勇者一行、魔核竜を討伐する。(6)
お待たせしました…
「助けに来たよ!」
死に掛けているイザベラへ駆け寄った杏を前に、ツトムとシャーロットは思考を停止していた。
何故此処に?
魔物だらけの旧校舎をどうやって突破したのか?
そもそも助けに来たとはどういうことか?
ツトムは勿論、あの冷静なシャーロットでさえ頭に疑問符が浮かんでいる。2人とも、全くこの状況を理解できていなかった。
「多分、できるはず……。」
そんな2人を他所に、杏はイザベラの前で立ち膝に座って祈り出した。
「お願い、イザベラさん治って!」
杏が目を閉じ、強く願ったその刹那。突如として、杏から金色の光が溢れ、そのままホール全体を包み込んだ。
「えっ!?」
「これは一体……き、傷が!」
炎龍が放った熱波の光とは異なる、優しい光。触れたものを温かく包んでくれるようなその光は、シャーロットの傷を癒やしていく。
そして、それはイザベラも同じだった。光を纏った杏が優しく彼女に触れると、一際大きな光が放たれる。思わず目を瞑ってしまったツトムが再びその目を開けると、そこに居たのは傷ひとつない金髪の魔女だった。
「ん、私……」
「イ、イザベラ!」
「んぎゃッ、シャーロット!?え、何!?何で抱きついてくんの!?ていうか苦しッ、死ぬ、死ぬうッ!」
感極まったシャーロットに全力で抱きつかれ、再び死に掛けるイザベラ。これで死なれては困るので、ツトムは何とか2人を引き離そうとする。
「シャーロット!イザベラを殺す気か!?一旦離れて!」
「し、しかし……ッ!」
「え、私このままシャーロットに抱き殺されるの?」
まさに混沌。目の前で起こった奇跡に、皆混乱していた。そんな様子をニコニコと眺めている杏を見て、ツトムは漸く正気に戻る。慌てて杏に駆け寄ると、肩に手を置いて正面からじっと見つめた。
「ふぇっ!?」
杏が思わず顔を赤らめるが、ツトムは全く気が付いていない。
「……。」
「ツ、ツトム……?あの、ちょ〜っと顔が近い、かなぁ?」
「……ごめん、言いたいことが纏まらなくて。とりあえず、怪我はない?」
「う、うん。」
杏の無事を確かめると、ツトムはホッと一息を吐く。よく分からないが、杏によってイザベラの命が救われたのは確かだ。
ツトムは心の中で大きく深呼吸すると、目の前の杏に優しく尋ねた。
「えっと、まず聞くよ?……その光、何?」
杏は未だに黄金の光を纏ったままだった。ずっと彼女からは光が溢れており、ツトムたちは傷どころか疲れまで取れてきている。ツトムの問いに杏は暫く考え込むと、首を傾げながら答えた。
「何か覚醒した……みたいな?」
「……。」
魔法にある程度の理解があるツトムですら混乱するのだ。杏がよく分かっていないのは当然だろう。当然なのだが……
「何かって何!?何で疑問系なの!?」
ツトムは突っ込まずにはいられなかった。そんな彼に、杏は涙目になりながら反論する。
「私だってよく分かんないんだもん!皆無事だと良いなぁって祈ったら、急に身体が光って女の人の声が聞こえて、ツトムたちのところに行かなきゃって思ってぇ……!」
「う、うん?わ、分かった!分かったから落ち着いて!ほ、ほら!」
興奮状態の杏を落ち着かせる為、ツトムは杏を優しく抱きしめた。ツトムの腕の中で杏はビクリと飛び跳ねて、それからだんだんと静かになっていく。同時に放たれていた光はその範囲を狭め、やがて杏の中へ収束していった。
「どう?落ち着いた?」
「う、うん……あ、れ?」
完全に光が消えると同時に、杏は力が抜けたのかツトムにもたれかかった。
「杏!?」
「大丈夫、ただの魔力切れよ。」
そのまま崩れ落ちそうになった杏を慌てて抱き抱えたツトムが振り返ると、先程の2人のやりとりを見ていたイザベラとシャーロットが駆け寄ってきていた。
「あれだけ広範囲に癒しの魔法を掛けたんだもの。制御できてなかったみたいだし、きっと全力を出し切っちゃったんでしょう。」
そう言うと、イザベラはニヤリとして続けた。
「それにしても……随分と見せつけてくれるじゃない。お熱い関係なのねぇ♡」
「なっ!」
「えっ!」
イザベラの言葉に、ツトムと杏は顔を真っ赤にする。確かに、今のツトムたちは側から見れば熱い抱擁を交わしているようにしか見えないだろう。
「思わずきゅんきゅんしちゃったわぁ!ね、シャーロット。」
「ああ。……すまない、見ているこっちまで恥ずかしくなった。」
そう言って頬を染めながら目線を逸らすシャーロット。2人からの感想を受け、ツトムと杏の頭から湯気が出そうになっている時だった。
「グギャアアアア!」
獣じみた咆哮に、それまで緩んでいた空気が再び凍るのを感じる。死の気配を感じてツトムが振り返ると、それまでホールの中心に居た炎龍と目が合った。いや、違う。ツトムは即座に理解した。
炎龍が目を向けているのは、ツトムが抱き抱えている杏だ。
「ツトム、杏!逃げろぉぉぉ!」
ホールの中心に居たアレックスが叫ぶと同時に、炎龍は両翼を広げ一気に距離を詰めてくる。大きな炎は形を変え、ツトムたちを飲み込むように襲い掛かった。ツトムは咄嗟に結界石を取り出すが、それよりも先に炎の鉤爪が到達する。
「クソッ!」
「グルゥアァァァァ!」
せめて杏だけはと庇うように炎龍に背を向けたツトムだが、その身が切り裂かれることはなかった。
「え?」
ツトムが振り返ると、そこにあるのは大きな水の盾。そして、その魔法を発動した金髪の魔女だった。
「全く!空気読みなさいよ、馬鹿ドラゴン!全身炎になって脳味噌まで燃え尽きちゃったワケ!?」
そしてツトムたちを守るように、銀髪の髪をたなびかせた少女が前に立つ。
「同感だ。折角2人の関係について根掘り葉掘り聞けると思ったのに!」
「「(怒るとこ、そこ!?)」」
「いや、その前にドラゴン倒せよ!?」
アレックスの突っ込みは夜空に虚しく響き渡った。
イザベラもシャーロットも恋バナが大好きです。




