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Take over  作者: 羽場寝郎
イース開拓
8/10

8.伐採

 念願の風呂、しかも露天風呂が出来上がり俺もギガンティア達も仕事の疲れが取れる“入浴”に大満足だ。

暖かい湯に大きな体を浮かべて緩んだ表情のまま“1日中ここに居たい”と言っていたのはラルガルだったかな。

 川の水を浄化して核力電池の排熱で温めてかけ流しているので風呂は常に綺麗な状態だ。俺も仕事が無ければ1日中入っていたいと思っている。

何と言っても艦内のシャワーと違い、お湯の中で体が弛緩する感覚は何物にも替えがたい。風呂作りを頑張って良かったと思う。


「ダイダ、風呂っていいもんだろ?」


「アナンさまぁ、もう言わねぇでほしいだよ。こんなにいいもんだと想像できなかったんだよ。ごめんだよ」


 風呂作りを始める時にダイダはサボるのかとか仕事の押し付けだとかさんざん文句を言っていた。しかし今では一番の長風呂かもしれない。


「今度は何作るだぁ?」


 まだ計画すらしていないのに次の娯楽を督促してくるまでになった。


「文句を言っていたから暫く無し」


「「「「そんなぁ」」」」




 総督府(キャンプ地)を中心に東西それぞれ600km、南北それぞれ500kmに目的の鉱物が分布している。

アウルムは坑内掘りが良いとされているがこの広大な地ではあえて露天掘りをすることに決めた。

坑内掘りだと掘削効率は良いが坑道経路が複雑になりやすいし地下水や落盤事故による自動重機の損失率が高くなる。

掘削効率が悪くても自動重機は終日無休で作業を行うので考慮することはない。むしろ事故損失のほうが痛手になる。地下水の対処も露天掘りのほうがやりやすい。


氷河期明けで大きな樹木の無い掘削対象地・・・面倒だからM地にしよう・・・には南部を除いて自動重機をすぐに投入できた。

さすがに南部は早い段階で氷から逃れていたので樹木は多く、しかも太く大きくなりつつあった。


氷の浸食を受けなかった赤道付近の樹木たちは伸びたい放題、繁殖し放題に伸びていたので木は曲がり枝は無秩序に茂り、下草は草だか木だか分からないほどの権勢を誇っている。特に蔦状植物の繁殖がその混沌さを助長していた。


