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Take over  作者: 羽場寝郎
イース開拓
2/10

2.辞令交付

何故聞いていながら予測できなかった?


自己嫌悪に陥りながらもやるべき事をやらないといけない。そうしなければ前方の柱に正面衝突してしまう


ブレーキスラスターのレバーを見つけ・・・どれ・・・見つけてブレーキ。


 普段であれば難なくできるはずがレバーを見つけることさえももどかしい。

 何とか速度を落として姿勢を戻す。


「すみません。すぐに進路を空けます。ちょっと待っていてください」


『退きますじゃねぇ。緊急防衛展開ってものを分かっているのか。演習中だ。もたもたすんな。さっさと、1線まで上がれ!』


『艦長、相手は非戦闘艦です。2線です』


『そうだったか?まあ、細けぇこたあ気にすんな。がっはっはっは』


 そんな漫才みたいな会話を聞かされているうちにまた駆逐艦が迫ってきた。

 またブレーキスラスターを食らわないように今度は速度を上げて対応する。幸いにも誘導路が直線になった。


「意地を張っていないでいいかげんに手伝えよ。

ぶつかったら基地もお前もキズつくだろ。壊れたら出航できなくなるじゃないか」


「意地ではありません。規則です。

出航できなくなる前例は既にあります。

前方11時方向を見てください。

修理に10日ほど掛かる駄艦が無様を晒しています」


「お前、口悪いね~」


「お褒めに与かり光栄です。艦長の思考パターンを元に学習をしております」


昨日の出航の際にこれもまた何故か緊急防衛展開の演習に巻き込まれて、輸送艦の餌食になったキャンプボードだ。

あの新任艦長が泣いていたな。

基地司令に怒られたあげく査定にマイナスがついたって。

同乗していたギガンティア達からも白い目で見られていたしな。


取り敢えず駆逐艦との距離が取れたことでホッとはしたが、後ろから迫っていることに変わりはない。


『おっ、やるな』


駆逐艦がのたまう。

“やるな”じゃねぇよと心の中で悪態をつきながらも口を閉じて無視を決め込む。

距離が取れて心に多少の余裕が持ててはいるが、出航ポートが迫ってきている。


「アグナスⅡ、重力波エンジン始動」


「規則で初任地出航に助力できません。いい加減おぼえてください、艦長」


 AIに拒否られて仕方なく始動操作を行うことにする。稀に始動不良をすることがあると聞くがそんな経験はない。今回も無事に始動ができた。

さらに出航ポートで上向きになるように転舵しないと離陸はできない。普段は一度ポート中央で止まってから転舵するのだが、そんな悠長なことをしていたら絶対にぶつけられる。

既に経験のないほどに速度を上げているのでピタリと停止すらことすら難しいのだが。


「管制。後ろの駆逐艦に安全距離を守るように言ってくれ」


ナビゲーションコードが発行されているのでノンストップで出航ポートへ侵入しても問題はないのだが、できれば余裕を持って転舵をしたい。


『アグナスⅡ。・・・進路クリアで』


 えっ、見捨てられた?

