勇者一行、学校に潜入する。(1)
地獄巡りしてました。
「いやいや待てって!見つかったんだよ痕跡が!」
「此処で話さなくても良いだろ!?」
本当に大変だった。あの後、あの手この手でお巡りさんに事情説明をし、結局諦めて周り含めた全員に忘却魔法をかける羽目になった。人目のつかない場所へと移動したツトムたちは、勇者一行を睨みつける。
しかし、アレックスの言葉でその表情は驚愕へと変わった。
「此処じゃなきゃダメだろ!反応があったの此処なんだから!」
「えっと……つまり、アレックスたちを転移させた人は学校関係者ってこと?」
「恐らく。」
杏の言葉にシャーロットが頷いた。こちらの世界において魔法は空想のものだ。恐らく件の魔法使いも、魔法を使えることを隠しているだろう。そんな人間がわざわざ人目につきやすい学校を拠点にしている。
つまり、此処にいても違和感を持たれない人物ということだ。
「木を隠すなら森の中……とはちょっと違うけど、人が多く集まる場所だからこそ特定しにくいってことか。」
「だから学校の中を探索させて欲しかったんだが、あれでは正面から入るのは厳しいだろうな。」
「あんまりやりたくないけれど、忍び込むしかないわねぇ。」
アレックスたちは何が何でも入る気満々なようだ。ツトムは止めるのを諦めたのか大きく溜息を吐いた。
「分かった。俺としても学校に痕跡があるのは見過ごせないし、協力する。ただし……」
「潜入するのは夜だ!絶対に学校の奴らに見られるんじゃないぞ!あと俺も連れて行くこと!」
……というわけで、本日の夜学校に潜入することが決まったのであった。
その日の深夜、人々が寝静まる頃。
「で、ツトムの心当たりってのが旧校舎か。」
「隠れて魔法を使うには最適だろ?」
学校内に魔法を使った痕跡があると聞いた時、ツトムは何となく心当たりがあった。校内にありながら殆どの人間が近寄らず、且つ怪しげな噂が立っている場所といえば此処しかない。
「フゥン、旧校舎ねぇ。でも、使われなくなったなら、何故壊さないのかしら?土地が勿体無いんじゃない?」
「何度も壊そうとしたらしいぞ。出来なかったみたいだけど。」
「出来なかった?」
そう、この旧校舎に人が寄り付かない最大の理由は、此処が曰く付きの建物だったからだ。
「俺も先輩から聞いた話だからどこまで正しいかは分からないけど、何でも工事が始まると2、3日もしないうちに原因不明の体調不良を訴える人が続出して工事が中断しちゃうんだと。」
それが何度も続くものだから、そのうちどこの業者も引き受けてくれなくなったらしい。そのような経緯でかれこれ10年近く放置されている。
「学校側も調査したみたいなんだけど、原因不明のままだったみたいだ。そのせいで、呪いだ何だのって言われて誰も近寄らなくなったらしい。俺も初めて来た。」
「呪いねぇ……。ツトム、1つ確認したいのだけれど。」
「ん?何だ。」
イザベラは旧校舎を見上げながら、ツトムに問いかけた。
「今こうして旧校舎に来たわけだけどツトムは体調悪くなった?」
「……いや?なってない。これからなるかもしれないから油断できないけどな。」
「なるほどね。分かったわよ、原因。」
「まじか!」
たった1つの質問で、イザベラは答えを導き出せたらしい。イザベラは少し呆れ顔でツトムを見つめると、溜息を吐きながら答えを言った。
「魔障に充てられただけね。」