9.採掘
露天掘りである採掘の深さはだいたい400mほどに達した。採掘開始前は丘があったり明らかに高い岩場があったりした。どこからの深さだと問われても答える解答はない。アグナスⅡの計測チャートに“深度400m”とあるからとしか。
それで俺はと言うとその深度400mで自動重機の修理をしている。
「アナン班長。自動重機№1833に行動異常が見受けられます。明らかに道程を外れていますので確認してください」
アグナスⅡに依頼されて故障した自動重機の所へ向かう。№1833は明らかに明後日の方向を向いて止まっていた。
「あ~無限軌道が切れたか。1年くらいで切れるものか?・・・違うな。接続のピンのヌケだな。
切れたのではなく外れたんだな。
ヌケ防止の留め具が見当たらないが・・・最初から無かったのかな?
製作組立の品質管理なんてこんなものか」
人が行う作業でミスが無いなんてありえない。ダブルチェックをしようがトリプルチェックをしようが流出するミスの確立を減らすことは出来るが無くすことはできない。
つまりは諦めて素直に修理をするということだ。
重機をジャッキで上げ、重い無限軌道を引きずって巻いていく。当然ピンの留め具は無いので予備品から探して付ける。
やっと修理が終わりそうなその時にアグナスⅡから通信が入る。
「アナン班長、ついでに削岩爪も交換しておいてください。そろそろ寿命が近いので」
「ああわかった。予備品をここへ用意しておいてくれ」
ついでの交換作業のために工具を手にする。
「工具が回せないじゃないか。
あともう少しだけスペースがあればスムーズに廻せるのに。
消耗部位なんだから専用工具でなくても簡単に交換できるように作って貰いたいものだなって、これってカバーを取らないと外せない?さらにこの鋼材を取らないとダメ?
消耗部位だぞ。もう少し気を使ってほしいな」
消耗品の交換作業に奮闘しているとさらにアグナスⅡから連絡が入る。
「アナン総督官、本星軍司令部より通達がありました」
アグナスⅡは連絡の内容で俺の敬称を変えてくる。
「本星政府がギガンティアの奴隷制度を廃しる法案を通す算段だそうです」
「えっ、あーデモになっていたやつか。軍はなんて?」
「このままだとマズイので早急に対応すると言っています。具体的には階級の付与と統率訓練ですね」
「ここは遠いから免れるかな?」
「ムリでしょ。ギガンティアから一言でも通信が入れば犯罪が成立しますから」
「知識教育はいいとしても実践はムリだよなぁ。マオ基地まで戻すとしてどのくらいの期間不在になる?」
「内容が決まっていないので何とも言えませんが年単位かと」
「・・・よし、この星の知的生物を作ろう。そしてギガンティアに統率させれば問題解決になるんじゃないか?」
「その手がありましたね。早速星の高度化申請と技術者の手配をします」
「ってことらしいけどどうする?」
伐採地から帰ってきたギガンティア達に奴隷制の廃止法案についてとそれに合わせた軍の取り組み、そして俺達の運営の方針を説明する。
「結局おらたちはどうなるだかなぁ?」
「所謂奴隷では無くなるから、個人意思で軍をやめることができるし、居れば階級も貰える。口座も与えられて給料も出る。欲しいものを自分で買うようになると言うことだ」
「隷属保護はどうなるだぁ」
「無くなるよ。これからの行動は全て自己責任が基本、つまりやったことの責任は自分でとるし、やりたいことは自分で金を支払う」
「いきなり自由って言われても困るだぁ。いままででやーだったことぁねぇもんな」
「法律でそうなるからいまから準備しておけってことだ。いいでもいやでもそうなっていく」
「おでたちはそーなってほしくねぇのになぁ」
「取り敢えず準備が出来次第教育プログラムを行うからな」
「「「「へーい」」」」
なんにつけても軍本部も用意が整わなければ進められないので、取り敢えずは今の業務をするしかない。
ギガンティア達には樹木の伐採、アグナスⅡは自動重機を使って採掘を行う。俺は自動重機のメンテナンスだ。もっと暇なはずだったのにいつの間にかメンテナンスに追われる日々を過ごしていた。
「アナン4尉、少しお耳に入れておきたいことがあります。どうもアナンの昇級査定に違和感があります。現在基地と差異の洗い出しを行っておりますが秘匿レベルを上げているのと処理レベルが低いので時間が掛かっています」
採掘班の班長は主目的のアウルムを基地に初納品すると自動的に階級が1つ上がる。
アグナスⅡが言いたいのは、アウルムの他に超高級品である木材も納品しているしその量もある。未だ昇級が1つだけはおかしいらしい。
この件は自身で騒いでもいいことないのでアグナスⅡに任せてしまおう。
「頼むよ」
あっさりと丸投げしてしまった。
それから幾日か経ってこの件でアグナスⅡが報告を上げてきた。
「どうもマオ基地の資材課長ゼフリュート・ショアが納品物を横領、市場へ横流ししていたようです。
「今回も来てやったぜ、アナン総督官。補給物資は前回と同じところでいいよな。特注品は注文書と照合してくれ。補給品が降ろし終わったらすぐに軍納品を積み込むからな」
「アーシュ2尉、上陸を許可する。相変わらずだな、せっかちも手際も。注文書との照合って基地AIが品揃えしたんだろう?間違いようが無いんじゃないか?」
俺は4尉、アーシュは2尉と軍階級は彼の方が高いが俺は総督官という行政上の地位がありこの場合俺の方が上官の扱いになる。
しかしたった二人のしかも気心の知れた仲間に堅苦しい敬語は必要ない。記録に残る挨拶のみきちんと交わせば問題にならない。
「まったく、現代人の悪い癖だな。積み込みは手作業なんだよ今も。すべてが綺麗に箱詰めされているわけじゃないんだから万が一の事故は起きる。それは俺が嫌なの。あとからのクレームなんて聞きたかないの、わかるぅ。分ったらさっさと確認Go」
「はいはい。めんどいなぁ、でもアーシェ2尉のご命令に従いましょう」
「あーそうそう、今回は木材を持っていけないんだ。納入停止だってさ」
「何だい、もう要らなくなったのか?こんなに用意したのに」
ギガンティア達に発破をかけて伐採させ、倉庫1区画は十分に埋まりそうなくらいの量を積んである。
「いや、おまえさんが巻き込まれたあの一件で整理がつくまで倉庫を閉鎖するそうだ。解除まで艦に積んでおくわけにもいかないからさ」
「でもここに置いといても腐っていくだけだぜ。せめて宇宙へ上げてくれないか?そうすれば水分が抜けて防腐になるでしょ」
「おいおい、それを俺にやれってかい?だいたい紫外線で全部ボロボロになっちまうよ。それに衛星軌道に木材が散乱してたら危なくって降りられないだろう」
「そりゃそうだ。でもなぁせっかく切り倒したのに勿体なくないか?」
「よし、倉庫代わりになる船を衛星にしてそこに置こう」
「ここにはそんな余力はないぞ?」
「ちらばらなきゃいいのさ。紫外線除けの布の船でな」
「なるほど。でも上までは上げてくれよ」
「仕方ないなぁ」