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【完結済】異世界生活は難しい。〜勇者一行、現代日本に転移する〜  作者: 松竹紅葉
第1章 勇者一行、召喚される?
5/86

勇者一行、全知の魔女と出会う。

ツトムは離席中。


勇者王についての表記を一部修正しました(11/27)

「いつの時代も魔王は元気ねぇ。」


 そう呟いてツトムの母親、エリザベスは紅茶を口にした。 


 あの状況下で比較的冷静だったシャーロットがこれまでの経緯を説明し、エリザベスも何が起きたかを把握したらしい。


「エリさんが倒した魔王が復活したってこと?」

「それはないわね。あの時のはバッカスが一撃で倒しちゃったし。そもそも魔王は人の負の感情から生まれるものなの。人がいる限り、魔物も魔王もいなくなることはないわ。」

「へぇ〜。」


 杏が抱いた疑問に、エリザベスが答える。魔法に振り回されがちな杏だが、彼女から聞く冒険譚は昔から好きなのだ。


 ……ちなみにそんな彼女の息子であるツトムは、現在罰として研究室の掃除をしている。


「……あの、今更聞くようでアレなんですけど。」


そういえば、状況説明以降勇者一行は黙ったままだった。杏が彼らを見遣ると、心なしか全員顔が青い。特に声の主であるイザベラはガタガタと肩を震わせている。


「貴方は、貴方様は……あの勇者王バッカス様の仲間の1人、全知の魔女・エリザベス様ではありませんか?」


 勇者王?全知の魔女?杏が頭に疑問符を浮かべていると、エリザベスは声を上げて笑い出した。


「ブッ、アハハハ!随分と懐かしいあだ名ねぇ!そう呼ばれたの何びゃ……ンンッ!何年振りかしら。それにしても勇者王だなんていつ聞いても笑っちゃう。だってあの脳筋の擬人化みたいな奴がよ!?」

「「「「!?」」」」


エリザベスの言葉に勇者一行の緊張が走る。


「本物……?」


 そう言って倒れそうになったイザベラを、ノアが慌てて支える。


 そんなに有名人だったのか?と驚いた杏だが、ふと先程の会話の中で聞き覚えのある名があったことを思い出した。


「バッカスって、エリさんが言ってた勇者の……」

「そう、筋肉バカのバッカス。」

「あの赤ん坊の頃に聖剣を振り回してぶっ壊した脳筋の!?」

「そうそう。そのせいで新しい聖剣を作るために色んなところ旅しなきゃいけなくなったのよねぇ。」

「……あれマジだったのかよ。」


 つい先程まで、勇者王一行の話はかなり脚色されていたのでは……?という幻想を抱いていたアレックスであったが、それは思わぬ形で打ち砕かれた。


 そんな彼を見たエリザベスは、憐れむように言葉を紡ぐ。


「そういえば、貴方が今代の勇者なのよね。何というか……随分と覇気がないけれど大丈夫?戦えてる?見たところトムと同じくらいの年頃だし、お母さん心配だわぁ。」

「誰がアンタの息子だ!つか、余計なお世話だよ。大体何百年も前に活躍した勇者王の仲間って、アンタ一体今何さゴフゥッ!」

「あらごめんなさい、虫が飛んでいたみたい。」


 先程から何百年とかいう不穏なワードが飛び交っているが、白目を剥いた勇者(目の前の惨状)を見て杏は口をつぐんだ。これ以上詮索してはいけない。


「まあ、過去の話はそれくらいにして。貴方たちの身に何が起こったかについてだけれど……。貴方たちの予想通りよ。貴方たちはこの世界に『召喚』されたのではなく、『転移』させられた。」


 勇者一行に向き直したエリザベスは断言する。


「それも相当な手練れの仕業ね。一般人ならまだしも、魔王に挑もうとするような猛者を4人も転移させるなんて。何者か心当たりは?」

「それが全く。魔王の配下は全員倒していて、後は頭を叩くだけでしたから。」

「魔王の仕業ってわけでもなさそうだものねぇ。貴方たちの話を聞く限り。」


 エリザベスの問いにノアが答える。他の面々も心当たりはなさそうだった。つまり、魔王とはまた別の勢力の仕業ということだろうか。杏はふと、ツトムと一緒にクリアしたRPGを思い出した。


「……裏ボス、的な奴ですかね。犯人。」

「裏ボス?何だそりゃ。」


 杏が呟いた言葉に、意識を取り戻したアレックスが聞き返す。


「えーっと、なんて言えば良いのかなぁ。物語とかであるんですよ。魔王を倒して一件落着かと思ったら、実は魔王すら操っていた真の黒幕がいた!……みたいな。」

「成程。つまり、黒幕が何か意図を持って戦いを中断させ、我々をこの世界に飛ばしたというわけか。」

「それ絶対魔王より強い奴ですよね、勘弁してほしいなぁ。」


 RPGあるあるの展開だが、シャーロットたちは納得してくれたらしい。とてもじゃないが「ゲームの受け売りです」とは言えないので、杏は目を逸らした。


「貴方たちを元の世界に返してあげたいのは山々なのだけれど、このタイプの転移魔法は使った本人でないと不可能なのよねぇ。」

「エリさんでも無理なの!?」

「買い被りすぎよぉ、杏ちゃん。魔法には(ルール)がある。それを捻じ曲げることはできないわ。」


そう言うとエリザベスは一息ついてから、にこりと笑った。


「まあ、その犯人さえ捕まえればこちらのものだけれどね!」

「!」

「そうか!転移魔法によって転移させられたものには術者の魔力の残滓が付いている!それを利用すれば……!」


目をキラキラと輝かせるイザベラに向かって、エリザベスは大きく頷いた。


「そう、逆探知も可能よ。相手もそれは分かっているでしょうから探すのは難しいけれど。」

「それでもそいつを見つけなければ、元の世界には帰れない。……やるしかねえか。」


アレックスの言葉に、ノアたちも頷く。


「母さん、掃除終わっ」

「待ってろ魔王!とっとと元の世界に帰ってお前を倒してやるからなぁぁッ!」

「「「おおー!」」」


掃除を終え、部屋に戻ってきたツトムが訝しげに見つめていたが、彼らは気付かない。


こうして勇者一行は、異世界に召喚……ではなく転移されたのである。



「……どういう状況?」


ツトムの言葉は誰も聞いちゃいなかった。

ちなみにツトムは渾名なので本名は別にあります。

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