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第11話 竜騎士団副団長アルフォンスの視点2

 イレタ・ジュベール。

 公爵令嬢として立ち振る舞いなど完璧な淑女だが、私が女性関係にだらしがなかったときですら彼女のような人種には近づかなかった。

 彼女は猛毒の薔薇。劇物であり、関わりたくない。


 前々から婚約者としての打診が来ていたが、エマと出会ってからはより一層気をつけていた。公爵令嬢がエマと衝突しないように気を遣い、そして早々にエマを婚約者として公言することで外堀を埋めていった。

 公爵家からの圧力もあったがエマに危険が及ぶかもしれないということで、国王陛下及び宰相閣下に報告したことで水面下のちに潰すことができた。


 諸々の事後処理やらエマの仕事量など忙しくて、ここ一年はあっという間に過ぎていた。それでも毎日一緒に居て、食事をとるのはとても嬉しく心が満たされる。

 最近は同棲しており、このままなし崩しに婚姻届を出してしまいたい。だがその前にエマに気持ちを聞く必要がある。


(ここは外食を……、特に人が多いところでの食事はエマが気を遣うでしょうから、レストランを貸し切りにすれば……)


 たまたま騎士団の執務室に用があり部屋に入ると、団長と副団長補佐が書類仕事をこなしているのが見えた。ここ一年は急な出動もなく、見回りと竜たちとの演習が多い。


「それでエマとは仲良くやっているのか?」

「もちろんですよ、団長」

「ふーん、その割にはデートだとかの話は聞かないな」


 デート。

 脳天に衝撃が走った。

 思えば一緒に居ることは多くて、それだけで幸せだったからすっかり抜け落ちていた。王城内でなら散歩やら、竜騎士団の演習に付き添って貰っていたのも全部仕事関係だということを実感する。


(私としたことが! ……よく考えたらデートという認識があまりなかったよな。令嬢の楽しみそうな場所などを案内する遊び程度だったし)


 自分でも最低な発言をしているが当時付き合っていた彼女たちからすれば、デートという枠だったのだろう。

 それからすぐさまエマにデートの申し込みをして、すぐさま動いた。団長には「極端なやつだ」と笑われたが気にしない。


 ***


 エマとのデートは一日、夢のような時間だった。

 朝の待ち合わせから、馬車での移動。

 市街地での食べ歩きや観光。いつも巡回や仕事で見慣れている光景だというのにエマが隣にいるだけで世界が一変する。


 それに最近はエマが私に向ける視線は穏やかというか優しいものになった気がする。『ついに惚気か』だとか『結婚式には呼んでくれ』と同僚にからかわれたが、一年間ずっと傍にいて期間限定恋人兼婚約者から進行は遅々として進んでいない。悲しいほどに。


 一年間で周囲の評価がどれほど爆上がりしているのかエマは気づいていないだろう。彼女は自分を着飾ることをあまりしない。むしろ嫌がる。

 けれど人となりのよさというか素晴らしさは隠しきれるものではない。


 今日のデートでも偶然を装って接触しようとする支援者(パトロン)は多い。彼女はそれに気付いているのか不明だが、挨拶を交わして当たり障りのない話題に相槌を打つ。


 これは仕事をしていてわかったのだが、彼女は意外と情に厚い。

 装備品(アイテム)の修繕や再構築を終え、お礼を言いに来た人たちに対して真摯に向き合い、時に時間を割いて話に付き合っていた。

 そのあとソファやテーブルなど談笑できる場所を手配してほしいと言い出したのもエマだ。

 年寄りの思い出話。なんて適当に聞いていたり流してもいいのに、エマはしっかりと聞いて日記にも書き込んだりしているらしい。彼女は表情の機微こそ薄いがとても情に厚く優しい。だからこそ時々顔を赤らめたりする姿がたまらなく愛おしい。


