勇者一行、魔核竜を討伐する。(4)
久々のツトム登場。
「アレックスたち、大丈夫だよな……?」
時は少し遡る。ホールの中にまさかドラゴンが居るなど露にも思わないツトムは、結界に入ってこられない魔物たちにメンチを切られながら扉の前に座っていた。
結界は魔法も物理攻撃も通さないが、それだけだ。残念ながら騒音は防げない。正直、薄暗い校舎で魔物たちの不快な呻き声を聞いていると気が狂いそうになる。
そして、先程から窓が割れる音や何かが崩れる音が聞こえてきていた。……本当に気が狂いそうになる。
「もうこの校舎もたないんじゃ……。」
人が居なくなった建物は急激に老朽化が進むと聞く。件の魔法使いがいつから此処を拠点としていたかは分からないが、この建物がいつ崩壊してもおかしくはない。
生き埋めにだけはなりたくない等とぼやいていた時だった。
ツトムの後ろの扉から、旧校舎内を明るく照らす光が差し込み、白に染まった。そして間髪入れずにホールの扉と周辺の魔物が吹き飛んでいく。結界に弾かれた扉はそのままツトムの目の前に居た魔物に直撃した。眩しくてよく見えないが、トマトが潰れたような音がしたのは気のせいだと思いたい。
やがて光が消え、周囲は再び暗闇へと変わる。だんだんと目が慣れてきたツトムが背後を振り返ると、そこに広がるのは高熱で溶けた壁と辺り一面を焼き尽くす炎。
そして……
その中心に居る『何か』。
「……ハッ、アレックスたちは!?」
アレックスは慌てて周囲を見渡す。電気などは当然無く、失われた天井から覗く月明かりを頼りに探すしかない。燃える何かに見つからないように進んで行くと、聞き慣れた声がした。
「……ツトムか?」
「ッ!アレックス!」
声の主はアレックスだった。よく見れば所々血が出ており、火傷している形跡もある。ツトムは慌てて駆け寄ると、エリザベスから持たされた回復薬を取り出した。
「とりあえず飲め!母さん特製だから効果は保証する!」
ツトムは瓶の蓋を開け、アレックスの口に無理矢理流し込んだ。するとアレックスの身体が柔らかい光に包まれ、傷が段々と塞がっていく。瓶が空になる頃には、すっかり傷が癒えていた。
「ングッ……ハァ。助かった、ありがとな。」
「良いよ、これくらい。それよりアレは一体……。」
周辺に炎を吐き出す竜は、気が昂っているのかアレックスたちを探す様子はない。だが、それも時間の問題だろう。
「……分からん。少なくとも只の魔核の守護者じゃなかったってこったな。」
アレックスは立ち上がると、剣を構える。その眼が咆哮を上げる炎龍を捉えると、静かな声で呟いた。
「ツトム、悪イが旧校舎のことは諦めてくれ。」
目の前の敵は既に存在してはいけないモノとなってしまった。此処で倒さなければ、魔法に対抗する術を持たない此方の世界は崩壊してしまう。今のアレックスに校舎のことを考える余裕はなかった。
「……。」
一方でツトムの方はと言えば、アレックスが突然そんなことを言うので呆れてしまっていた。そもそも、戦いが始まる前に多少校舎が破壊されても構わないと言ったのはツトムだ。ただ、彼が校舎のことを気にしていたのが分かっていたのだろう。アレックスは一見ガサツに見えて結構律儀なところがある。そんな彼に親しみを覚えつつ、ツトムは大きな溜息を吐いた。
「ハァ……今更だろ。後のことは母さんになんとかして貰えば良いさ。」
「ハハッ、他人任せかよ。」
軽口を叩きながら2人は笑う。出会って1日と少ししか経っていない、実際共に過ごしたのは数えるほどの時間の関係。しかし、その短時間であってもお互いがどういう人間かは何となく理解できた。
「ツトム。無茶なこと言ってんのは分かってんだが、他の奴らにも回復薬渡せるか?」
いつ命が吹き飛んでもおかしくないこの空間で、戦いのド素人に命運を託そうする。普段のアレックスならば絶対にしない行為だ。だが、アレックスには確信があった。
ツトムという人間は、分かりづらいが相当なお人好しだ。
アレックスたちに振り回されるのは目に見えていたのに、わざわざ危険な場所に共に着いてきてくれた。さっきの回復薬だってそうだ。ツトムは自分の実力を正しく把握している。あの炎龍に見つかれば命が無いことは分かっていただろう。それでもアレックスたちを救う為に此処までやってきてくれた。
だから、アレックスはツトムに託す。
アレックスの願いを聞いて、ツトムは一瞬驚いた後に少し笑った。
「それくらいなら喜んで。結界石はまだ残ってるし、これでもサッカーやってるんだ。運動神経なら自信あるよ。」
「……ありがとな。俺はその間の時間を稼ぐ。全員に渡せたら、お前は逃げろ。」
「了解。」
ツトムは周囲を見渡し、少し降りたところの座席の陰に居るノアを見つけた。
「じゃあ行って……」
「ツトム。」
ノアの元へ向かおうとするツトムを呼び止めると、アレックスは振り返る。
「『さっかあ』って何だ?」
「……それ、今聞くか?」
「ハハッ、それもそうだな!」
アレックスはひとしきり笑った後、再び前を向く。
「じゃあ、アイツ倒した後で教えてくれ!」
そう言ってアレックスは地を蹴り、炎龍へと向かっていった。
遠ざかるアレックスの背はどんどん小さくなっていくというのに、その背は誰よりも大きく見える。
世界を救うという使命と人々からの期待を一身に受け、どんな困難に直面しようと前を向いて進み続ける勇気ある者。
「……やっぱりお前は勇者だよ、アレックス。」
その後ろ姿を目に焼き付け、ツトムは呟いた。
「とっとと勝てよ、勇者サマ。」
少年は、再び走り出す。
アレックスたち苦戦していますが、そもそも国が全力で倒しにかからなくちゃならない敵とたった4人でやり合えている時点で十分ヤバいです。




