勇者一行、魔核竜を討伐する。(7)
書いてたらどんどん長くなっていく…
イザベラの魔法によって攻撃を防がれた炎龍は、忌々し気に杏を睨みつけた。
「此方は眼中にないか。舐められたものだな!」
再び振り上げられた炎龍の腕を、タイミングよくシャーロットが弾く。炎の形態になってはいるが実体はある。炎龍は僅かに体勢を崩した。
「ナイスだシャーロット!畳み掛けんぞ!」
一瞬のうちに後方から詰め寄り跳躍したアレックスは、炎龍の脳天に一閃を放つ。
「摩天斬!」
炎龍はアレックスの攻撃を受け、地面へと叩き付けられた。しかしその一撃を受けてなお、炎龍は炎の形を変えて何事もなかったかのように立ち上がる。
「ああクソッ!これで何度目だよ、今のだって良いとこ入ってたろ!」
「うーむ、やはり魔核を潰さなければ倒せないようですね。」
シャーロットがイザベラを介抱している間、アレックスたちは何度も炎龍にダメージを与えていた。だがあの炎の身体はすぐに再生する為、此方が削られる一方だったのだ。
アレックスたちのやり取りを聞いたイザベラは、炎龍を見据えながら後ろにいるツトムたちに語り掛ける。
「ツトム、杏。貴方たちはもう逃げなさい。お陰ですっかり元気になったわ。」
「えっ、でも……」
杏はツトムの腕の中でモゾモゾと動きながら反論するが、すぐ近くに居たシャーロットが彼女の頭を撫でながら諌める。
「杏、貴方の回復魔法は強力だ。だが魔力切れで動けないのならば、今の貴方は足手纏いでしかないぞ。大丈夫、我々は必ず勝利する。」
「……ッ。」
「杏、2人の言う通りだ。今の俺たちが居たら、アレックスたちは戦いづらくなる。」
勇者一行のことだ。きっと戦えないツトムたちを庇いながら戦闘することになる。それが分かっていたからこそ、アレックスたちはツトムにホールの外で待機するように言ったのだ。
「分かった。ごめんね、これからって時に……。」
「それは違うぞ、杏。貴方が居なければ、今頃我々は4人揃って炎龍を相手にすることは叶わなかった。」
そう言ってシャーロットは再び前を向くと、攻撃の構えをとる。
「もう先程のような無様を晒しはしない。だから安心して待っていてくれ。」
「……うん!」
シャーロットの力強い声に、杏は笑顔で頷いた。
「よし。杏、行こう。」
「お、お願いします!」
ツトムは杏を背負い、多目的ホールを後にする。ツトムは敢えて振り返らなかった。
アレックスたちは勝つ。
その為に、今ツトムができることをするのだ。
「……で、ツトムたちを避難させた訳ですが。」
ノアはツトムたちを見送ると、目線を炎龍へと移す。
「どうやって倒します?コレ。」
勇者一行は、この炎龍を倒す術が全く思い浮かんでいなかった。
「あの炎の身体は斬っても意味ねぇぞ。すぐ元通りになっちまう。」
あの姿となった炎龍相手に奮闘していたアレックスが呆れたように言う。炎龍自体は魔核竜だった時より攻撃は単調になっており、躱すのも攻撃を加えるのも格段に楽だ。だが……
「魔核をそのまま狙えないのか?」
「いや、無理だな。それが出来たらとっくにやってる。」
シャーロットの疑問を、アレックスはすぐに否定した。
「弱点は丸見えだが、其処を狙おうとすると炎が大きくなって突っ込めなくなる。」
「あの炎で焼かれるのは2度と御免被るわねぇ……。」
兎に角あの炎が厄介だった。そのまま突っ込めば黒焦げは間違いだろう。それで実際に死に掛けたイザベラは苦虫を噛み潰したような顔をして頷いた。
「なら遠距離魔法はどうだったんだ?ノア、試したんだろう?」
「ええ。ですが私の精霊魔法では発動に時間が掛かる上、私自身攻撃魔法はそれほど得意ではありません。結果はまあ、見ての通りです。」
特に傷付いた様子も見せずに此方を威嚇する炎龍。あまり効果はないのは明らかだった。
「……さっきの守護水鏡ですら一瞬で蒸発したものねぇ。私の水系統魔法でも何処まで通用するかしら。」
「魔王よりやべえんじゃねぇの?コイツ。」
