を伝えた。掃除も洗濯も自分たちでやった。他人を近づけないように。

 始めは大変だったがしばらくして慣れてくると楽しくなってきて、料理も色々な物を作ることができるようになった。

 子どもを産めなくなっても、王宮から遠い邸になっても、陛下は馬に乗ってきちんとメリッサの元に訪れた。もちろん自分にそっくりな娘に会いに来るのももちろんだが、自室で寝る以外は順番に邸を訪れるのを事件後も変えなかったのだ。

 メリッサの邸で手作りのお菓子を食べながら、メリッサが淹れたお茶を飲む。

 そして夜は体を繋げた。子どもを作る為にしていただけの行為ではないというように。

 メリッサは5人の妃の中の1人に過ぎないが、大切にされていることが伝わってきて、側妃になって良かったと思った。

 しかし、いつかの日の為に、与えられた側妃の維持費は無駄遣いせずに、嫁ぐ前から持っていた各国で利用可能な銀行の口座に貯めていた。

 使うのはユリアナの王女教育費と、最低限側妃と王女としての体面を保つお金だけ。

 そうやって慎ましやかに生活して時が経ち、ユリアナは19歳になった。

 父親と同じ色の髪と左右の目。そして父親に似た鼻筋と額。少し目尻の下がった優しい目元も似ている。

 メリッサはそんなユリアナに精一杯の王女教育をし、愛情を注いだ。

 そして仲の良い親子となった二人は目立たないよう生活をつづけていた。

 お茶会には二度と参加しなかった。怖くて足が動かなくなると言って。それを責められる人はいない。陛下が無理強いをしてはいけないた言ったからだ。

 しかし避けられないのことがいくつかある。

 まずは、年に一度の建国記念日に、王城のテラスから国民に王家が揃って手を振る行事だ。その日は国民に王城が開放され、近くで王族に会える日で、王都民たけではなく各領地から旅行も兼ねてやってくるのだ。

 国民の為にこれは避けて通れない。特にユリアナは王家の色を全て持っているから、幼い時から参加させられていた。三歳から六歳までは陛下の腕に抱かれて手を振った。

 それを恨めしそうに見ている妹たちに気付いたのが五歳の時。六歳になる頃には明確な強い嫉妬を感じ、恐怖を感じるようになった。

 次は三ヶ月に一回行われる、全員揃っての食事会。末席に座るメリッサとユリアナに陛下が来るまで、妹たちがユリアナをなじるのだ。

 質素なドレスを着ていることに嫌味を言い、邸からほとんど出ないことから、引きこもり王女と言って自分たちの方が優秀で人脈があると言うのだ。義兄たちは誰もそれを止めない。言わせておけば良い、と思っているのだろう。

 それで妹たちの溜飲が下がるなら好きにさせておこうという感じだ。

 妹たちはもちろん後ろ盾も子爵家のユリアナより上だと言う。ただ、美しい容姿だけは口にしない。妹たちもそれぞれ美しいが、ユリアナの容姿に何か言うということは、そっくりだと言われている自分たちの父親の容姿も貶すことになるからだ。

 だからそれ以外で嫌味を言う。子どもの心は繊細で意外と聡い。父親が平等に接しているつもりでも、微妙な違いに気づくのだ。

 自分よりユリアナの方が可愛がられていると。

 そうやって静かに耐えながら過ごし、16歳で社交界デビューをしたユリアナは、正式に王家としての公務に参加するようになった。

 慰問に行ったり、視察に行ったりと少し忙しく生活をしながら楽しく暮らしていた。

 どこに行っても王家の色のユリアナは人気で喜ばれた。喜ばれれば嬉しいので、あちこちに顔を出し、いつの間にか社交界よりも庶民との関係が近い王女となった。

 それも気に入らないと妹たちは文句を言う。庶民の人気取りをしていて卑しいと。

 そんな妹たちは貴族が通う学園に行き、同級生と交流して楽しんでいるだけで、ほとんど仕事をしない。

 ユリアナは母親が選んだ家庭教師から学ぶことになり、学園に通うことはしなかった。それ故に時間に余裕かあり、公務が必然と増えるだけなのだが。

 王家主催の舞踏会では、目立たないように王家の一番後ろに母親と隠れるように立っていた。こういう時、王族が多いと便利だとユリアナは思ったものだ。

 挨拶に来る貴族たちも、筆頭公爵家出身の王妃を気遣って後ろの方にいるユリアナたちに話しかけてくることはない。陛下もそれで良いと言ってくれているので無理に前に出ることはしない。

