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Take over  作者: 羽場寝郎
イース開拓
5/10

5.赴任地到着(3)

「何ふざけたことを言っているのですか。環境調査もワクチンも済んでいるのですからさっさと地表に降りますよ」


「どこに降りるんだ?アグナスⅡが降ろせる平らな場所なんてないぞ」


「我々で作るんですよ。他に誰もいないんですから。まずは海に着水するのですが、吃水が分かりませんから、水深の深い海がよろしいでしょう」


 重力波エンジンは大気圏侵入時にも有効だった。ゆっくりと降下していき海面への着水を果たすことが出来た。

 その昔、火の玉のようになって大気圏へ突入する写真を映像で見たことがある。

 少しでも侵入角度を間違えれば、弾き飛ばされたり機体が燃え尽きたりしていたらしい。

命をかけた大気圏突入なんて俺にはムリだ。

 でも、その歴史があったから今があるのは理解している。

きっと大気圏突入をした人たちは俺とは違う多分勇者だったのだろう。想像しかできないが、少なくない失敗もあっただろうと思う。

 それらの犠牲に対し、同じ宇宙で働く後輩として敬意と冥福を祈り、技術の発展を享受しよう。


 まもなく海に無事、着水した。

 少々海は荒れていたが底付きすることもなかった。

 すぐさま甲板に出て外の空気を吸う。


 なんて清々しいんだ。恒星の光がちょっと強いが嫌じゃない。顔にあたる風が強いので空調の調節器を探してしまった。

 独特の匂いとフラフラといつも揺れている甲板に体が状態異常を起こした。


「気持ちが悪い。胸がむかむかする。アグナスⅡ、未発見の病気に罹患した。細菌のチェックの時になにか見逃したんじゃないか?」


「艦長、それは船酔いです。病気ではありませんが、身体能力は下がっています。早く慣れてください」


 こんなに辛いのに取り合ってもらえず、逆に俺の方が悪いように言われる。気に入らないが抗議する気力もなく医療カプセルへ入る。


「艦長、ついでに定期健診もいっしょに受けちゃってください。すぐに出てきても使い物になりませんから」


 これで半日のカプセル入りが決まったがこの時に反論する元気はもちろん無かった。

 当然ギガンティア達の状態がどうなっているかなんて気に留められる状態でもない。

 後になって聞いたら全員が吐き戻していたらしい。薬は飲んだらしいが俺が会いに行くまでぐったりとしていた。

 早く揺れの無い大地に艦を揚げられるようにアグナスⅡと衛星写真やアウルム埋蔵地図を検討した。


「よし、ここをキャンプ地とする」


「・・・総督府せめて駐屯地と・・・」


 衛星写真を見下ろし、1点を指さして宣言をするが、どうもギャグが通じなかったらしい。


*****


 救難艇兼の艦載ボート2艇にギガンティア4体と1台の重機を乗せ近くの目的地近くの草原へ向かった。ボートと言っても水に浮かぶ船ではない。きちんと宇宙を飛べるものだ。

 ただこれからアグナスⅡが上陸するまでは、テントで本当のキャンプだ。


 採掘目的地である地点の範囲は歪ではあるがだいたい1200km四方に及ぶ。

その北側にアグナスⅡと定期輸送船の発着陸用と作業用に2km四方の平地を作らなければならない。


 ボートが上陸した場所は予定地まであと約70km離れた草原だった。

 予定地までに生えている木も大きいが下草も半端ないので移動にも苦労させられそうである。ついこのあいだまで氷に覆われていた地域なのにもう巨木が生えている。この星の植物はとても強いものなのだろうか。