 きっと、管制にもなにか圧力みたいなものが掛かっているのだろう。

こうなったら自力で何とかしてやる。

 出航ポートに出たら即反転、即離陸だ。


 3、2,1,今だ・・・


*****


 今、俺は2線上に居る。

取り敢えずは無事だが、問題が無かったわけではない。

機体の損傷はほとんど無いのが幸いだが、ポートのセンサーの一部を接触して壊してしまった。


『H202:アグナスⅡ、インシデントです。

後日、報告書を提出してください。

ウッズ調査官が対応します』


 ぶつけて落ち込んでいる俺に、俺を見捨てた管制官が無情なことを言ってきた。


「全方位型の重力波エンジンだったら姿勢を変えなくても出航できたのに・・・なんでこの機体は推進偏重のエンジンなんだよ」


「昔、全方位型がありましたね。

たしか、ソーサー、皿と呼ばれていた機体でしたか。

あれは傑作でしたが、遅いですよ。艦頭障壁も艦内のカウンターGもロクに張れませんでしたから」


「・・・」


後ろにいた無頼艦=駆逐艦パルダスから通信が入る。


『こちらはビリム所属近衛第3師団、B131:バルダス、船長はガードナー・グラスだ。

そこのキャンプボート。所属と艦長の名前を明示せよ』


 本星総本部の主力の旗艦、しかもグラスって中将だったかな。将官が乗船する数少ない戦闘艦だったな。

 やっかいなのに目を付けられた。

 取り敢えず、この場さえ逃れれば俺は生涯辺境の採掘仕事。中央の目なんか届かなくなるだろう。


「マオ基地資源調達部所属H202:アグナスⅡ、艦長はアナン・スミフマ5尉であります」


『アナン5尉。赴任採掘場所はどこか』


「本恒星系第3惑星イースになります」


『よくわかった。業務に励むように』


「はっ、ありがとうございます」


 ふ~。



*****



「アナン・スミフマ准尉、前へ。」


 会議の主役席である最前列の椅子から立ち上がり、演壇前へと向う。そして姿勢を正して敬礼をする。


 ここは、ビリム宇宙第331方面軍マオ前線基地の大会議室。

 本星銀河以外最初に進出した銀河系のイミハギーにあるヌス恒星系の第15惑星として建造、設置された人工惑星基地だ。


「辞令。アナン・スミフマ准尉。本日をもって5尉とする。

そして、資源採掘部所属とし、本星系第3惑星イースでの採掘班長を任ずる」


 准尉というのは兵士と士官の間という中途半端な立ち位置である。士官のような責任は無い。士官学校の出身者のみが期間限定で与えられる軍位だ。入隊後の成績如何で士官か兵士かに振り分けられる。


 そう言われて兵士に落とされるかもと心配になり調べたが過去、兵士に“された”人はいないらしいが“なった”人はいるらしい。

 この昇格で一人前の軍人として扱ってもらえると感じるのと同時に、これからの任地で責任者は俺一人になるので、不安も大きくなる。


入隊した当時は身の程知らずにも防衛隊への所属を夢見ていた。やはり軍と言えば戦闘部署だ。俺はそれが花形だと思っていた。

しかし現実は違っていた。

常に外敵との対応で緊張を強いられ、戦闘行為に晒されているというのは俺の妄想だった。

本星恒星系の外宇宙へ進出し始めた当時でも、高度生命体との交戦の記録は少ない。

本星と衝突する可能性のある流星の破壊などが出撃の主を占めていた。

つまり軍の実際の主業務は、資源調達だった。それは赴任先の惑星へ行き、鉱物や植物などの資源を本星へ送ることだ。また採掘班長の赴任地は生涯変わることが無いらしい。

 それだけ1つの星にある資源の量は膨大であり人の人生を掛けるだけの時間を要するということなのである。

 俺はその花形部署の士官になったのだ。


その一方、戦闘部署に所属する人間というのはレベルが違った。

後で知ったのだが人体そのものの頭のできも違うのであろうが、脳内にあるナニーチップのできが格段に違うらしい。

チップ製造時に3つのランク分けがされている。同じ回路の製造なのに製造工程で性能の差ができてしまう。そして、Aランクは皇族や特別な人向け、Cランクはギガンティアなどの奴隷向けに使われている。

一般的なBランクはその規格幅が広く、上限と下限では性能差が倍違うとも噂されている。俺達一般人にそのチップがランダムに使用されているらしい。

人体的にもチップ的にも当たりを引いた人が戦闘部署に採用されていると言うことになる。俺ではどう足掻いても太刀打ちなんてできやしない。俺程度の人材というのは掃いて捨てるほどいるということだ。


夢は夢、仕事は仕事。

辞令を受け取り再度敬礼して席に戻る。

この仕事の中に新しい夢と楽しみを見つけていこうと思い直す。



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