 一通り貴族たちの挨拶が終わるとユリアナたち親子は会場を後に去るのが常だった。

 そんな生活をしていた二人に転機が訪れようとしていた。


「お母様。今日くらい王宮に食事に行けば良かったのではありませんか?」 

 ユリアナが母メリッサに言う。今日も母たちが朝食を作っているのだ。

「今日だからこそよ」

 そう言って笑う母は美しい。38歳なのだがそれよりも若く見える。紫の髪をハーフアップに結び、琥珀色の瞳が優しく微笑みかけてくる。

 いつも食事は三人揃って摂る。最初に全ての物に口をつけるのは母だ。幼い頃はそれが不思議だったが、12歳になった時に理由を教えてもらった時は衝撃で涙が止まらなかったのを覚えている。

 母がしていたことは毒味役だったのだ。始めはアレッタがすると言ったらしいが、自分がやらなければ意味がないと言って無理矢理納得させたらしい。

 それまでユリアナは自分に弟か妹がいたかもしれないということを知らなかった。そして不思議と欲しいとも思わなかった。母とアレッタ、時々来る父、この生活で満ち足りていた。

 それが違ったのだ。捜査の結果でも検査の結果でも犯人の特定はされず、毒の検知も無しで有耶無耶になったが、母は飲んだ瞬間に舌がピリピリするものを感じたそうだ。

 不思議なハーブティーだと思って飲み込んだら直ぐにお腹が熱く痛くなったらしい。そのまま意識を失ったのか起きたら流産を知らされ、妊娠できない体になっていたそうだ。

 絶対に毒だと母は言う。メリッサを狙ったものだと。犯人が特定できないなんておかしすぎる。しかも王妃主催なのに、いくらハーブティーを淹れるのが得意だからといって、側妃の侍女に淹れさすような王妃ではないと。

 後から思えば斜め前に座っていた第三側妃のカップを持つ手が震えていたのも関係しているかもしれない。その時は体調が優れないのかと思ったが、今から起こることを想像し怯えていたのかもしれないとも言っていた。

 所謂母以外は全員関わっていたと母は断言している。その場にいた侍女たちも。それならば証拠が何も出てこないのは当たり前だ。侍女たちは入れ替わり立ち替わり動いていた。

 母に渡すカップに毒を入れる役。それを別の人に渡しその場から持ち出し別の何処かに埋めるか何かをして隠す役。そしてカップにハーブティーを淹れる分量を変える役。そしてそのカップを間違わず配る役。

 母はそうやったのではないかという。何故ならカップの中身が一般的より少ないと思ったらしいのだ。

 検知されなかったとされる毒も、検知されないものは世の中に実は未だたくさんあるらしい。 

 使われたのは、死なない程度で、体内に何らかの影響を与え、流産だけではなく、妊娠できない体にまでする毒だったのだろうと。

 母は寵愛を受けていることに気付いていて危険だと思っていたとも言っていた。全員に変わらないようにしているつもりでもどこかで差が出てしまうものだ。そういったことに女性は敏感だ。

 ましてや、待望の、しかも完璧な王家の色を持った王女を産んだ母への嫉妬は計り知れない。

 だから、奥でひっそりと暮らし、自分で料理をするのだと。そして自分で料理をしても、調味料や柔らかい野菜や果物に毒を仕込むことはできると考えて、母自らが毒見役をしているのだと。

 万が一のことがあった場合アレッタが倒れるより母が倒れた方が父が調査を主導すると言っていた。

 母はいついかなる時も油断しないように気をつけていた。銀の食器ではわからない毒もあるからだ。

 そしてそれに父も気付いていて、こっそりと母に贈り物を届けるようになった。使用人に変装した最側近の近衛騎士に、小さなそれでいて値の張る贈り物を渡し、奥の邸まで持って行かせるのだ。 

「うん、美味しく出来てる。さあいただきましょう」

 母の言葉で三人で食事をする。侍女のアレッタは結婚せずに、ずっと母の側についていてくれる大切な家族だ。

「今日が建国祭の最終日ね。舞踏会って本当に疲れるわ」

 母が愚痴る。国王陛下と王妃殿下は椅子に座るが他は全員立ったまま各人の挨拶が終わるまで居なくてはならないのだ。

「しょうがないわ。毎年のことだもの」

「何を言っているの。今年はもっと長いわよ。他国の王族も呼ばれていて客人が多いんだから」

 覚悟してなさいと母が言う。

「そうだったわ。他国からの客人が多いなら自国の出席者からは挨拶の人を減らせば良いのに」

「そんなわけ行かないわよ。でも日頃社交界から離れているから、余計に疲れるんだわきっと」

 そんな話をしながら楽しい朝食が終わり、舞踏会の準備をするまでの間、三人でおしゃべりしながら刺繍をした。

 今宵、ユリアナの人生が大きく変わることも知らずに。

 

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