 ギガンティア達は体が大きいので行軍には苦労している。巨木の間が通れなかったり、足元がぬかるみにはまったりだ。

 俺も3度目の転倒で、“まず道を作ろう”と思い直す。早く拠点を整備しようとして、行軍に力を入れていたが焦ることは無いと思い直したと言うところだ。

 その結果、4日間はテントすら無い野営生活になった。文化的な生活は既に諦めていたが、まさかテントすらない生活をするとは思っていなかった。

 毎食携帯食料とお湯だけだったし、虫や獣を避けるために木の枝にぶら下げた防虫保護網の中での就寝だ。まるで自分達が罠にかかって捕まった獲物に思えてくる。

 雨が降らなかったのだけが幸いだった。


 やっと予定地に到着した。

 まず上陸した時のボートを持ってくるために伐採と整地を行う。

 次にテントでの生活を実現したい。

 虫や獣に怯える生活から解放されたい。

 段々とささやかになってくるが希望は捨ててはいけない。前に進もう。


 ギガンティア達に大木を切り倒させ、根を掘り起こす。邪魔な大岩を砕き取り自動重機をマニュアル操作で整地する。

 切り倒した木は材木として利用できるように乾燥させるために積み上げておく。


 結局15日間程かかった。

 艦を出て約20日。薄れゆく艦長室のベットの感覚に思いを馳せボートで持ってきた。

 重機が限定的ではあるが自動運転が使えるようになったので、アグナスⅡが着陸できる作業地点の整地に移る。

 やることは変わらなかったが、ここからは早かった。さすがに物量である。

 アグナスⅡとの間をピストン輸送で自動重機を増やし、伐採と整地を加速させた。

 なんと2km四方の整地が30日だ。

 最初の苦労は何だったのだろう。


 この星は、1日で7回自転する。

 いや、それは変な言い方だ。

 自転1回が1日だ。

 だが俺の感覚に当てはめると1日の時間が7分の1と短いのだ。

 帝国軍法では高等生物がいない星での時刻計時は現地星式でも帝国式でも良いことになっている。俺は慣れた帝国式を選択することにした。

 何が言いたいのかと言うとつまり、作業中に明るくなったり暗くなったりする。

 灯りが無いと見えなくなるので作業が続けられないのだ。

 最初は重機1台だけで頑張った。

 そしてその後、自動重機の増数が整地の効率を上げた。この時の軌道教示は地獄だった。数が多すぎたのもあるが重機の種類も多かった。

 そしてやっとアグナスⅡを迎え入れた。

 ここまで約50日である。

 この時のシャワーとベットの感動は筆舌に尽くしがたい。

 これで拠点は作り終わった。


 次にはいよいよ採掘作業に移る。

 とは言ってもやることは何も変わらない。

 ギガンティア達に本格的な採掘するための伐採を指示する。

 俺は自動重機の測位システムを使うためにマーカーを設置しなければいけない。

 所謂3点計測用のマーカーだ。

 第1のマーカーはアグナスⅡになる。

 第2のマーカーは通信のリピーター用の静止衛星が担う。

 第3、第4と増長用の第5の3つのマーカーを設置するためにエアーバイクに乗ってそれぞれの予定地点へいく。

 森林の中をエアーバイクで進む。機体は大きくないから気を付けさえすれば問題なく進むことはできるのだが、マーカーの設置は楽ではなかった。

 木の根がジャマだ。刺せる地面が思いのほか少ないし堅い。重機で来れば良かったなと思うが、重機は足が遅いし狭い木々の間は通れないから伐採しながらになる。それでは何時になったら測位システムが使えるようになるのか分からないから、結局シャベルによる手作業を選択せざるを得なかった。

 なんとかマーカーを設置はできたが、1日1ヶ所が限界だった。こんなに樹木が多くて通信が取れるのかと思うが心配ないらしい。

 そアグナスⅡは距離と方位を精密計測して運用の下準備を済ませたようだった。

・・・済ませたはずだった。

 獣たちは警戒して寄り付かなかったマーカーが無害だと認識したらしい。

 ぶつかったり、齧ったりするのはかわいいほうで、何を思ったのか巣に持ち帰ろうとしたものまでいた。

 やり直しだ。頑丈に。

 今度は設置したマーカーの周りをそっくり覆う小屋を作る。

頑丈にだ。アンカーも使う。

 電気柵も使いたいが、機材を用意していない。基地に要望を送っておこう。


 漸く再設置が終わって計測をやり直した。

 これで自動重機が投入できる。アグナスⅡが計画指示を出し自動重機が測位システムを利用して作業が進む。

 やっと手間なしになった。


 俺はいま、ある計画のために水源の調査をしている。井戸を整備したいと思っているのだ。アグナスⅡの艦内に十分な水はある。炊事、飲み水そして、シャワーに至るまで不足の無い量の水は確保されている。空気中の水分を析出させて取得する機材もある。


“天然素材”


 何だろう、この魅惑的な響き。自然の中にあり特別な努力無しに手に入れることができない物品。素材ごとに処置をしてプリンターを使わずとも料理の形ができる食材。

その根幹となる水。処理をされた循環水ではない大地の恵み。

 そして“風呂”。

 そう、風呂というものを使ってみたい。

 そのために作らないといけない。

 地面を四角く抉り取り、伐採で得た材木で枠と床を作り水を誘導する。

 そして核力電池の排熱を利用してお湯ができれば完成だ。




 水源はあまり苦労すること無く見つけることができ、さく井もできた。ほとんど自動重機がやってくれたので見ているだけなのだが、

 こんなたいへんな作業なのだな。

 水質は悪くないらしいが、アグナスⅡの分析ではそのまま飲むのは不可ということだ。

 揚水ポンプやタンク、除菌フィルターは予めは持ってきたから問題ない。

 では井戸と風呂の整備だ。

 風呂はギガンティア達が入ってくれるのか分からないが大きく作りたい。




 テンションが上がり過ぎて急ピッチで作ってしまった。

 井戸は問題なかったが、風呂には排水が必要なことに気が付かず2回も作り直したのはないしょだ。


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