第5話 勇者京助の視点
ひょんなことから異世界転移をした俺と、和花と、絵麻。俺たち三人とも初対面でたまたま同じ空間に居合わせただけだったが、絵麻と和花とはすぐに打ち解けた。
異世界転移という非日常的な状況に馴染み始めた頃、この世界の人たちは絵麻に対して俺たちと態度が違うことに気付いた。俺や和花の場合、勇者と聖女と言うことで最初から好意的に接してくれていた。
(……絵麻の場合、関わりたいという視線を向けつつも、遠巻きに見ている?)
絵麻の待遇に違和感を覚えた。
嫌悪しているとかではない。
(むしろこれは……好きな有名人やアイドルを見かけたものの、本人を前に声をかけられないような、喜びと緊張などの葛藤を抱いている??)
オタクの俺が言うのだから間違いない。
しかし、なぜ絵麻なのか。たしかに勇者や聖女よりもある意味珍しい職業ではある。それに高レベルになれば、装備修繕や装備再現なども可能になるらしい。
(んん~~~でも肩書きを見ている感じじゃないんだよなぁ)
新しい装備品を得るには金がいる。しかし絵麻がいることで、コストを最小限にしつつ装備の耐久度を最大限まで上げてくれるのだ。経費的にも大分カットできる。国家的にみたらかなり重宝したくなる――というのならまだ分かる。
(絵麻の場合、完全にMMORPGとかのゲームシステムにある、工房や錬成所まんまなんだよなぁ。よくよく考えたら、勇者の俺よりも有能じゃね?)
とにもかくにも絵麻がどうして人気なのか。その理由をそれとなくこの世界の住人に聞いたところ黒髪、黒い瞳、低身長、無愛想、そして塩顔がモテるらしい。「この世界の美的基準の問題だったのか!」と心の中で突っ込んだものだ。
(そりゃあ、俺がいくら考えても答えはでないよなぁ~~)
塩顔女子とは薄めの顔立ちで、一重、奥二重のすっとした目元に鼻が高く、色白、顔の輪郭がシャープという特徴を言う。パッと見たらとっつきにくい印象なのだが、笑ったときのギャップがいいという。
また主張しすぎない控えめで、涼しげな顔立ちもいいとのこと。
特にこの世界ではあまりおらず、どちらかというと男性に媚びる女性が多く、自立している女性なども少ないのもあるとか。それらを聞いて納得してしまった。
(あー、たしかに。俺は醤油顔だし、和花は砂糖顔だ。それで、あの対応か)
「ちょっと、どうしてエマっちがいないのよ!」
「ん?」
そしてここにも一人。絵麻大好き人間――いや魔王がいる。
四つの角を持ち褐色の肌、灰色の長い髪に、ボンキュボンのナイスバディ。外見は二十代前後。女優顔負けのスタイルと顔はまさに俺のドストライク、服装も黒のドレスとかなり大人っぽい。だが悲しいことに彼女が気に入っているのは、絵麻だったりする。
(そうここでも絵麻なんだ!!)
現在俺たちは、魔王城の応接室で優雅にお茶を飲みながら近況報告をしていた。ジェレミーとニコラは外して貰っている。「いくら友好関係を築いていても、魔族とはあまり関わりたくない」と言われてしまったからだ。まあ、この世界の人間からすれば、魔人族イコール悪という考えが根強いのでしょうがない。
「はぁ。エマっちが来ないなら、歓迎会は中止ね」
「おいおいおいおい!」
そう言うなり魔王はテーブルに並んでいた菓子を片付け始める。ちょっと俺たちの扱いが雑じゃないか。泣くぞ。
「あのツンツンした姿が昔飼っていた猫にそっくりなのよ~。あー、また会ったら美味しい物を食べている姿を観察して、それからぎゅーって抱きしめたかったのに~」
(ハグ、なんて羨ましい……! 俺もハグされたい。絵麻じゃなく魔王に!)
