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Take over  作者: 羽場寝郎
イース開拓
4/10

4.赴任地到着(2)

「アナン、音声通信が入電しています」


 ルアナンにチェスで負けて機嫌が悪い最中にアクセスがあると告げられる。


「俺にか?どこからだ?」


「本星のようですが、民間ですね」


「・・?わかった。繋いでくれ」


「はい」


『あっ繋がりました。アナン、あなたはアナン・スミフマさんですね。間違いないかしら?私は人権保護活動支援協議会の副代表のクリル・アリーと申します。あなた、軍でいじめに遭いましたね。いじめられたでしょう?可哀そうに。辛かったわねぇ。もう、大丈夫よ。私はあなたの味方だから。私に何でも相談して頂戴。解決するわ。今までいくつも解決してきたから。悪いのは軍ね。軍よね。軍隊って悪いのよねぇ。私は軍隊って嫌い。ねぇなんでそんなところに居るの?平和のためには軍隊なんていらないのよ。だから、いじめも無くならないの。そのために行動しましょう。あなたもいっしょにね。誰、誰に何をされたの?大丈夫、誰にも話さないから教えて?』


「えーと、俺、いじめになんか遭っていませんよ。何かの間違いでは?」


『そんなことないわ。初任地出航の時には必ずあおり追っかけがあるはずだもの。あなたもやられたでしょ?』


 あーあれか。外部でも有名なやつだったんだ。知らなかったよ。


「もし、いじめ案件だったらあなたはどうするんですか?」


『決まっているじゃない。

 あなたの代理で賠償金を取るのよ。

 そして、私はその4割を手数料として頂くわ。

 訴えなければタダなんだから、あなたにとって損はないでしょ』


 とんでもなくうさん臭い団体に目を付けられたってことか。

 あれには確かにムカついたが、この団体に借りを作ると将来に渡って良くないことになりそうな予感がする。


「何の件を言われているか分かりません」


『あら、あなた。事実を隠蔽するの?ダメな物は正さないといけないのよ。世の中を少しづつでも良くしていかないとダメになるの。わかる?あなたが真実を隠すことがどれだけ罪なことか。あなたまで断罪される側に居なくてもいいのよ。さぁ教えて頂戴、誰にいじめられたの?』


