勇者一行、魔核竜を討伐する。(3)
現在のクラシス王国は、筋肉と精神を鍛え上げることを信条とした健全な国です。
「精霊之奇跡!」
シャーロットの左脚に光の精霊たちが集まる。心地良い温かさの光に包まれ、シャーロットは徐々に脚の感覚を取り戻していった。
「すまないノア、助かった。」
「この状況で出来る回復はここまでです。まだ動けそうですか?」
「問題ない。例え手脚が捥がれようと最後まで足掻くさ。」
左脚の感覚を確かめながら、シャーロットは立ち上がった。力を入れると苦痛が走るが、痛みがあるのは神経が機能している証拠だ。今動かせるならば問題はない。
「すぐにアレックスたちと合流する。ノア、加護を頼め……、言うまでもないか。」
シャーロットが言い終える前に、身体を優しい温かさが包み込む。周囲には赤い光が漂っているのが確認できた。
精霊使いは状況に合わせ、様々な特性を持つ精霊を呼び出し、使役する。パーティー編成によって回復役や支援役になることが出来る万能型の駒だ。ただ、当然だが其々の専門職には及ばない。また、精霊を呼び出すという過程を踏む関係で発動に時間がかかることから、常に戦況を先読みすることが求められる。
故に精霊使いはパーティーにおいて、司令塔としての役割を担うことが多い。支援をしながら、ノアは頭の中で次に打つべき策を講じていた。
「火の加護を与えました。これで炎の吐息にはある程度対抗出来るかと。」
「ああ、有難う。」
ドラゴンは鱗の色でどの属性の吐息を使うかが判別できる。イザベラたちが水系統魔法を使うようにしていたのはその為だ。
ノアたちはアレックスたちと合流するべく駆け出した。
「1つ、気になったことがあります。」
魔核竜の背後を取るように回りながら、ノアは自身の考えを述べた。
「何だ?」
「先程のシャーロットさんの攻撃に、竜は反応しきれていませんでした。恐らくあの反射陣は、一体化しかけている魔核が発動したのではないでしょうか。」
魔核の守護者との戦闘では、近くに存在する魔核は自身の守護者を様々な方法で支援する。一体化していたことで頭から外れていたが、実質敵2体を相手にしているようなものなのだ。
「それから、先程アルが魔核にヒビを入れています。確かに彼の言う通り、反射陣は魔力がない攻撃は防げない。シャーロットさんの力なら、魔核を破壊出来ると思います。魔核が反射陣を発動したタイミングでとどめを刺してください。」
「承知した。」
そしてノアは、アレックスたちが居る方向へ叫んだ。
「アル!貴方は魔力を込めた攻撃で魔核が反射陣を展開するように誘導!イザベラさんは僕と共に吐息と炎の玉の発動を止めてください!」
「「了解!」」
魔核竜を囲むようにアレックス一行は位置につく。ホールといえど所詮は校舎内の一部屋、図体の大きい魔核竜はどうしても遅れを取る。
「大海割!」
先陣を切ったのはアレックスだった。水の力を纏った剣を真正面から叩き付けるが、先程と同様魔核の反射陣が勇者を阻む。
「だよな。だが、同じモン見せられて対応できねぇわけねぇだろうが!」
「守護水鏡!」
イザベラの声と共に、アレックスの前に大きな水の盾が現れた。反射陣によって倍となった一撃が、水の鏡によって反射して辺りへ分散する。ホールは至る所に亀裂が入り、5階部分の窓ガラスは衝撃を受けて吹き飛んだ。
魔核竜が再び吐息を放とうと魔素を取り込むが、その隙を勇者一行は見逃さない。
「水流鎖縛!」
水の盾が鎖の姿へ変化して魔核竜の口に絡みつく。僅かに開いた口から、放たれる筈だった炎が僅かに漏れた。衝撃で片翼の竜が体勢を崩すと魔核は赤く光り、守護者を守るよう術式を構築し始める。
「不味い、またあの炎の玉が来るぞ!」
「させません!精霊之雷弓!」
宙に雷の力を纏った魔法の矢が現れ、轟音と共に魔核に迫る。すると魔核は一度術式を解き、反射陣を発動した。
「かかったな、なり損ない!」
「!?」
雷の矢は反射陣に当たることなく、真上へと飛んで行く。そして突如魔核竜の目の前に現れたのは、先程自分の炎で焼いた筈の人間の女だった。
「さっきの礼だ、受け取れ!」
そう言って、シャーロットが振り上げた左脚がそのまま魔核へと振り落とされる。
その攻撃は無音だった。否、正確には音が追いつかなかった。
鍛え上げられた彼女の肉体から放たれた一撃は音速をも超えたのである。
魔核竜はシャーロットに首を垂れるように地に伏せ、追うように周囲に衝撃が走った。
「グギャアアアア……ッ!」
アレックスによって入れられた魔核の亀裂は、シャーロットの一撃によって拡がり、ピシピシと音を立てると粉々に崩れ去る。同時にそれまで溜め込まれていたであろう魔障が一斉に解き放たれた。
力の源を破壊され、魔核竜からポロポロと赤い鱗が剥がれ落ち、そこから覗ける肉は黒く変色していく。
そのまま、竜は動かなくなった。
「……おかしい。」
シャーロットが呟く。魔核は破壊された。ならば、守護者である魔核竜は直ぐにでも消滅するはずだ。だが竜は消滅せず、魔障は未だに周囲を覆い尽くしている。
何より、これまで数々の死闘を乗り越えてきた彼女の本能が告げていた。
まだ終わってはいない。
「皆離れて!魔核竜の中の魔素が膨れ上がっ……」
イザベラがその言葉を最後まで言い切ることはなかった。
魔核竜が赤く光ったその刹那、竜を中心に辺り一面を消炭に変える熱波が勇者一行を襲う。5階の重厚な扉は紙屑のように吹き飛び、ホールに辛うじて残っていた椅子は赤く光り静かに溶け出した。人が立ち入らず、窓から差し込んだ月光が神秘的だった空間は、炎熱で赤く溶け出した炎の領域へと姿を変える。
ノアによる火の加護とイザベラが咄嗟に展開した水の障壁がなければ、全滅していたであろう。
「……ったく、第二形態ってか?」
壁に叩きつけられたアレックスが、目の前の魔核竜だったモノを見て、思わず笑ってしまった。
『竜』ではあるのだろう。目の前のソレに輪郭は無い。失われた筈の魔核から放出される魔障は、周囲を溶かす赤い炎へと姿を変え、それが竜の姿を模っている。
魔核と完全に同化した炎龍が、勇者一行を見下ろしていた。
本編では言及していませんが、旧校舎が全壊していないのは外で見守る黒フードさんがちょくちょく修復魔法をかけているからです(言い訳)。




