第14話 勇者は遅れてやってくる
「そういうのは後で!」
「後でならいくらでもいいのですね!」
(ものすごい曲解! ……でも、悪くないかも)
私に抱きつき頬ずりをするアル様に、自分からキスをしたのは勢いと両思いに浮かれていたからなのは内緒だ。
***
私を護りながらアル様が戦うため選んだ場所は、王都の城壁と死の王との中間の小高い丘だった。この距離と全体を見渡せる位置なら味方の後方支援がギリギリ届く。
「アル様、これから全力で騎士団長たちのバックアップをするので、私自身の護衛はお願いします」
「こうなったら貴女は絶対に引かないのですから、私も全力でエマを守り抜きます。ロンもいいな」
「グルルルル(うん、まかせて!)」
これから使うスキルは勇者パーティーの時に魔王と戦った際に使った切り札。使用した瞬間、全集中を周囲に向けるため、自分のことは勘定から抜けてしまう諸刃の剣だ。
でも今は不思議と怖くなかった。
アル様が「守る」と言ったのだから最後まで守り切るだろう。
そう信じて私は両手を叩いた。
「装備創造自動仕様全解除」
周囲の音が遠のく。
深海に潜るように不要な音は遮断され、視界から入る情報も騎士団長たちと敵にのみ集中する。
今回の魔法は修繕や再構築で生み出されたキューブと大きさが異なる。自分の背丈ほどの巨大な光の塊が出現し、味方全員に私のスキル効果の付与対象が承認された。
敵の攻撃からの全方角からの防御、武器や防具が壊れた直後、最適な装備品を分析し転送する。
私の目の前にはPC画面のようなポップアップがずらりと並ぶ。これらは彼らのHP、MP及び武具の耐久度などが並ぶ。
本来支援職あるいは聖女、戦士職、後方支援などの役割を私は全て装備品で代用することで戦線を成立させる。これは私の虚数空間ケットに入れられる装備品の許容量が並外れているからできる技だ。
魔法や防御などはHPやMPの消費が激しいが、私の場合は前から作っていた装備品によって補う。それでもどうしようもなくなった場合は、温存していたMPで装備創造に注ぐ。
(死の王のMPは少しずつ削れている。……って、団長。私が防御結界を展開した段階で猪突猛進しまくっている!?)
他の竜騎士たちも死の王を倒せば他の眷属や配下が消えると分かっていて、少ない兵力で敵陣を一点突破する鋒矢の陣を仕掛けるつもりなのだろう。
しかも上空からの突貫。普通なら格好の的になる。
死の王もそれに気付いたのか笑ったような気がした。
両手を天に翳して、攻撃魔法を有りっ丈打ち込む。
防御壁が展開するたびに砕け、展開、破壊、展開、破壊を繰り返す。
武器や防具も私がなんとかする前提で突っ走っているのだ。
その信頼は重いが、嬉しくもあった。
(竜騎士団、私のことを信用しすぎ!)
「うわあ……団長、流石と言うべきでしょうか。エマ、団長のことですから死の王に辿り着くまでに武器を三、四回破壊しても突貫すると思います」
アル様は亡霊の騎士、首無し騎士を相手にしながら私に助言をしてくれた。アル様の観察眼も充分すごい。
私は鑑定を使っているから武器の耐久度がある程度わかるが、アル様は勘と経験で言い当てたのだ。
(この一年、時間を見ては装備品を作ってきたんだ。大丈夫)
竜騎士団専属装備技師として、竜たちが装備する防具に手綱、鞍はAランクを使用。武器や防具も一からそれぞれの希望を聞いて、新調して調整してきた。
武器に関しては専属の鍛冶士がいるので、いざという時に複製できるように一人一人の武器や得意な武器などを頭に叩き込んでだ――その成果が今結びつく。
武器の耐久度が保たず刃が折れた瞬間、転送。これを繰り返す。そして四度目で死の王に肉迫する。
団長の気迫にさしもの死の王は恐怖を抱いただろう。
団長の手にしている大鉾の切っ先に炎魔法が直撃して亀裂が入る。砕け散る瞬間、死の王である骸骨の口元が勝ち誇ったように動いた。
タイミング的に反撃はないと思ったのは防御魔法の効果が薄れ、魔法攻撃を受けて団長や他の騎士達の頬や腕、足に切り傷が増えていくのを見てそう判断したのだろう。
だが団長も負けじと高らかに笑う。
砕け散った大鉾の柄を死の王に投げ捨て、私が転送する空間を的確に読んで次の攻撃に繋げる。
防御魔法の効果が薄れたのは相手の油断を作るためでもあったけれど、何より攻撃に残るMPを使って最高の武器を届けたかったからだ。
(今の私が作り出せる最高の武器!)
「!」
「驚いたか、それなら死ねぇええええ!」
新しい大鉾を軽々と使いこなし、死の王の頭蓋骨に刃先が突き刺さる。そのまま上空からの勢いも相まって頭蓋骨は真っ二つに切り裂かれ、核と思われる宝玉も砕かれた。
その戦いのセンスに脱帽してしまう。
(力業だけれど大胆というか……スゴイ人だわ)
「む、なんだか団長の評価が上がっているのは気のせいでしょうか?」
そう言いながら残党の亡霊の騎士、首無し騎士を一掃するアル様も充分に化物染みた強さだ。
ふとアル様の背後に黒い靄が生じる。それは漆黒のマントにも見え、骸骨らしき残骸が最後の足掻きと言わんばかりに魔法攻撃を仕掛けてきた。
「!」
アル様は気付いていない。
いつもなら防御魔法を展開していただろう。
でも、それよりも先に体が動いていた。彼に抱きつき、庇うように身を差し出す。
(あれ、私こんなに馬鹿だったかな)
なんてちょっと思ってしまった。
次に来る衝撃と痛みを覚悟して私は目を瞑った――が、痛みはいつまで経ってもやってこない。それどころかアル様は私を抱き寄せて彼の腕の中にスッポリと収まってしまう。
(ん? あれ?)
「エマから抱きついてくださるなんて嬉しいです」
「お前、それを狙って無防備になったんじゃないのか?」
「さて、どうでしょう」
(んん?)
恐る恐る目を開けるとアル様の笑顔が飛びこんできた。いやそれよりも先ほど現れた敵を確認しようと振り向き――見覚えのある後ろ姿が目に飛びこんでいた。
漆黒の靄は霧散し敵の姿はない。万の軍勢は死の王を倒したことで崩れ去って消えていく。
「な? 急いで帰ってきてよかっただろう」
「まあたしかに。一生懸命な絵麻ちゃんも見られたし!」
「お前……」
「あ……」
かつて共に旅をしてきた京助と和花の姿があった。
「よう、絵麻。遅くなったけど、昔から『勇者は遅れてやってくる』って言うだろう」
何処かのアニメの主人公が言いそうなセリフを、京助は格好付けて告げた。
お読み頂きありがとうございます。
最後までお楽しみ頂けますと幸いです。
あと1話で完結です。
下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。
感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡




