マージナルマンの憂鬱
2023.2
あんよが出来るようになりました
下の乳歯が抜け屋根まで投げました
背中に赤い重荷を背負うようになりました
背中はいつしか軽くなり
その代わりにつま先が窮屈になりました
お赤飯を食べました
ハガキを持って権利を叫びに
小学校に行きました
人に触れられる悦びを知り
体温を分け合いました
そうして私は大人になったのです
身体のあちこちに巻かれた鎖を
少しずつ解いて
最後は足枷も外して
私は自由を求めて駆け出しました
走って走って走って
風は痛いくらい耳を切りましたが
それは堪らなく心地が良かったのです
何処に向かうのか
己の魂にのみ従い疾走しました
そうして見えてきた懸崖も
勢い付けて飛び出し
私は空へ放り出されたのでした
闇の空に飛び出した私は星を掴んだのです
他のどんな星にも引けを取らない
一等の星を手にしたのです
私はその星を手放すことがないよう
きつく拳を握りました
遂に解放に至ったのです
私は高揚に身を任せ
そのままぷかぷかと浮かんでおりました
けれど
快適な遊泳が永遠に続くことはありませんでした
浮遊感が私の腕を撫で囁くのです
サワサワ サワサワ
それがどうしようもなく不快で
心細くさせるから
私は腕を叩きました
星を握りしめていた拳を開いて
あっと思いました
星が掌から落下してしまった
そう思いました
けれど落下する星は何処にも見当たりません
身体を動かして其処ら中探しても
見つかることはありませんでした
星は闇に溶けてしまったのだ
私はそう思いました
けれど本当は
本当は星は落ちてなどいなかったのです
私は一等の星など握れてはいませんでした
あの時
一等の星を手にしたと思ったあの時
満天の星を前に
私の手は空を切っただけなのでした
そうして気がついたのです
私は明確に独りであると
手にしたかった自由は幻像で
掴むことなど不可能でありました
私はどこまで行っても不自由で
そしてどこまでいっても孤独なのです
空に放り出された私は
其処で寄る辺のなさに震えながら
時間を掛け孤独を肌に馴染ませてゆくしか
ないのであります
大人になるとは
大人になるとは孤独を知る事
なのでしょうか
足枷を付けていた方が
私は幸福だったのでしょうか
全ては自由を望んだ罰なのでしょうか
何かコメントが頂けると嬉しいです