第7話 公開処刑って言葉を知っていますか?
案内されたのは西洋風の東屋で、平面で見ると八角形の建築物でかなり凝った造りだ。その中にテーブルと椅子が二つセッティングされていた。
(というか椅子が二つしかないのですが!? 今から恐怖☆椅子取りゲームでも始めるつもり!?)
国王陛下の護衛騎士は立っているのは理解できるが、宰相のギガルド様を立たせる気なのか。一応陛下よりは若いけれど偉い人を立たせいいわけがない。
「さあ、エマたん。こちらに(うはー。こんなに早くエマたんとお茶会ができるなんて! 政務を一週間分前倒しで片付けて本当に良かった!)」
「(やっぱり私がそこに座るんですね!? 罰ゲームですよね、これ。陛下私のこと嫌いなのかな)……ええっと、私が座るよりも宰相閣下が座った方がいいのでは?」
国王陛下がラスボスの風貌なら、宰相様は絶対に裏切る重鎮のような顔をしている。でも仕事はしっかりしているし、品行方正、貴族の中の貴族と忠臣で有名だ。
宰相様は私を睨むと、
「私は立っている方が気楽ですのでお気になさらずに(エマちゃん、気遣いができるいい子だ)」
「(うっ……。宰相は宰相で目力が強いし、声も低いから怖いんだよな)それでは失礼します」
私の隣にはアルフォンス様が付いた。顔馴染みがいない状態でアルフォンス様が傍にいるのはとても有り難い。席に着いたところで侍女たちがお茶を注いでくれた。黒を基調としたメイド服はなかなかにシックでかっこよく見える。
注がれた柑橘系の香りに癒やされていると、国王陛下は「ごほん」と咳払いをしたのち口を開いた。
「実は今日、エマたんに依頼したいことがあってな」
「(エマたんで固定されている。うん、もうツッコムタイミングを失ったからスルーしよう、そうしよう)なんでございましょう」
「王家に代々受け継がれる懐中時計が壊れてしまって時を刻むことができなくなった。時計屋や鍛冶士にも頼んだがどうにも修繕は難しいという。そなたにそれの修繕を頼むことは可能か?」
「失礼します。……鑑定」
陛下の胸ポケットから出した懐中時計は、ドロップアイテムで言えばSSSランクの秘宝かもと身構えたのだが造りは凝っているが普通の懐中時計だ。
懐中時計には四種類の形があり、陛下が出したのはスケルトンと呼ばれる類いのもので、文字盤やケースに硝子を使用して中のムーブメントが見えるように作られていて蓋付き。さらに魔導具で動くものではなく機械式懐中時計タイプのものだ。
鑑定をするとムーブメントの中の複雑な機械仕掛けの歯車が歪んでいる箇所が数点と、いくつかのパーツそのものに亀裂が入っているのを確認した。
「修繕は難しいですが、再構築による形でしたら対応は可能です」
「ふむ。……その修繕と、再構築の違いとはどのようなものだ?」
「簡単に言いますと修繕は『元の形を保ったまま今まで通りに使えるようになる』という意味で、再構築は一度全てを分解したのち同じような形に再構築しますが『まったく同じものではなく多少デザインなどが私の作品寄りのものに変わり、防御付与魔法の追加する』という違いがあります。思い入れのものであれば多少でもデザインが変わることを受け入れない方もいるので、どうするかは陛下が決めて下さい」
「ふむ」
使えることに重視するのか、現在の形のままを望むのかは本人によって異なる。その人の考えによるので、こればかりは当の本人が納得して貰わないと困るのだ。
ただ修繕しても現状DマイナスからCにするぐらいしか修繕は見込めず、耐久度は低いままだが。判断材料として伝えるべきだろうか。
「エマたんのオリジナル……。おほん、あー、そのデザインが多少変化と言うがどのレベルまでか分かるものなのか?」
「できるだけ元々のデザインをベースにしても、例えば数字のフォントやムーブメントの中の形が若干変わるかもしれません。また再構築なのでアンティークとしての価値は下がると思います」
「なるほど。それならいっそのこと再構築をしてほしい。次の世代に渡すのに機能しないただのアンティークでは余の顔が立たん」
「分かりました。それでは再構築として依頼を承りました。仕上がりは――」
「今ここで余に見せもらえないだろうか? エマたんの実力を肌で感じてみたい」
「(無茶振りキターーーーー!)……ええっと、今ですか」
「ああ、今だ」
陛下は深々と頷いた。周囲の人たちにも私と陛下の会話が聞こえているのか興味津々のようだ。
反応に困り助け船を求めてアルフォンス様に目配せを送ったのだが、
「陛下、エマの再構築はとても素晴らしい、奇跡の所業を見せてくれると思います! ご安心を!」
(ハードルをさらに上げてきた!? 背後を撃たれた気分なんだけど!)
しかも腹立たしいことに、アルフォンス様は「エマならできます」と信じ切っているのだ。この男はつくづく私を窮地に立たせるのが好きなのだろう。
これは失敗したら公開処刑もいいところだ。 挑発されたのだ「目に物見せてやる」と意気込み、若干というか完全にヤケクソで私は両手を叩いた。
「装備再構築・解放!」
手の平を離すと金色の立方体が浮遊して現れる。
その現象にその場にいた貴族たちは声を上げた。
この世界に魔法は存在するので、そこまでオーバーリアクションすることはないのだが、まあ気にせずに模写、のちに魔力で紡いだ魔法糸で装備品である懐中時計を分解。
キューブの中に分解した懐中時計を入れて細々とした部品を補填するため、貴金属を素材としてキューブの中に入れる。金とオリハルコンの塊も入れておこう。
虚数空間ポケットから必要な素材を取り出したら、歓声があがった。そこまで珍しい物ではないはずだったが、気にせず作業を続ける。
素材を入れた後、キューブの中に入れて比率を調整。思いのほか魔力量を消費する。周囲に溢れる微弱な魔力と自分のMPを使い再構築。
(うわっ。私のMPが半分持ってかれた)
一気に疲労感が襲うもののなんとか耐えた。
淡い金色の光を放った後、キューブが砕け散り懐中時計が排出される。
新品同様の煌めきにデザインも大きく変わっていなかったので、ちょっとホッとした。再構築をする前に模写を念入りにしつつ、できあがる懐中時計のイメージを意識していたのがよかったのだろう。両手で受け取った懐中時計を陛下に差し出した。
「これで今まで通りに使えるかと思いますので、試してみて下さい」
「うむ」
陛下は懐中時計を手にしたのちゼンマイを巻き始めた。竜頭の部分を巻く姿を見るに扱い慣れているようだ。
ゼンマイを巻き終わり秒針がしっかりと時を刻み始めた瞬間、わっと歓喜の声が上がった。
「素晴らしい。実に素晴らしい働きだ!」
ムスッとしていた顔がほんの少しだけ微笑んだように見えた。本当に一瞬で幻かと思うほどの刹那だったが。とりあえず合格点をもらえたのは嬉しい。少しだけ気が緩んでしまうのはしょうがないだろう。
お読み頂きありがとうございます。
次は21時過ぎになります(◍´ꇴ`◍)!
10/16(明日)に完結予定でございます。最後までお楽しみ頂けますと幸いです。
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