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【完結済】異世界生活は難しい。〜勇者一行、現代日本に転移する〜  作者: 松竹紅葉
第4章 勇者一行、決戦へ。
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勇者一行、集結する。

ちょっと短め。

「「杏!」」

「お前たちまだ動くな!お前たちも重傷だろう!」

「クソ……ッ!」


 魔王ちゃんは傷が完治していないシャーロットとイザベラを諌めつつ、杏をすぐさま自分の元へと転送して目の前の男を睨みつけた。

 


 

 先程の一連の攻撃は魔王を仕留める為のものではなかった。あの状況で最優先すべきは瀕死のシャーロットとイザベラの救出だ。杏と莉花が陽動をしているうちに、魔王ちゃんが2人を救出、回復させる手筈だった。


「(こればかりは()()()()()()か……!)」


 幾ら訓練を積んだとはいえ、杏も莉花も命を賭けた戦闘は今回が初めてだ。戦いとはただ技を放てば良いのではない。戦いの中で生まれる駆け引きを制した者こそが勝者なのだ。


『何でノートゥの攻撃が効かない!?確かにノートゥはお前の精神に干渉した……ッ!』


 声を荒げたのはノートゥだった。それまでの笑顔は消え失せ、葬ることができなかった男に怒りを向ける。対して無傷の魔王はニヤリと笑ってみせた。

 

『貴女のことはよく知っていますよ、第4の女(フィルテ)。貴女に()()()()()のは御免被りたいですから、対策させていただきました。』


 人は誰しも悩みを抱えている。その原因を悩みの種と称することもあるが、ノートゥはそれに干渉することができた。


 通常であれば悩みの種は成長することなく摘まれてしまうことが殆どだ。だが、ノートゥは悩みの種を成長させることができる。悩みの種が成長して花を咲かせたが最後。その人間は()()()()()()()()()


 発狂した人間の末路は自ら死を選ぶか理性を失った獣に成り果てるかのどちらかだ。

 

『貴女の魔法を防ぐ手は私にはありませんでした。ならばどうするか……答えは簡単です。貴女に()()()()()()()()()。幸運なことに私の身体にはあと2つも精神が宿っていますからねぇ。ほんの少し精神に干渉しただけで、貴女は攻撃対象を間違えた!』

「「「ッ!」」」

「じゃあノートゥが攻撃したのは……」

『自身が魔王であると信じていた方ですよ。アレには私の魔力も込められていましたからねぇ。私がこの身体を乗っ取った以上、アレは用済みです。最後まで役に立ってくれましたよ。』


 魔王はケタケタと笑った後、自身の内に抑えていた魔障を解放した。視認できるほどの魔障が辺り一帯を満たしていき、周りの草木は音も無く枯れてゆく。


『り、莉花……ごめ……なさ』

「ノートゥ!」


 魔すら耐え切れないほどの魔障を直に浴びたノートゥは実体を保てなくなり消滅した。魔を扱う以上かなりの耐性を持つ筈の莉花ですら立ち眩むほどの濃い魔障は、魔法に触れない人々が浴びれば即死だろう。


「(杏は……)」


 頼みの綱である聖女()は魔王ちゃんが必死に回復させているものの、未だに目を覚ます気配がない。シャーロットとイザベラの回復が終わっていない以上、戦えるのは莉花1人だ。


「(私がやらなきゃ……!)」

『考え事をしている場合ですかな?』

「ッ!」


 一瞬の隙に移動した魔王の剣撃を莉花は間一髪で避けた。しかし咄嗟だった為、彼女は体勢を崩してそのまま倒れ込む。魔王はゆっくりと歩みを進めながら、自分が持つ剣を何度か振って見せた。

 

『ふむ、流石に肉体に染みついた剣技までは再現できないようですねぇ。癪に触りますが、元魔王(あの男)の剣の腕には敵いませんからなぁ。』


 魔王が手にした剣を消すと、今度は新たに禍々しい杖を生み出していく。干からびた人間の手を束ねたような杖の上には魔核の破片が埋め込まれた髑髏が鎮座しており、立ちあがろうとする莉花を見下ろしていた。

 

『やはり此方の方が私には馴染む。』

「悪趣味な杖……私が可愛くデコってあげよっか?。」

『心配御無用。装飾ならば貴女の血で十分でしょう!』


 魔王は鋭く尖った杖の先端を莉花目掛けて振り下ろす。呪術師(シャーマン)が死ねばあの巫山戯た格好の魔王との契約が切れ、その力を奪い易くなる。前回は仕留め損なったが、今回は誰も邪魔する者は居ない。


『(まさかこんなにもあっさり勝利できるとは……!流石は魔王の力、私は遂にガダルド様と並び立ったのだ!)』






――キンッ!






