勇者一行、魔核竜と決着を付ける。
いざ、決戦の時。
ツトムは旧校舎を駆け抜けながら、初めて母から魔法を教わった時のことを思い出していた。
「良い?トム。まずこれだけは覚えていて欲しいのだけれど、魔法は万能じゃないわ。特に、この世界ではね。」
「この世界では?」
「ええ。」
エリザベスは頷くと、掌から小さな光を出した。
「うわぁ、すごい!」
「ふふ、まあトムからすればそうかもね。でもこの魔法はね、本当だったらトムの頭の大きさくらいの光を灯す魔法なのよ。」
「えっ!?」
驚くツトムにエリザベスはニコリと微笑むと、掌から光を消した。
「でもこの世界では魔法の威力が落ちてしまう。本来、この世界は魔法を必要としていないから。」
「必要じゃないの?」
「そうよ。だってトムはお肉焼くのにわざわざ炎の魔法を使う?」
母からの問いに、ツトムは首を振った。わざわざ魔法を使わなくても、家にあるガスコンロを使って焼けば良い。
「でしょう?この世界は魔法じゃなくて科学で発展してきた。だから魔法の力がどうしても弱くなってしまうの。」
「じゃあ、僕が魔法覚えても杏ちゃんを守れない?」
ツトムが悲しそうに聞くと、エリザベスは優しく頭を撫でる。
「それはトム次第かしら。あとは……そうねぇ、科学の力を理解すること!」
「科学を?魔法の勉強するのに?」
どういうことかと不思議そうにするツトムに、エリザベスはお茶目なウィンクをしてみせた。
「この世界は『科学』が理。どんな強い魔法だって、この世界の理からは逃れられないんだから。」
一方多目的ホールでは、勇者一行と炎龍の戦いが続いていた。
「オラァッ!」
「グルゥゥゥゥ……グギャアアアア!」
アレックスが振り下ろした剣が、炎龍の右腕を切り落とす。しかしその後すぐに炎は再生し、アレックスへと襲い掛かった。
「うおっ!?」
「風虎拳!」
シャーロットの拳によって、炎龍の攻撃は当たることなく宙を切る。このような戦いをずっと繰り返していた。
「はぁはぁ、そろそろ魔力切れそうなんだけどぉ……。」
「ぼ、僕も……ちょっと厳しくなってきました。」
特に後衛の2人は魔力消費が激しい。杏が事前に回復していなければ、とうの昔に戦線は崩壊していただろう。
「まだだ!こんな所で負けてたまるかよ!」
アレックスが鼓舞するが、限界はある。これ以上長引かせるのが難しいことは、彼自身がよく分かっていた。
「(一か八か、あの炎に突っ込んで魔核を叩き割るしかねぇか……!)」
火の加護を受けていたイザベラですら重症の火傷を負ってしまっている炎だが、今仕留めなければ全員倒れかねない。アレックスは大きく深呼吸をする。そして突きの構えを取り、そのまま炎龍へ向かって走り出した。
「アル!まさか魔核まで突っ込む気ですか!?」
「そうでもしなきゃ倒せねぇだろ!」
ノアが目を開いて止めようとするが、こういう時のアレックスが止まらないのは分かりきっていた。
「あーもう、ノア!私たちで最大限の強化魔法かけるわよ!」
「分かりましたッ!こんな所でくたばらないでくださいよ、アル!」
ノアとイザベラの詠唱が幾つもかかり、アレックスはより速く、より力強く地を駆ける。
「援護する!こっちだ炎龍、鎌鼬!」
アレックスの意図を察したシャーロットが放った風の刃は、炎龍の足元へと向かう。
「グギャッ!?」
両足を見事に切断された炎龍はそのまま前へと倒れ込む。これで吐息は封じられた。
「最後の我慢比べだクソドラゴン!良い加減くたばりやがれェェェェェッ!」
勇者は天高く跳躍し、炎龍の背から炎を放つ魔核を捉える。そして覚悟を決め、勇者が剣を振り下ろそうとしたその時だった。
「雷鳴け……ッ!?」
炎龍の上で、一瞬勇者の動きが止まる。
先程、ドラゴンは前から倒れ込んでいた。だから正面を避ければ吐息は当たらない。だからこの瞬間に賭けた。だというのに……
何故アレックスの目の前に、炎龍の頭があるのか?
「(やられた……ッ!)」
炎の身体はアレックスたちが思う以上に変幻自在だった。再生は勿論、腕や足を、それから頭ですら増やすことができたのだ。
「(再生しかできないってこっちに思い込ませやがった。この隙をずっと狙ってたんだ!)」
してやったり。そんな顔を浮かべた炎龍は新たな頭から空気を取り込み、吐息の体勢になる。
「クソォォォォォッ!」
炎龍の口から、灼熱の炎が顔を出す。音を立て此方に向かってくる炎を前に、アレックスは静かに目を閉じた。
「アレックス!」
「!?」
アレックスは目を見開く。誰かが叫んでいる。いや、誰かは声で分かる。声をする方向を横目で見遣ると、そこに居たのは想像通りの人物だった。
母親譲りの金髪を持つ、自分たちとは住む世界の異なる人間。不器用なお人好し。
ツトムだった。
杏を連れて旧校舎から出て行った筈のツトムが、どういう訳か多目的ホールへと舞い戻り、あろうことか炎龍が居る方へと向かってきている。
「なっ……!」
一体何を考えているのか。それより此処まで近付くと、炎龍の吐息に巻き込まれてしまう。
「ツトム、逃げ……」
ピンッ!
カランカラン……
ツトムは何かを持っていた。その何かから栓のような物を抜いて投げ捨てると、手に持ったそれを炎龍へ向けて放った。
「これでも食らえェェェェェ!」
プシューッ!
「……は?」
この状況下に相応しくない気の抜けた音。炎龍の炎が放たれた筈だが、ツトムが放った何かとぶつかると同時にアレックスの目前で消えてゆく。周囲はツトムが放った謎の白い気体のようなもので覆われてしまい、視界が不明瞭となってしまった。
「うおっ!?」
アレックスは体勢を崩し、そのまま地面に着地する。よく分からないが、ツトムが放った何かによって炎龍の吐息を喰らわずに済んだようだ。
「ゲホッ、ゴホッ!……そうだ、炎龍のヤツは何処に!」
あの位置だったら炎龍の上に着地する羽目になってもおかしくないのだが、周辺にはあれほどの図体の魔物は居ない。
「まさか逃げたんじゃ……!」
天井は炎龍の炎によってとうに無くなっている。寧ろ、杏を殺しに飛んで行かなかったのが奇跡なくらいだ。アレックスが慌てて周囲を見渡すと、白い煙の隙間から弱々しい炎を放つ球体が見えた。
「魔核!?」
周囲を漂う不快な魔障が、その球体が炎龍の魔核であることを物語っている。だが、炎龍を形作っていた筈の炎は今にも消えそうになっており、あれほどまでに勇者一行を苦しめた強敵には見えなかった。
「一体何がどうなって……いや、そんなことは後で良いな。」
アレックスは突きの姿勢を取り、そのまま一瞬で距離を詰める。
「あばよ、クソドラゴン。」
アレックスは静かに魔核を貫いた。魔核は音を立てて崩れ去り、魔障は霧散する。先程とは異なる、確かな手応えがあった。
「勝った……ぞぉ……。」
拳を突き上げた後、アレックスは後ろへ倒れ込んだ。緊張の糸が切れたのか、そのまま静かに寝息を立てる。
VS魔核竜戦 勇者一行(+ツトム)は勝利した!
次回、ツトムが放ったモノの答え合わせです。