そんなことを言った日には、速攻で魔王城を出禁にされてしまう。それは不味い。
「魔王様、しょうがないですよ。今後のためです。それに王様も絵麻ちゃんが第一線にいるのが、本当に嫌だったみたいですよぉ。なんか漢泣いていましたし……」
「そんなにかよ。……まあ、魔物大量暴走が至る所で起きるのなら、絵麻は安全なところにいた方がいい。というか、あいつ集中すると周りとか本当に見ないし、HPやMPゲージも勇者よりあるけど、自分を犠牲にする戦い方は心臓に悪いしな」
「ねー。緑魔鬼の王の時とか、見かねて竜騎士団総出で絵麻ちゃん守っていたものね」
「あー、あったな」
一年前の戦いで騎士団連中は俺や聖女のフォローに回らず、絵麻の盾になっていたのだ。あの時から竜騎士団連中は、絵麻に好意的だった。
(中でも面倒くさそうな奴に惚れられているしな..……)
絵麻に気付かれないように王侯貴族との会合に参加して、保護を約束して貰っていた。俺たちがいない分、絵麻を守る存在は必要だからだ。
(なんだかんだお人好しだから、この世界でしっかりした職業と信頼できる奴に任せるのは必須だったが……)
ここまで半年以上かかったものの、なんとか絵麻の安全が確保できたのは嬉しいことだ。これからは直接戦闘に出ず、本当の意味での後方支援に徹してほしい。
(団長には絵麻の過去のトラウマや、警戒心が高い理由もそれとなく伝えているから大丈夫だろう。……たぶん)
「にしても、エマっちに国王と対立している風の説明をしていてよかったの~? あの子、真面目だからきっと今も国王や竜騎士団に対して、警戒心バリバリ向けながら装備品作っているんじゃない~?」
「「……………………」」
魔王は毛を逆なでしながら警戒する黒猫を想像して楽しんでいた。俺も想像して「あり得る」と笑った。
「まあ、そのへんはあの副団長殿に丸投げした」
「あー、遅い初恋のせいで拗らせた彼ね~」
「いい奴だけど、面倒くさい奴だと思う」
「ふーん。そうなのぉ~」
魔王は俺たちだけだから、終始やる気が無い。困難でも人類悪らしいのだが。
「……そもそもなんでこんなにややこしくなっているんだ?」
「それは~『魔王が魔物を生み出して、人間界を侵略しようとしている』という建前のせいね~~」
「その建前とか何百年前の話だよ」
魔王はため息を吐きながら言葉を続ける。
「だってその方が人間社会にとっても、やりやすいでしょう~~。冒険者ギルドも魔王という倒すべき目標を掲げることで、モチベーションを維持しているし」
「まあそうだな」
「うんうん、京助くんの言いたいことはわかるよ。でもさ、魔王様が魔物を生み出したんじゃなくて、アレ次元の裂け目から勝手に現れるんでしょう? 私たちの世界で言ったら、未知なるウイルスみたいなものだよね。そう考えるとこのシステムを考えた人は、有能だと思うな」
和花の言いたいことはわかる。
魔王が魔物を生み出しているわけではなく、次元の裂け目に自然発生する。魔王領内であれば、魔王の能力の一つ覇王支配によって魔物の凶暴化を解除することが可能だ。ただ範囲が限られているので、四天王たちによって同じように領域支配を行っている。それでも言動はあるとか。
魔王打倒でなくとも勇者や冒険者の存在は、必要不可欠なのだ。
そのことを魔王城に来たときに、さらっとカミングアウトされた。今から二年前の話だ。それからは魔物大量暴走が小規模で起こったりしたので、沈静化に励んだ。
(魔王と勇者の決戦じゃなくて、魔王と勇者が手を組んで魔物を撃退ってのが現実なんだよな)
時空の裂け目となる場所にはある程度目星が付いているので、それを魔王とすりあわせて対処してきた。各国の王だけは魔王と密約を結んでいるので、事情は知っているとか。
その秘密を勇者である俺たちに話さないのは、国家機密だからだろう。まあ、聞いたら最後、完全に逃げられないので俺たちは知っているけれど知らない振りで通している。
「とにもかくにも絵麻には、今後も警戒心を持っていて貰おう。簡単に餌付けされて懐いてしまったら、兄的ポジションの危機だ!」
「京助くんも、絵麻ちゃんのこと妹みたいに慕っていたもんね」
「ああ。元の世界でも俺には妹が二人と弟がいたからな。絵麻と交際する際は俺と決闘を受けてもらうって決めている」
そう真っ先にあの面倒な副団長が浮かんだが、あの爽やか腹黒に勝てるかちょっと心配になってきた。
「まあ、私は絵麻ちゃんの困った顔が見られるのなら、なんでもいいかな」
「……和花。お前、性格悪いよな」
「歪んだ愛と言って。だって普段ツンツンしているのに困った顔をしていると、こう助けたいってキュンキュンしちゃうんだもの」
「わかるわ~、キュンキュンするわよね」
「ね-」
「魔王もか!」
和花は可愛いものが大好きなのだが、その可愛いものがアタフタしているのを見るのも大好きな変態女だ。
(なんでこんな奴が聖女なんだろう。人選ミスじゃないのか?)
いや性格が最悪な奴よりは、遙かにマシだが。この世界の女性は正直肉食系ばかりで、自分が自分がと我が強い。
そんな女性に好かれても嬉しくない。
悲しいことにハーレムなんて夢のまた夢。もっとも元の世界のように寄ってくる女性がいないよりは遙かにましだけれど!
(そう考えると絵麻のモテモテっぷりが羨ましいぜ!)
お読み頂きありがとうございます。
次回は夕方の予定です(ノ*>∀<)ノ♡
10/16に完結予定でございます。最後までお楽しみ頂けますと幸いです。
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