とはいえ、対抗する術がないからと逃げるのは勇者一行ではない。やることは最初から決まっている。
「ま、俺たちで攻撃与え続けたら流石に日和るだろ!」
単純な火力押し。勇者一行と炎龍の我慢比べが始まろうとしていた。
「……ダーリン、それは流石にどうかと思うわよ?」
「ああ神よ。今代の勇者、本当にアルで良かったんでしょうか?」
「馬鹿は気楽で良いな。」
「お前らだって良い作戦思いつかない癖に!」
相変わらず、アレックスには厳しい3人であった。
「あの炎、厄介そうだったね。アレックスたち、ああは言っていたけれど、本当は対抗策とかないんじゃ……。」
「確かに。結局力押ししそうだよなぁ。魔核が生み出した炎を何とかして消せたら良いんだけど……。」
旧校舎を駆け抜けながら、ツトムと杏はアレックスたちの無事を祈っていた。炎龍の熱波で回線がダメになったのか、廊下は暗い。光を灯す魔法で道を照らしながらツトムたちは出口に向かう。
「(それにしても……)」
ツトムは言葉にしなかったものの、あることに驚いていた。
「(さっきから1度も魔物に出くわしてない。)」
念の為結界を張りながら進んでいたが、魔物どころか魔障すら周囲から消え去っている。先程の杏から放たれた光と関係があるのだろうか。後で母に聞いてみよう。そんなことを考えながら走り続けていると、杏が呟いた。
「いっそのこと、消防車で炎龍を退治できたら良いのに。」
「大量の水をぶっかけるってこと?」
「うん。」
確かにあれほど大きな炎であれば消防車を引っ張って来ない限り消火は到底不可能だが、そもそもあの炎龍の炎は魔核によって生み出されたものだ。幾ら炎のエキスパートといえど、魔法の炎は管轄外だろう。
「消防車の水如きで消せたら苦労しないでしょ。それにイザベラの水系統魔法は消防車以上の威力だと思うよ。」
それでもあの水の盾は一瞬で蒸発してしまった。どんなに大量の水を用意した所で止まらないだろう。
「魔法由来じゃなければ科学の力で消せるのにーッ!」
「ハハ、そうかも……ん?」
杏が悔しそうに言うので、ツトムは思わず笑ってしまう。だが、その一言が引っかかった。だんだんとツトムの足取りは遅くなり、やがて立ち止まる。
「ツトム?」
走るのをやめたツトムを心配して、後ろから杏が声を掛ける。
「大丈夫?……ハッ、ひょっとして私重かった!?もう歩けるから!降ろして大丈夫だからぁ!」
ツトムの背中で顔を真っ赤にした杏が暴れるが、長考に入った彼にその言葉は届かなかった。
「……杏。」
「はぁはぁ……な、何?」
どれくらい時が経っただろうか。暴れ疲れた杏が息を切らしていると、漸くツトムが杏に話し掛けた。
「結界石を持って先に旧校舎を出て。」
「えっ。」
「俺はアレックスたちの所へ戻る。」
ツトムの一言に杏は驚愕する。その表情は読み取れないが、長年の付き合い故に杏は理解した。
ツトムは本気だ。
「なな何言ってんの!?足手纏いになるから私たち逃げてるんだよね!?」
「うん。でも俺の予想が正しければ、あの炎龍を倒せるかもしれない。」
その言葉に杏はハッとした。
ツトムは時々凄い集中力で考え込むことがある。そういう時のツトムは梃子でも動かないだろう。そして長考の末に導き出した結論が間違っていたことは、杏が知る限り1度もない。
杏は大きく溜息を吐いて、自分からツトムの背を降りる。
「……分かった。」
「ありがとう、杏。歩けそう?」
「大丈夫。大分身体はマシになったから。」
そう言って杏は手渡された結界石を割る。すると周囲から強力な結界が現れ、杏を包み込んだ。
「こういう時のツトムは何言ったって聞かないじゃない。良い?外で待ってるから。ゼーッタイ皆で帰って来なきゃ許さない!」
そう言って杏は大輪の花の様な笑顔を向けると、そのまま出口へ向かって駆け出した。
杏の姿を見送ると、ツトムは踵を返す。
「……よし、行こう。」
少年は再び、勇者の元へと駆けて行った。
次回、ツトム大活躍。