「私は合同訓練はしましたが、いじめられてはいません。何かお間違いでは?」


『飽くまでもいじめはなかったって言うのね。分ったわ。あなたは私達の敵になるのね。覚悟しておきなさい。不幸なことが起きなければいいわね。それじゃね』


 言いたいだけ言って通信が切れた。

 中年の早口の女種だった。

 自分の思うようにならないと敵認定って本当にあるんだな。

 あいつらが手を出してこなければたぶん平和なんだろうな、例えいじめられていたとしても。まともな、こちら側が望む形での決着にならない雰囲気がビンビンしているし。

 疲れた、ドッと疲れた。できれば、そっとしておいてほしかった。


「補助金目的の民間団体ですね。公安情報に該当の団体名がありました。

 それにしても4割は高いですねぇ」


 AIにも笑われるような恥ずかしい活動家ということらしい。

 カネは4割以上に取られそうだし、なによりも付き合うと俺の信用も失いそうだ。軍隊いらないとも言っていたしね。

 まぁ敵対しても辺境の採掘現場にまでは来ないだろう。平和が一番。

 第6惑星キピトー軌道に近付いた。そろそろ減速する頃合いだなと思っていたら、艦内アナウンスが始まった。

 俺達しか居なくてもちゃんとやるのな。


「まもなく減速航行に入ります。所定の位置についてベルトを締めてください」


 加速の時と同じ50分のフル減速をすると惑星イースの付近に着く。

 減速は加速より気持ち悪い。それを避けるために座席を進行と反対の後ろ向きに方向を変える。これをやらないと具合も悪くなるが首にも支障が出てしまう。

 全員の着席とシートベルトを確認して減速動作を開始した。


《俺、小便すんの忘れてたぁ》


《50分だ、我慢しろ》


《耐Gスーツの中、後で洗えばいいんでねぇか?》


《んだなぁ》


《オデ・・・オデ、大きい方・・・》


《《《ギャー》》》



*****



 超光速からの減速動作も終わり、アリムとルアナンが耐Gスーツを手荒いしていると、目的地に近づいたとアグナスⅡが報告してきた。


「第4惑星カマーズの軌道を通り過ぎました。

 まもなく惑星イースに到着します」


 ディスプレイをCGからライブカメラへ切り替えてイースを確認する。


「まだまだ遠いな。進行方向の白い点がイースだろ。なんか形が歪に見えるが」


「イースは大きな衛星を持っています。見え方によって歪な形に見えるのでしょう。

 アウルムのある惑星は比較的大きな衛星を持つのが特徴です。

 イースは当たりかも知れませんね」


「しかし白いと言うか眩しいな」


「そうですね。氷にでも覆われているのでしょうか?」


 そうこう言っている内にイースの姿はだんだんと大きくなってくる。


(あー衛星がかなり大きかったんだなぁ)


 歪に見えた原因はこれかと感心しながらイースの1/4ほどもある衛星のアルミスをみる。イースの衛星は1つだけのようだ。

 衛星アルミスの重力圏を避けてイースへさらに近づいていく。

 ある程度近づくと衝突するというか落下するというか、相手が大きいだけにそういう恐怖感が消えない。


 近づくと色々と見えてくる。

 イメージ色は青と緑と白だ。青と緑は同じ割合だが白は多い。だいたい7割程が白だ。

 青と言っているのがいわゆる海、緑はたぶん樹だから陸?そして氷。

 星の見た目の面積で約7割が氷に覆われていた。


「これって氷河期じゃね?」


「艦長はラッキーボーイですね。これなら有害な土着菌もあまり活動できていないでしょう。検疫処理の時間的余裕が持てます」


「氷の厚みが分からないが、事によったら掘削が難しくなるんじゃねぇか?」


「懸念より検証。先ずはアナライザーを地表へ落とすのが良いかと。併せて探査衛星を放ちましょう。アウルムの分布も均一ではないでしょうし」


「へっ?すぐに着陸するんじゃないの?」


「あなたの自殺願望に異を唱えることはしませんが、ギガンティア達まで巻き込むことには賛成できません」


「俺に自殺願望はないぞ。なんでそうなる?」


「あなたがた人間の生存条件は極めてせまいのです。空気や水の組成、地表面の温度や降り注いでいる放射線の量など条件が合わなければ即死するのですよ。

 地表に降りてあなたがたが艦内に引きこもっていられるはずがないでしょ」


「・・・はい」


 中等教育でも習う基本的なことをアグナスⅡに説教されて反論もなく落ち込む。

 知識があっても使えないとね。


 でもね地表だよ、星の表面だよ。

 この世に生を受けてからずっとコロニーや人工惑星の内部でしか生活したことが無いし、地表面で生活しているのは皇室と政府の最重要機関だけなんだから憧れってものがあるっつうの。

 しかも木があるじゃねぇか。金属やガラスは普通にあるけど樹脂ましてや木材なんて超高級品だよ。マオ基地の司令官の机でしか見たことがない。

 これでテンションが上がらなければ生きている人間とは言えないでしょ。


 結局お預け状態のまま、衛星軌道上の艦内で1ヶ月を過ごすことになった。

 しかしその1ヵ月は暇ではなかった。

 地表面や土中の採取できる細菌とウィルスを分析して我らの遺伝子とマッチング、発症テストを繰り返し、有毒・重症症状を起こしそうなものにはワクチンを作り接種する。

 併せて重力測定や空気組成や大気圧の分析、水の分析を何か所から採取して行った。

 結果は特別な装備無しで生存可能であった。

 ワクチンの接種では、時に発熱もしたけれど今は元気です。


 そしてアウルムの採掘場所なのだが、候補は5か所あった。


 第1は、大きな大陸に挟まれた海の中

 第2は、極圏に近い厚い氷の下

 第3は、地中であるが浅く分散している森

 第4は、地中深いが最大埋蔵量の山

 第5は、何もかもがそこそこの丘


 初っ端からわざわざ苦労することもないし初回の納入を早めに送る必要があるから、第1、第2、第4は却下。掘る手間を考えて第5の候補地を選択することになった。

 ただ、今はその候補地も氷の下なのだが、星が温暖化しているらしく徐々に氷が後退していっているようだ。

 あと少し時間が経てば完全に氷も無くなるだろう。


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