『……は?』

「よぉ、クソジジイ知ってっか?」




 魔王が気付いた時には杖は……否、杖()()()()()は莉花の身体を貫くことなく粉々に砕け散っていた。そして視界を遮って笑う青年の笑みを見て、魔王は背筋が凍っていくような感覚を覚える。



 

魔王と対をなす存在。

世界を救う力を持つ人間。

神に祝福された(呪われた)子供。



 

勇者(ヒーロー)ってのは遅れてやってくるもんなんだぜ?」




今代の勇者――アレックスは自身の剣を振り上げた。






「ッ!!杏、一体何が……ッ!?」

「回復代わります!《精霊王の祈り》!」


 アレックスと共にやってきたノアとツトムは、負傷していた杏たちの元へと急いで駆け寄った。魔王ちゃんの回復魔法によって何とか一命は取り留めたものの、未だ杏は危険な状態のままだ。


「杏……」


 恐れていた事態が現実のものとなってしまった。大量出血のせいか杏の肌はいつも以上に白く見える。守る為に強くなったというのに、大切な時に杏のそばにいてやれなかった自分にツトムは腹が立った。


しかし、戦闘中に後悔する暇などない。

 

「ツトム!杏のことは僕に任せてシャーロットさんたちに回復薬を!今は戦況を立て直さなければ!」

「ッ!あ、ああ!」

「魔王ちゃ……ンンッ!魔王さんはアルと莉花さんのサポートお願いします!」

「承知した。」


 後悔することができるのは生き残った者だけだ。ノアの呼び掛けにツトムはハッとなる。そうだ、自分は何をしているのか。


魔王との戦闘も重傷者の回復も、自分はできない。

この中で1番弱くて役に立たないのは自分だ。


それでも此処に居たいと思った。

皆と共に戦いたいと願った。


ならば――


「シャーロット!イザベラ!母さん特製の回復薬だ!」

「感謝する!」

「ありがとう!」


 ツトムはシャーロットたちに回復薬を手渡すと、そのまま会場へと駆け出した。


「えっ、ツトム!?何処行くの!?」

「……待て、イザベラ。ツトムには何か考えがあるんだろう。」

「そ、そりゃそうかもしれないけど……!」

「大丈夫。……ふふ、この数ヶ月間で少し似てきたんじゃないか?」


 走り去るツトムの背を見ながら、シャーロットは少し笑ってしまった。ツトムは若干捻くれてはいるが、根は善良な青年だ。そして、彼は誰かの為に動くことができる。




「覚悟を決めた顔、アルにそっくりだったぞ。」




「(俺は()()()()()()()()()()!)」


決意を固めた青年は、無人となった会場へと駆けて行った。






「《摩天斬》!」

『《闇の繭》』



 振り下ろした勇者の剣は弾力性のある闇の盾に防がれた。その勢いで跳ね返されたアレックスは即座に体勢を立て直して着地する。先程から繰り返し攻撃をしているものの、あの繭に防がれて碌にダメージを与えることができなかった。


「チッ!(中身が魔人、身体が魔王になっちゃいるとはいえ、大元がメガネ先生だと思うと全力が出せねぇッ!)」

『おやおや、どうしたんです勇者?威勢の割に先程から私に傷ひとつ付けること能わないようですが。』

「うっせぇ!つーかメガネ先生の顔で気持ち悪い笑み浮かべんじゃねぇよクソが!」


 魔王として覚醒した今、藤間が既に人ならざる者へと変貌しているのは間違いない。しかしだからと言って全力で斬りつけて死なせるわけにはいかないのだ。

 

「(どうする……どうする……!思考を止めるな、考え続けろ!)」

『戦闘中に考え事とは随分と余裕なようで。』

「しまっ……」

『《忍び寄る魔の手》』


 蜘蛛形態の時に見せた技が大幅に強化された状態でアレックスに襲いかかった。闇の(かいな)がアレックスを握り潰さんと迫る中、彼はニヤリと笑う。


「……ようやくお出ましかよ。」

『!?』

「《雷鳴拳》!」


その瞬間、魔王の視界が大きく揺れた。

世界がゆっくりと空一面へと変わっていく。


――殴り飛ばされた?


 地面に身体が叩きつけられると同時に視界の外から声がする。衝撃があった方向に目線を向けると、2人の少女が自分を見下ろしているのが分かった。


「さっきはよくもやってくれたな、魔人。」

「私のバフ全乗せ脳筋姫のパンチ、効いたでしょう?」


 エリザベスの回復薬によって全快したシャーロットとイザベラが勝気な笑みを浮かべて立っている。魔王は舌打ちをすると再び《闇の繭》で自身の身を守り、状況を整理する。


 勇者一行の最大の武器は仲間同士の連携だ。故に魔王は全員が揃う前に武闘家と魔法使いを仕留めようとした。途中で彼方側の魔王たちが来た時はどうなるかと思ったが、結果的に1番厄介といえる聖女を処理できたのは大きい。


『(私が藤間(この身体)である限り、奴らは自分を殺すことができないのだから。)』


 勇者一行の回復の要である精霊使いは聖女の回復に専念しているので戦闘には加わってこないだろう。大した魔法を使えない小童は何処かへ逃げ出した。


『(取り敢えず聖女は確実に仕留めましょう。また復活されては困りま……)』

「いつまで引っ込んでいる気だ?」

『……は、え?』


いつの間にか、自分の前に何かが居た。

視界は明るくなっていた。繭が消えていたのだ。


そのことに疑問を抱く余裕が魔王にはなかった。

何よりも重大なことを彼は忘れていたのだから。




「魔王が何たるか、その身に叩き込んでやろう。」




『死』は不敵に笑ってみせた。

地の文で魔王ちゃんと書くたびに感じるコレジャナイ感。本人が名前を名乗りたがらないせいでこう書かざるを得ないのです……。


誰だ魔王を2人も出したお馬鹿さんは。

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