勇者一行、召喚される?(3)
エリさん登場。
「粗茶ですが……。」
「……どうも。」
何とも言えない気不味い時間が流れる。ツトムが差し出したお茶を受け取った彼ら―勇者一行の顔は険しいままだ。
「わざわざすみません。突然押しかけてしまったのに、この様にもてなしてもらって……。」
精霊使いの青年改めノアが礼を言う。地下室から居間へと場所を移したツトムたちは、向かい合うようにソファに腰掛けていた。
「我々もまだ完全には理解できていないのだが、此処は我々が居た世界とは異なる世界……なのだな?」
「はい。信じられないかもしれませんが……。」
武闘家風の美女―シャーロットは改めてツトムに確かめる。いずれ国を治める者として心のうちを悟られぬよう訓練している彼女であっても、この事態には動揺せざるを得なかった。
「魔法が空想上のものねぇ。何だか変な気分だわぁ。」
金髪魔女のイザベラは未だに信じられないという顔だ。何とか気を落ち着けようと先程から何度もカップを口に運んでいるが、既に中が空だということに気付いていない。
「つーかさ、お前らの話が本当だとして何でお前らは魔法の存在を知ってるんだよ?」
「えっとそれは……」
勇者アレックスの問いに対しツトムが口を開こうとしたその瞬間だった。
「ちょっとトム!貴方またお母さんの研究室に入ったわね!?」
突如として爆風が巻き起こり、ツトムが吹っ飛ばされる。この緊急事態にそれまで寛いでいたアレックスたちもそれぞれ戦闘態勢に入った。
爆風と共に美しい金髪をたなびかせて現れた年齢不詳の美女は、青筋を浮かべて吹っ飛んだツトムを見下ろした。
「お…おかえりなさい。母さん。」
想定した時間より早く帰ってきた母親に、ツトムは思わず顔が引き攣る。
「トム、お母さんがいない時に魔法は使うなってあれほど言ったでしょう。いきなり莫大な魔力を感知してこっちはどれだけ血の気が引いたか!折角ママ友会で盛り上がってたのに、泣く泣く引き返してきたのよ!大体あなたはいつ」
「エリさんストップ!」
このままだと1時間説教コースだ。正直ツトムの自業自得なので杏に庇うつもりはないが、説教より先にやってもらわなければならないことがある。
「あら杏ちゃんいらっしゃい。またトムが迷惑かけちゃってごめんなさいねぇ。杏ちゃんも嫌だったら断って良いのよ?」
そう言ってさっきの般若顔は何処へやら、杏の目の前の美女は微笑んだ。
「ええ、そうします。私がちゃんと止めてればこうはならなかったでしょうし。」
「それってどういう……。」
杏が死んだ目で見つめる視線の先を、ツトムの母親も目で追う。
シンプルで且つ秘めた力を感じさせる剣を構えたアレックス。
すぐにでも脚技を繰り出せるような体勢のシャーロット。
詠唱を済ませ、後は魔法を放つだけのイザベラ。
精霊を呼び出し、仲間たちを強化するノア。
どう見てもラスボスに挑む勇者たちの構図である。
「……1から説明してもらいましょうか。」
そう言って彼女は溜息を吐いた。
エリさんは作中最強の魔女です。