それに対してM地南部の木々はまだまだ細いものの樹木自体は比較的真っ直ぐに育っている。ちなみにM地の南部以外は草原と表現した方がしっくりとくる植生だ。


「ダイダ、アリム、ラルガル、ルアナン。

 4名は明日からM地南部で材木の伐採・収集の業務についてくれ。

 木材はなるべく大きい状態で採取を。根っこもな。木材は超高級品だからな。丁寧に扱ってくれよ」


「根っこ?あー地面にしがみついてっとこなぁ。あれぁ厄介だべよなぁ」


「できる限りでいいよ。綺麗に引き抜かなくてもチップに加工するらしいから」


「わかったぁ。んでぇ、おら達の飯と風呂とベッドはどうなるだぁ?」


「飯は都度ドローンで搬送する。風呂は・・・川だな。そしてしばらくは野宿だ」


「エー風呂無しかぁ。んじゃチェスは、チェスはできるだかぁ?」


「たしか自動重機用のマーカーがリピーターの機能を持っているからナニーチップの通信は届くはずだ。

 余程でなければチェスもできるぞ」


「偶には風呂入りてぇなぁ」


「4日に1日休みにしよう。4日目に迎えに行くよ」


「しゃぁねぇかぁ」




 目的のアウルム採掘は順調に進んでいる。とは言っても表面の土や岩石を取り除いている段階だ。

 氷河期になる前の樹木の残骸を撤去するのに随分と時間を取られた。

 文字通り腐っていたが樹木なので自己判断で廃棄する訳にもいかず基地に確認を取ったら“取り敢えず輸送しろ”ということだったので、飛散防止用の袋に入れて送ってやった。

 “要らない”とは言ってきていないので輸送を継続したが食用以外の目的ならばいいなと密かに思っている。


 作業を始めた当時は自動重機の音と振動に驚いて近づかなかった獣達が、しばらくすると慣れたのか近隣で姿を見かけるようになった。

 そうなると侵入して撥ねられたり轢かれたりする事故も起き出した。


「何だこの虫たちは?それに何か匂うぞ」


《私には匂いませんね。アナンは過敏では?》


 アグナスⅡに外部臭気センサーは設置されていない。

 自分を棚に上げて俺をからかってくる。

 自動重機本体や作業に問題は起きていないが、偶にベルトコンベアで運ばれてくる赤黒くなっている鉱石や細切れになった毛皮が混じる。

 採掘現場は広い。獣侵入除けの施策が出来ればいいのだが、安易なことをすれば作業の邪魔になる。こういうものにマニュアルはないし、いいアイディアも浮かばないので対策は後手を取っていた。できれば獣側で近づかないようにしてほしいとさえ思っている。


 鉱石採集自体はアグナスⅡに搭載されている設備で荒精製されるので、多少の不純物があっても取り除かれてしまうから問題ないのだが、その取り除かれた側の不純物に問題が発生するとは思ってもみなかった。

 第1に排出される不純物の量が多い。

 アウルム以外にも有用鉱物を採集するのだが、その含有割合は小さい。採掘したものほとんどが不純物ではないかと思うほど多量に排出される。

 その捨て場が瞬く間に埋まっていく。

 大きな谷のような地形だったはずが今はちょっとした丘のようになっている。

 そのうち山ができ直ぐに雪崩れて総督府が押しつぶされる未来が見えてしまう。


 第2にやっぱり臭い。

 先に挙げた犠牲になった獣の内臓や毛皮も不純物として捨てられる。

 それらが日を追うごとに腐敗して異臭を放つ。それがとにかく臭い。

 そして臭いだけでなくそこに虫や肉食獣を呼び寄せる餌になっているらしい。

 これだけでも理由は十分だろう。

 不純物の廃棄場所を北側かなり遠くへ移すことにした。

 長距離のベルトコンベアを設備して廃棄場まで搬送するようにした。

 これで廃棄物の溜まり具合を定期的に確認に行くだけで済みそうだ。

 そして未だにアウルムの含有層には達していないのが最大の悩みになる。



 ふと南の空を見るとギガンティア達を迎えに行った救難艇が戻って来るところだった。


「アナンさまぁ、ただいまだよぉ」


「みんなおかえり、戦果はどうだい?」


「7本かなぁ?」


「えっ随分と少なくないか?何があった?」


 聞いてみると、雨が降って作業が出来なかったことが発端らしい。そのあと道具の故障や重機の不具合などが起きて頻繁に作業が中断したとのことだ。その空き時間でチェスを始めたら止めるタイミングを失ったらしい。

 感情的には理解できる行動だが社会行動としてはNGだ。こんなことを認めてしまえば業務どころか組織まで崩壊してしまう。

俺に管理の手を抜いていた負い目はあるが強く正さないといけない案件だと思った。


「次はいっしょに行くぞ。作業のやり方を考えよう」


「いっしょにやるがかぁ?それとも指導だけだかぁ?」


 頭で考えていることと実際にやることでは違う。頭でっかちでは現場にあったやり方は指導できない。気が付きもしない小さなことが作業のやりやすさに大きく係る。ましてやパッと見で指示されることなど実際に作業する側に有効であっても反発を招く。これは害悪になることも多い。手を汚さない者の言うことは聞けないし例え上司だとしても感情が許さない。


 いくら業務目標が自己管理で実質無いに等しいとしても“進めている”という態を取らなくてはならないのは世の常だ。

 物事を進めるという態を守るために適度なストレスを与え続けることが正しいあり方であるらしい。

 これに対しては叱責ではなくやり方と目標を明確にすることにした。

 それと反省を込めて現地管理も併せて行うことを示そうと思う。

 これからギガンティア達の自己弁護と俺への落ち度批難を論点から避けて、こちらからの要求を押し付けなければならないことを考えると非常に憂鬱だ。


「あのぉーアナンさまぁ、この切断機ぃ動かなくなっちまったんだよぅ。どうすればいいだかぁ?」


「ちょっと見せて見ろ。さっきまで動いていたのか?・・・おかしくなってそうに見えないが・・・・って、おい!電源が抜けているじゃねぇか。自分で見られる範囲は自分で見たから人を頼れ。いいな」


「へーい」


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