 今まで女性の話を適当に聞き流していた自分の言動を恥じた。

 私の生き方を変えたのもエマだったと思うと、本当にすごい。

 一年でより彼女への思いは深まった。エマが好きで、愛おしい。


 空がオレンジ色に染まり展望台で告白をしようと歩いていた頃。

 待ち伏せかあるいは偶然か、以前パーティー会場で声をかけてきた令嬢たちと遭遇した。中にはイレタ公爵令嬢もいた。彼女たちは私にしか目が行っていないのか、気安く声をかけて「展望台にご一緒してもいいですか?」と言い出してきた。

 この時ばかりはエマと出会う前に取っかえ引っかえ女性と遊んでいた過去の自分を、殴り飛ばしたい気持ちになった。団長が「本命が現れたときに苦労するぞ」と言っていた言葉を思い出す。


「最近はまったくパーティーにいらしてくれなくて寂しかったんですよ」

「あの夜は、とても楽しかったのに」


 自分がいかにクズ男だったのか。

 エマには格好の悪い自分を見せたくはなかったのに、一年かけて培った信頼が音を立てて崩れていくようだった。


「(いや、ここで今までの自分とは違うというのを彼女たちにも伝えるべきだ)……申し訳ありませんが、今日は連れが一緒に居ますのでご遠慮させて頂きます」

「そんなのいいじゃありませんか」

「そうですよ。どうせお仕事なのでしょう?」


 こういう人の気持ちを考えず、あるいは都合良く解釈する令嬢たちは好きになれない。少し前であれば恋愛を楽しむためと割り切っていたかもしれないが今は違う。


「いえ、今日は大切な――」

「申し訳ありませんが、アル様は私とデートをしておりますので、ご遠慮していただけませんか?」


 私の腕にぴったりと密着してエマが発言したのだ。

 胸が腕に当たっているとか、そんな下種な考えよりも彼女の言葉があまりにも嬉しすぎて心臓が止まりそうになった。だが体は素早く彼女のフォローに回った。エマの頬にキスを落とし「今日はプライベートですので」と言って、令嬢たちの言葉も待たずに素早くエマを連れて踵を返した。


「どうせ政略結婚のくせに、生意気なのよ!」


 そう食い下がってきたのはイレタ公爵令嬢だった。恐らく私とエマのことを調べ尽くしたのだろう。

 小切手をエマに差し出したイレタ公爵令嬢は本気なのだろう。

 偽りの恋人。そう、最初はそれでもいいと思っていた。

 それでもエマの傍にいたいと――。でも今はそう思っていない。だからこそ今日、改め告白をしようと思っていたのだ。

 一年、いくらでも機会があったというのに、私は多忙を理由に逃げていた。その結果がこれだ。


「たった数年の後ろ盾も何もない異邦人のくせに! 私は十年以上もずっとアルフォンス様を見てきたの。契約恋人で都合がいい相手だったからで私の方が何倍も、何十倍もアルフォンス様を思っているわ! 誰でもいいのならその座を私に譲ってよ! 公爵家として充分な援助と地位を約束する!」

「で? それで終わり?」

「なっ」

「え」


 エマはイレタ公爵令嬢から奪い取るとその場で破り捨てた。


「政略結婚の何がいけないの。キッカケなんて人ぞれぞれでしょう。私は十年以上、アル様と一緒にいると決めているの。高々十年なんてあっという間に過ぎていくわ」

「エマ」


 躊躇せずに言い返すエマが愛おしくて、気付けば抱きしめていた。いや抱き上げていた、が正しいかもしれない。彼女を横抱きにして唇にキスを落とす。

 今度はエマの頬が真っ赤に染まった。可愛い。


「イレタ公爵令嬢、申し訳ないですが私が心から愛しているのはエマだけです。政略結婚も契約のことも私がエマを逃したくなくて国王陛下と宰相、騎士団長に無茶を通して貰っただけなのですから」

「え」

「そんな……」


 イレタ公爵令嬢は硬直して固まっていた。私の腕の中にいるエマはさらに顔が赤くて、またキスをしたらどうなってしまうのだろう。愛らしくて、理性がゴリゴリと削れていくのが分かる。


