ストーカー参観日
私の名前はミオ。何処にでも居る女子高生。
「お母さーん!!いってきまーす!!」
「あら何処に行くの?」
「愛しのキョウヤ君が図書館に行くから、付いて行くの♪」
「あらあら、またストーキング?うーん、分かったわ♪お母さんも付いて行くわ♪」
「なんで!?」
こうして何故だか今日はストーカー参観日になってしまった。
朝9時16分、いつもの電信柱に隠れていると、曲がり角からやって来たのは私の王子様。
凛々しい眼鏡、坊っちゃん刈りの頭、如何にもガリ勉風の見た目が私にドストライク♪
「中々、可愛らしい男の子ね♪」
・・・なんでお母さんが後ろに居るんだろう?
「ちょっとお母さん邪魔しないでよ。バレちゃうでしょ。」
「お母さんがそんなヘマすると思う?引退する前は巷じゃ噂のストーカーだったんだから。」
そうなのだ。お母さんもバリバリのストーカーで、ストーキングでお父さんを射止めた凄腕のストーカーだったの。
「お母さん、その気になったら人の影にだって隠れられるんだから。」
「そうなの!?」
「シッ、ストーキング中に大声は厳禁よ。ほらっ、彼も行っちゃうわ。」
「おっと、いっけなーい♪」
本当に今日は調子狂っちゃう♪
それにしても、キョウヤ君は今日もカッコいい♪はぁはぁ・・・カッコいいよぉ。
「ミオちゃん、ヨダレヨダレ。もう、はしたないわねぇ。」
「もう、はぁはぁタイム邪魔しないでよ。」
「はいはい♪そうねぇ、はぁはぁタイムは大事よね。私もお父さんで一億はぁはぁはしたわ。」
「一億はぁはぁ!?流石はお母さん!!」
「シッーーー、声が大きい。」
お母さんは精神的にお父さんを追い詰めて、洗脳に近い形でお父さんを射止めたらしい。お父さんがたまに遠い目をして、目が死んでいる時があるのは、その時の後遺症らしい。
「それでミヨちゃん、今日は追跡だけなの?手緩いわね。」
「フッフ、舐めてもらっちゃ困りますよ♪今日はキョウヤ君に電話しちゃいます♪」
「あらあら♪成長したわね♪」
「当然よ♪母さんの娘だもん♪」
僕の名前はキョウヤ。勉強が取り柄のガリ勉さ。今日も勉学に励むべく図書館に向かってる。これこそ正しい学生の休日の在り方だと僕は思う。
"ブルッ"
突然の悪寒。最近、背後に視線を感じることがあるんだ。自意識過剰かな?
"ピピピッピピピッ"
突然、ズボンのポケットに入れているスマホが鳴った。誰からだろう?スマホを取出して画面を見ると、画面には非通知と表示されていた。
僕は多少訝しんだが、電話に出てみることにした。
"ピッ"
「も、もしもし。」
「・・・はぁはぁ。」
返事は無いが女の人の息遣いが聞こえる。僕はその息遣いを聞くだけで、冷や汗と鳥肌が止まらない。
「だ、誰なんですか?」
「・・・。」
相手からの返事は一向に無い。誰だ?誰だ?一体誰なんだ?
だが暫くすると相手からこんな恐ろしい声が聞こえてきた。
「ア・イ・シ・テ・ル。」
「ぎゃああああああああああ!!」
僕はスマホを投げ出して、とにかくその場から逃げ出した。怖い、怖い怖い怖い怖い怖い。頭の中が真っ白になる。誰か助けてくれ。
「うーん、少しパンチが弱いわね。」
電話が終わると、いきなりお母さんからの駄目だし。
「何処が駄目だった?間と声色は完璧だったと思うんだけど。」
「そこは確かに良かったけど、もう少しパンチを効かせても良かったかも。例えばゆっくりと大黒摩季さんの『あなただけ見つめてる』を歌うとか。」
「お母さん、古い古い。今の若者は大黒摩季さんもスラムダンクも知らない人多いから。」
「ジェネレーションギャップだわ♪」
さて、立ち話をしてる場合じゃない、彼を追いかけないと。
「ミヨちゃん待ちなさい。このまま彼を追いかけるつもり。」
「あったりまえじゃん。ストーカーなんだから。」
お母さんは突然何を言い出すんだろう?ストーカーはストーキングしてなんぼだと言うのに。
「何も追いかけるだけがストーカーじゃないでしょ。」
「・・・あぁ♪そういうこと♪」
思わずニタリと笑ってしまった。流石はストーカーの先輩だ。勉強になる。
さて、彼の家に着いた。今日は休日だが、彼の両親は共働きで大変忙しく、現在この家が留守なのはリサーチ済み。合鍵は勿論手に入れてるので、早く中に入ろう。
入るなりキッチンを見てお母さんが感嘆の声を上げた。
「まぁ、システムキッチンね。羨ましいわぁ♪」
「お母さん早くどいて、早くハンバーグ作らないと彼が帰って来ちゃう。」
「そうね♪手伝おうか?」
「良いからお母さんは座ってて、私が一人で作らないと意味無いの。」
「はいはい♪じゃあ頑張ってね♪」
こうして私のクッキングが始まった。ハンバーグを作るのは初めてじゃないけど、人様のキッチンで作るとなると色々勝手が違う。
悪戦苦闘しながらも、肉ダネをこねる工程までくると、ここでお母さんが口を出してきた。
「ちょっと何してるの?」
「何って、見たとおり指を噛んで血を出して、その血を肉ダネに混ぜようかと。」
私の血が彼の体の一部になるかと思うとゾクゾクする♪
「あちゃー、若気の至りね。そういうサイコパス的な趣向は、お母さん感心しないわ。」
「えっーー!?どうして!?」
「そういうことするとバッドエンドコースまっしぐらよ。彼と心中コースで決して結ばれることはない。結婚まで視野に入れてるなら狂気は抑え気味にしないと。」
なるほど、目から鱗である。流石はストーキングから結婚までこぎつけた女は言うことが違う。
「分かった♪私普通に作るよ♪」
「うんうん♪聞き分けが良くて宜しい♪」
こうして私は普通に美味しいハンバーグを作り上げた。うんうん会心の出来だ。
「うん、上出来ね。そろそろ彼帰ってくるんじゃない?隠れられそうなクローゼットを隣の部屋に見つけたから一緒に隠れましょう♪」
「わぉ、お母さん準備良い♪」
私とお母さんはクローゼットに隠れて、キョウヤ君が帰ってくるのを待つことにした。
「ねぇ、お母さん。キョウヤ君はハンバーグ食べてくれるかな?」
「うーん、十中八九食べずに捨てられると思うけど、積重ねが大事だから、めげない♪めげない♪」
「うん♪ラジャー♪」
たまにはストーキングにお母さんが付いて来るのも、勉強になって良いかもしれないね♪