6.幕間 記者会見(1)
「博士!リアント博士!受賞おめでとうございます!ぜひ、ひとこと!」
パシャパシャ
「発見、おめでとうございます!」
パシャパシャパシャ
「博士!ぜひこちらを見てください」
パシャパシャ
「ひゃひゃひゃひゃ、そうかそうか。
ありがと、ありがとうのう。あ-写真は男前の物だけを使ってな」
「博士、受賞おめでとうございます。そして、お帰りなさい。ぜひ、今の心境を」
口々に賞賛の声が上がる記者会見場で、代表質問者の記者からインタビューが始まる。
「11年いや11年半か。長かったのぅ、儂はもうちょっと居たかったがの。無事帰ってきたわ。 帰ってきて欲しくない奴もおるようじゃが、儂はしぶといからのぅ。これからは宇宙の世界は変わるじゃろ」
「帰ってきて欲しくないと言っている人とはどなたなのでしょうか?」
「当時の学会の会長と教会かの。やつは今でも会長なのか?」
「あ-フィザイト博士ですね。今も就任されてますよ。以前から犬猿の仲でしたものね」
「“夢物語に金は出せん“と学会からの援助はなかったからの。探求よりも保身に重きがある学会なぞ要らんじゃろ。これは教会も同じじゃ。破門にするなら破門にせい。それでも星は廻っているじゃ」
「それで博士は何を見てきたのでしょうか?」
「この世界を、この宇宙の根源を見てきた」
「その辺をもう少しいただけますか?」
「その前にタルコス博士の重力波理論には深く感謝せんといかんな。この理論が無ければ今回の発見はおろか航行することもできなんだ。この偉業を故タルコス博士に捧げよう」
「重力波理論によるエンジンはリアント博士が開発したのでは?」
「結果として出来ただけじゃ。一部、儂が手を加えたが理論の構築はそうそうできるものではない。 後は開発からいっしょに関わってくれた研究者や製造者、志半ばで倒れていった仲間達に感謝を申し上げよう」
両の目を瞑り感謝と哀悼の意を示すように俯くリアント博士に会場は静けさに包まれた。
「さて、何を見たかじゃな。今回はこのアカディム銀河の中心まで行ってきた。そこにあるブラックホールを近くで観測してきたのじゃ。重力波エンジンのおかげで事象の地平面の奥まで行けたからの。面白かったぞ」
「何があったのですか?」
「特別な物は何も無かった。事象の地平面の内と外での違いは無かったのじゃ。もちろん可視光での観測は少し手前からできなくなっておったのじゃが、リアント波レーダーの観測が可能じゃったからの」
「そのレーダーは博士が開発された・」
記者の質問に食い気味に答える博士。
「そうじゃ、儂の名じゃ。いいじゃろ、儂の理論でできたレーダーじゃ。きちんと動作したぞ。これの検証も今回の目的の一つじゃからな」
「あの-、そのリアント波と言うのはなんなのですか?」
「リアントとは儂の名じゃが、この世の物質の元となるエネルギーに儂の名を付けたのじゃ。その波がリアント波じゃな」
「この世の物質の元って、インフレーションとかビッグバンで出来たのではないのですか?」
「あーそれなぁ。1点から放出されて空間に均一にまき散らされた物質に点重力が働いて円盤状に収束する奇怪現象を信じておるのか。それは“紙の上に撒いた鉄粉に棒磁石の先を近づけたら鉄粉が直線状に集まりました“と同じぐらいの珍事ぞ。
まぁそれが今回の最大の検証項目でもあったのだがの。きちんと見てきたぞ」
「それでは、博士が考える宇宙の成り立ちとはどんなものなのでしょう」
「ん~そうさのう。
銀河の中心にはブラックホールがあるというのはー般常識じゃの。確かにあったわ、ただし元ブラックホールじゃな」
「元?」
「銀河の始まりはブラックホールからこちら側へ送られてきたリアントエネルギーじゃと考えておる」
「銀河はたくさんありますが、それぞれ同じように出来たと?
あと“送り込まれた”ということは宇宙の外側に何かしらの知性があると?」
「そう、そこが教会の反発するとこじゃな。
これは検証出来んからどうなるじゃろうのぅ。闇に葬られるかもしれんの」
「銀河の成り立ちについてもう少し詳しくいただいても?」
「じゃ、順を追ってみようかの。
まず、どうしてそこにエネルギーが入って来る穴があったのかは未検証じゃ。とにかくある時そこから膨大なエネルギーが流れ込んできた。その時に超を超えた高圧になったのかエネルギーが次々と物質へと変化した。するとその質量が物質の流れを阻害する形となり、その乱流がブラックホール、この場合はホワイトホールと呼んだ方が良いの、に、回転運動を与えたと考えておる。これが平べったい銀河の成り立ちとの」
「いやいや、丸いのもあるじゃないですか」
「それじゃ。本来、立体空間に満ちている星の材料に点重力を与えれば、天体は球状に集まるのが自然じゃ。
それが平たい銀河があることがこの研究のスタートとなった。丸い球状銀河は老齢で壊れた銀河の再構成ではと思うておる」
「た、確かに。
それが何故ブラックホールの研究になったのですか?」
「ま~他に当てがなかったと言うのが本音じゃが、ブラックホールにもの、吸い込むのと吸い込まないのがあってな、そこに興味が湧いた」
「それでアカディム銀河の中心まで」
「一番近いからの。今言えるのはここまでかのぅ」
「あともう少し何かないですか?教会とモメたとの情報もありますが」
「んーお主、あのネタのことを言ってるのか?そうじゃのぅ・・・じゃあもう少し話そうか。
その昔、銀河生成期にホワイトホールであったものが今はブラックホールへと変化しておる。我々の銀河の中心も御多分に漏れずブラックホールとなっており、しかも完全には目詰まりしておらん」
「すると宇宙の外へ吸い出されているということですか?この星もその犠牲になると?」
「そうじゃの。重力波の観測がそう言っていた。だが、いずれじゃ。我々からすれば遠い未来、寿命の遥か先のことじゃ。
それに対する方策も既に見つけておる。心配はありゃあせん」
「その方策とは?」
「極秘じゃ。政府から止められておる。だからさっきは話題を避けたんじゃ」
「では、教会とモメたとは」
「あ-“神が守る星が滅ぶとはなにごとか。いい加減なことを言うな、破門させるぞ”とな」
「だいじょうぶなのですか?」
「2回目だしの。
なんでも知っている大好きな神とやらに聞けとゆうてやったわ。
後で言ったことが間違いだと判ったら教会はその威信を地に落とす。
神から真実を教えてもらえなかったか、神の言うことが理解できんボンクラだとの」
「しかし教会や神父の権威というものもありますよ?」
「そうなったら儂は始末されるじゃろうし、リアント理論も禁書・梵書扱いじゃ。
また、科学の発展に教会がブレーキを掛けることになる。
昔は100年ほどと言われたが、今回は何年遅れるかの。
真実は後の世で判ることじゃ」