「それでは失礼します」と言い残して今度こそ展望台を後にした。

 人気の無い教会の屋上にエマを案内した。ここは王都を一望できる隠れスポットだったりする。仕事をさぼるときに利用していた場所がこんなところで役に立つとは思わなかった。


「先ほどは助かりました」

「そう……」


 エマは少し恥ずかしそうにしながら私ではなく景色に視線を向けていた。未だ横抱きしたままで、「降ろしてほしい」とは行ってこなかった。それがまた嬉しい。

 頬に当たる風が熱を冷まさせる。それでもピッタリとくっついた体の熱は心地よくて、キスしたい気持ちをグッと堪えた。


 沈黙が降りた。

 先ほどのことをエマはあまり気にしていないようだった。私に興味が無いのかもしれないと思うと寂しい。いやそれは傲慢だ。失望されなかっただけマシと思うべきだろう。

 先ほどの令嬢が話していたことを弁明する気は無い。過去は変えられないし、酷かった自分を正当化はしない。ただエマには変わろうとしている私を見てほしい。


「……今日はエマに伝えたいことがあったのです。聞いて頂けますか?」

「偶然。私はアル様に話しておきたいことがあったの」


 彼女の視線は景色を向いている。

 どちらから話をすべきか。そう逡巡している間にエマは沈黙に耐えきれず口を開いた。


「今のアル様だから話せるけど、『勇者パーティーを追放された』というのは作戦だったの。ここ数年以内に魔物大量暴走モンスター・スタンピードが起こる可能性を考え、私は工房を構えてできるだけ装備品を揃えようと京助や和花と相談して決めていた」


 ぽつぽつとエマは一年前の真実を語り出した。まあ、その辺りの事情は最初から知っているのだが、そういう所は本当に律儀というか真面目だ。

 私が国王に仕えているから、監視されていると警戒していたらしい。恐らく「警戒心を持て」と言う勇者パーティーの助言は間違ってない。

 エマは情に厚くて優しい人なのだから、騙されやすいと思ったのだろう。


「竜騎士団専属装備技師……まあ、今はなんか『王都の修繕屋』って感じになりつつあるけど、今の生活は嫌いじゃない」

「ははっ……。でもそれだけエマがこの国で受け入れられたということですし、喜ばしいことなのでは?」

「それは……そうかも」


 そう言いながらエマはほんの少し口元を緩めた。


「どうして私に大事なことを教えて下さったのですか?」

「アル様を信用してもいいかなって思えるようになったから。それに……」

「それに?」


 こういうとき彼女の飾らない言葉が好きだ。

 率直で簡潔なところも。


「それに装備品は使う相手がいなければ意味をなさない。装備して貰わないと意味がないのと同じ。だから国全体で魔物大量暴走モンスター・スタンピード、ううん、突発的に出現する魔物に対して防衛を強化していった方がいいと思うの。だから・・・・・・その、アル様も手伝ってほしい」


 私に視線を向ける彼女の眼差しはとても真剣で、それだけで私は泣きそうなほど嬉しかった。こみ上げる感情は嬉しさ、愛おしさ、喜びがごちゃ混ぜになって――なにより私を見て、私を知った上で告白してくれたのだ。

 その信頼に私は応えたい。


「もちろんです。そもそも私は竜騎士団副団長であり、この国を守るのが仕事ですし。なによりエマに頼られるというのは正直嬉しいです。飛び上がるほどに」

「そんなに?」

「ええ。もう泣きそうですよ」

「なんで!?」


 驚くエマの姿が愛おしくて、好きだと告げてしまいたい。

 そう思いながらも今は彼女が告白してくれたことが嬉しくて、その余韻を味わいたかった。

 この信頼に見合っただけの働きをして、それが叶った時に私個人の思いを伝えたい。


 私はエマが好きだと。

 今度こそ生涯のパートナーにしてほしいと、告げようと自分の魂に誓った。



お読み頂きありがとうございます。

10/16(本日)完結予定でございます。最後までお楽しみ頂けますと幸いです。

ようやくエマはアルフォンスが気になり始めてきました。

(◍´ꇴ`◍)



下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡

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