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Take over  作者: 羽場寝郎
イース開拓
7/10

7.幕間 記者会見(2)

「リアント博士、もう少しお時間よろしいでしょうか?」


「構わんよ。何をしゃべらせたいんじゃ?」


「お話ですと、博士は新しい宇宙の誕生の姿を想像されていらっしゃるようですので、可能な範囲でご紹介いただきたいと思います」


「ふむ、そうじゃな。

 この宇宙空間と外部の世界との間で、常にエネルギーがやり取りされておる。

 そして膨大なエネルギーが出入りするポイントである穴が数多く存在している。

 もちろん見えんがな。お主らが思うより多いと思うぞ。

 その内目詰まりを起こして物質を生成したところに星、銀河ができたというものじゃ。

 物質化したエネルギーは内包する物理法則が悉く固着・非活性化され、重力子などのごく僅かな因子しか作用しなくなる。

 これがブラックホールや星という宇宙の姿であると想像しているわけじゃな」


「エネルギーの出入りですか?」


「常に出入りしているんじゃよ!

 ブラックホールが吸い込んでるじゃろが。超重力で星を吸い込み、砕く。

 その時にできたエネルギーは外側へ、物質状態のものはこの宇宙空間へ再度放出される。

 今いるアカディム銀河も同じじゃて。

 さっき吸い込まないブラックホールがあると紹介したな。これは完全に目詰まりを起こしたブラックホールということになるな。

 そのようなものにできればアカディム銀河は将来の危惧が無くなると言えるじゃろう」


「それは可能なのですか?」


「可能だと思うちょるよ。そのための物質も見つけておるし」


「それをご紹介いただくことは?」


「戯け。誰にも教えん。政府にも軍にも。ましてや学会にもな。

 金も出さずに成果だけ毟ろうとしおってからに、あの恥知らずどもめ」


「でも世界の危機を回避させられる英雄になれますよ」


「儂が生きているうちに変化は起きん。

 あとは交渉次第じゃな。

 この件をどの程度の脅威と思うちょるか、本人達の本気度が判るじゃろう」


「博士が生きていらっしゃるうちは大丈夫ということは、政治家達もこの件を先送りできるということになりますよね」


「そうじゃな。これを“本気度”と言うた。

 宇宙は広い。

 対策を取れたとしても、その効果が出るのにも時間が掛かる。

 金にしか興味のない“茹でカエル”には未来なぞ無いと言うことじゃ」


「教会が慈愛と博愛の観点から対策方法を聞いてきるのでは?」


「むしろ虚言を弄して世間を騒がせた、神を冒涜したと始末されるかもじゃな」


「博士、最後に。この宇宙の姿をどのように捉えていらっしゃいますか?」


「姿か?・・・外部の意思によって作られた容器・・・かの。

 リアントエネルギーのバッテリー、蓄電池のようなものだろうのう。

 そうなると、星は蓄積能力の阻害因子となるの。あってはならん邪魔なものと」



*****



「それで、そのあとどうなったんだぁ?」


 ダイダは興味津々で話しの続きを聞いてくる。


「リアント博士は、この記者会見の2年後に交通事故で亡くなったのさ」


「それは教会ってのが?」


「いや、教会は手を出していなかったらしいよ。

 すぐの教会内部調査でも後の政府調査でも関与が無かったと結論が出ている」


「ほんとにぃ?」


「そうだな。調査結果で無関係と発表された後でも教会の陰謀論が収まることはなかったんだ。そしてそれらを不審に思った信者たちの離反が徐々に増えていった。

 しかし、それぞれに動機が疑われたのも事実だったのさ」


「それぞれ?」


「教会は権威を貶められた腹いせとか、政府は金を払うのが惜しくなったとか、学会に至っては博士に対する反発グループなんてものまであったらしい」


「今、宗教が無いのはこれで壊滅したってことけ?」


「要素としてはかなり大きかったのだろうね。

 牧師たちも世間から後ろ指を刺され始めて徐々に姿を消していったと文献にもある。長い歴史の中で、あまりに我欲まみれな話しが多かったのはみんなも知っていた。仲間だと思われるのがいやだったんじゃないかな」


「大きい?他にも理由があるのかぁ?」


「決定打は、やっぱり人工生誕システムの開発と稼働だろうね。

 親と子みたいな血の繋がりの概念が無くなったからだと言われているよ」


「宗教てえのはいらねえのか?」


「どうなんだろうね?

 昔から人は横着だからね。

 物事を考えるのに何か拠り所があれば楽だろう。例え間違っていてもね。

 仲間所帯が大きいと安全に暮らせるし安心でもある。

 法が法でなかった時代の名残でもあるだろうしね」


「安全?安心?一番、人を殺しているのは宗教だって聞いたことがあるべ。生贄や魔女狩りも宗教関連だよなぁ?」


「いままでのどの宗教を見ても、“人を殺してはいけません”と謳っているのは無いな。

 むしろ“聖の名のもとに敵を殲滅せよ。御霊は神によって天国へ導かれる”ってのが多いね」


「結局、為政者の都合かぁ?」


「その見方は正しいと思う。

 神が居るかは判らないけど。

 神の声を語って扇動するのは常套手段だとしても、為政者の都合で神の名を使いすぎたのが体制の綻びに繋がっていったとも言えるからね。

 さらに言えば、きっといい加減で良かったんだよ。真実や教義の整合性を求め始めたときから崩壊は進んでいたのさ」


「ありゃ、マザーが言ってたなぁ」


「「足りないと生きていけない。多すぎると崩壊する。その限度を決めるのは自分ではなく背中から見ている人間だ」」


「あと一つわからねぇことがあるんだぁ。

 リアント博士はどうしてアウルムのことに気が付いたんだぁ?」


「ブラックホール観測から戻った時に、艦体の外壁が結構溶けていたのさ。

その原因は物質のリアントエネルギー化だったのさ。

 原因が解ってから再度艦体を見た時にレーダーアレイに使われていたアウルムメッキが解けていなかったのを見つけた。

 メッキだから薄いにも関わらずね。

 そして艦体全部をチェックしたら全てのアウルムが溶けていないことが判ったということさ」


「だからオラ達がアウルムを掘るんだなぁ。

 オラ達が宇宙を支えてるんだなぁ。

 すげーなぁ、オラ達。

 よし、仕事すんぞ!」


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