第13話 本心
工房兼自宅を出ると王城にも巨大な隕石が降ってきたようで、建造物の一部から土煙と火の手が見えた。王城内はパニックにならず宰相たちが的確に指示を出しているからか、衛兵や従者たちはテキパキと動き回っている。
(数日前に避難訓練を試した効果?)
アル様は寮に待機していた竜騎士たちに声をかけて指示をしているのが見えた。その間、私は倉庫から必要そうな武器や防具を虚数空間ポケットに移動させる。
戦闘になった時に使うかもしれないと思ったからだ。
「エマ、一度上空から状況を確認するので一緒に来てくれますか?」
「もちろん」
彼の顔を直視できず首元に視点を当てつつ頷いた。
アル様の竜であるロンは気位がものすごく高いのだが、私が同乗することに関して嬉々として喜んでいた。
「(ああ……。好きな子にキスなんて初めてだったからテンパってしまった!)……初の空のデートがこんな形になるとはなんとも雰囲気が台無しですね」
「デート……。無駄口言っている場合じゃないでしょう」
「そうですね、すみません」
(ああああ……。言葉がきつくなってしまった)
私がアル様の背中にしがみつく形で乗ると思っていたのだが「後ろだと支えきれない」ということで、私の背中をアル様が抱きしめる形で乗ることとなった。
思った以上に密着するので心臓がバクバクと煩い。
しかしそんなドキドキ甘酸っぱい考えは上空から王都を見て消え去った。
***
いくつもの隕石が王都周辺に降り落ちて家々や道路、公園など無差別に日常を破壊し尽くしていた。土煙がいくつも上がっていたものの幸いにも火事になっている所は少ない。
「隕石? 防御結界で巨大な隕石の塊を砕いたけど、その破片が王都内に降り注いだってこと?」
「恐らくはそうでしょう。エマの防御結界の強固さは並の魔法ならびくともしませんから」
「だとしたら天災? でも警報の時は魔物の反応があった」
「敵はアレでしょうね。九時の方角、見えますか?」
装備品の一つ『視力強化の腕輪』を使って目を凝らすと王都からかなり離れた場所に人影が一つ。
黄金の冠に白骨の骸骨、黒いファー付きのマントを羽織っていて、いくつもの宝石をちりばめさせた杖。あれは――死のそのものを具現化した魔物。
「死の王!? 神話レベルの魔物ならあの攻撃もうなずける」
「そのようですね。そして死の王ということなら、配下は――」
死者魔物だろう。厄介なのは緑魔鬼の王とは異なり魔法戦も得意ということだ。魔物の種族王が存在することで配下が引き寄せられ、時空の切れ目から姿を見せる。
死の竜、亡霊の騎士、首無し騎士、不死の魔法使いが次々と湧き出してあっという間に平地を覆わんとしていた。
絶望的な光景だがその中でいち早く敵の襲撃に気付き、特攻をかける集団があった。
翡翠色の竜に騎乗した騎士、竜騎士団団長率いる一団だ。
「団長!」
「(珍しく朝の見回りをしていたのが功を奏したということか)……エマ、私も団長に続きますので城壁の付近で下ろしてもいいですか」
「駄目、私も戦う」
魔法を得意とする死の王を攻略する場合、魔法防御は必須。魔法使いあるいは聖女の浄化魔法がいないのなら、装備品で代用するしかない。
私ならそれが可能だ。
「いいえ、貴女を戦場に連れては行けません」
「どうして!?」
「それじゃあ何のために、エマを前線から引き剥がして安全な場所にいてもらえるようにしたのか分からないじゃないですか」
「アル様」
収まっていたドキドキが煩く高鳴ったが、私は小さく吐息を漏らして言葉を返す。
「でも今は緊急事態で――」
「貴女が好きで、大切で、失いたくない。だから戦わないでください!」
「!」
それは絞り出すような声だった。後ろから私を強く抱きしめて腕の中に収めてしまう。
彼の吐息が頬にかかる。
「緑魔鬼の王との戦いで傷ついていく貴女を見ていられなかった。あんな風に自分の命を擲って戦う姿はもう二度と見たくないのです。……私を軽蔑しても、嫌ってもいい。ですから戦場には立たないでください」
冗談。
一年前なら素っ気なく答えていただろう。
あるいは嘘。いつもの「お世辞」または「おべっか」だと一蹴していた。
でも今の言葉は茶化すようなものとは違う。
熱量が、思いが、本気度が伝わってくる。
「いつから?」と聞こうとして私は唇を噛みしめた。状況は刻一刻と危機的な状況にある。私は元勇者パーティーの一人で、この場で役に立てる。
それなのに安全な場所にいてアル様の、大切な人の帰りを待つなんてできない。
アル様にはアル様の矜持があるように、私もある。
「アル様の希望を叶えることはできないわ」
「エマ!」
「私は私の戦い方を変えられない。……だからアル様は私が傷つかないように守っていてほしいの」
肩越しにアル様を見つめた。いつも爽やかで余裕だった彼は酷く驚いた顔をしている。その上、泣きべそもかいて格好悪い、みっともないと思う人がいるかもしれないが、私はそんな彼の姿も――好きだ。
あと数センチで唇が触れそうな距離だったのもあり、私は自分の意志でアル様にキスをする。
「え、柔ら、え!?」
「私の命を預けるのだから、全力で守って」
恥ずかしくて私はそっぽを向くのだが、後ろから「あわわわわっ」と歓喜の声が耳に届き、
「エマあああああああああああああ、え、両思いになるなんて!」
お読み頂きありがとうございます。
10/16完結予定でございます。最後までお楽しみ頂けますと幸いです。
全15話です。
下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。
感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡




