勇者一行、魔核竜を討伐する。(5)
アレックス頑張ってます。
「プハッ!ハァハァ……有難うございます。」
「ノアも無事で良かった。」
ツトムから回復薬を貰って回復したノアは、ゆっくりと身体を起こした。ノアの周囲には、彼のことを労るように幾つもの光が飛び回っている。
「君たちにも心配をかけてしまいました。咄嗟に加護を与えてくれて有難うございます。」
ノアが言葉を掛けると、色とりどりの光は飛び跳ねるようにクルクルと回った。
精霊使いになるには、様々な系統魔法の適性と精霊に愛される才能が必要とされている。精霊を気遣う姿から、ツトムはノアが精霊に愛される理由が分かった気がした。
「今アレックスがあの炎のドラゴンと戦ってる。合流してやってくれ。俺はその間にシャーロットたちにも回復薬渡してくる。」
「えっ!?いやいやツトム!君は今すぐにでも逃げ……」
「アレックスに頼まれたんだ。」
「!」
「だから行くよ。」
ツトムのその眼は、真っ直ぐにノアを見つめている。その真剣な眼差しに、ノアは見覚えがあった。
「……分かりました。少し待っていてください。」
ノアはすぐ近くを漂う赤い光に話しかけ、詠唱を始める。するとツトムの身体が一瞬熱くなり、温かな光で包まれた。
「火の加護です。気休めでしょうが。」
「ありがとう、じゃあ行ってくる!」
駆け出したツトムの背を見送った後、ノアはすぐさまアレックスの元へ向かう。アレックスに与えた加護がそろそろ切れる。幾ら勇者と言えども、強化魔法無しに戦うのは厳しいだろう。
ましてや、あの炎龍ともなれば。
「全く、1人で戦おうなんて烏滸がましいにも程がある!」
昔からそうだった。魔力探知は下手くそだし、料理をさせれば辺りは更地と化し、普通だと馬鹿にされれば子供のように怒り出す。その癖、誰かの為に戦う時は誰よりも真剣で頼もしい。そんな姿に周りの人間は心を動かされ、勇気を与えられてきた。
きっと、自分に回復薬を飲ませてくれた彼も。
「弟ばかりに無理をさせる訳にはいきません。君たちも協力してください!」
周囲を飛び交う精霊たちは、ノアの言葉に反応する。言葉は話せずとも心は通ずるのだ。
「全力でいきます!此処で食い止めますよ!」
「……ベラ、イザベラ!」
「シャーロット!」
「ツトムか!?」
シャーロットの声がする方へツトムが向かうと、彼女は黒い何かを抱えていた。シャーロットも怪我は負っていたものの、自分で歩ける程度には傷が浅かったようだ。
シャーロットはツトムが現れたことに驚いたが、手に持っていた回復薬を見て、すぐさま状況を把握したらしい。
「ツトム、頼む早く回復薬を!イザベラが!」
「え、イザベラ?……まさか」
ツトムはそこで漸くシャーロットが抱えていた黒い物体がイザベラであることに気が付いた。
美しい金髪は見る影もなく、皮膚は完全に炭と化していた。微かに聞こえる呼吸音で辛うじて生きていることが分かる。だが、その命の炎は今この瞬間にも消えようとしていた。
「イザベラ!回復薬だ!早く飲め!」
シャーロットはツトムから回復薬を受け取ると、イザベラの口に流し込む。しかしイザベラの意識は既になく、口から液が溢れるだけだった。
「何でイザベラだけ……」
「あの熱波が来る直前、イザベラが咄嗟に防御魔法を放ったんだ。自分の身を顧みずに。……馬鹿だよ、本当に。」
そう呟くシャーロットは目に涙を溜めていた。
確かに不思議だった。結界石で身を守っていたツトムは兎も角、アレックスたちはあの炎龍の間近に居たのだ。全員がイザベラのようになってもおかしくはなかった。
「頼む、飲んでくれ!このまま死ぬ気か!目を覚ませ、イザベラ!お願いだから飲んで……ッ!」
普段の誇り高い姿とは打って変わって、今ツトムの目の前に居るのは仲間を失う恐怖に怯える少女だった。
……アレックスに託されたのに。
ツトムは己の無力さを痛感していた。
彼等が命を賭して戦っている中、ただ何もせずに居た自分が許せなかった。
目の前で潰えそうな命を前に、何も出来ない自分が許せなかった。
……結局、あの時と何も変わらない。自分は無力な子供のままなのか。
「俺は、結局何もできなかったのか……」
ツトムは拳を強く握りしめた。
あの日、助けを求める杏の姿が脳裏を過ぎる。何も出来なかった自分が情けなくて、悔しくて。だから母親から魔法を教わったのだ。
……大切な人を守れるように。
しかし回復薬が使えぬ今、ツトムたちにできることはなかった。その間にもイザベラの呼吸音は更に小さくなっていく。
ツトムたちが絶望に打ちひしがれていた時だった。
「諦めちゃダメだよ!」
「でも俺たちじゃもうどうしようも……って、え?」
後方で響いた、この場に不釣り合いな明るい声。
鈴を鳴らしたような可愛らしいその声を、ツトムはよく知っている。振り返ると、ツトムたちが想像した通りの少女がそこに居た。
「「杏!?」」
佐藤杏、15歳。突如覚醒した女子高校生。
目の前に現れた救世主は満面の笑みでこう言った。
「助けに来たよ!」
久々に杏が登場です。




