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昼下がり  作者: 磯目かずま
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秋晴れ

 昼休み、店主が骨折して三か月休業していたラーメン屋に行った。カウンターに座って、茶色くくすんだにんにくの入れ物とお酢を眺める。壁には油でべっとりとした山岳風景のジグソーパズルが釘で打ち付けてあり、少し大きめの蠅がさっきから飛び回っている。チャーシュー麵を頼む。八百五十円。トッピングは海苔、メンマ、ホウレンソウ、チャーシュー。麺が柔らかい。無難に美味しかった。なぜか汁まで全部飲んだ。帰りに手作りの紙籠に入れられたフルーツのど飴をもらおうと思ったが、もらわずに帰った。

 隣にあるドラッグストアで帰りがけにチョコのお菓子を買う。袋ではハロウィンの格好をしたキャラクターが何やら楽しそうにしていた。住宅街を歩くと幼稚園から楽しそうな声が聞こえる。大変天気も良い。

 ふと目に入った公園に入る。そこにあったぶら下がり健康機にぶら下がってみた。懸垂をしたら背中がつった。しばらく動けなくなり地面に片膝をついた。さすっていたら良くなったので職場に帰る。すれ違いに、先生に引率された園児が列をなして公園に入って行った。

 道端では土いなごがしきりに足を動かしてはシャキシャキシャキと鳴いていた。柿を尾長鳥がついばんでいた。茶色い小カマキリが歩いていて踏みそうになって道端に逃がしてやり、別のやつをもう一度踏みそうになりまた道端に逃がしてやった。

 遠くを見やると、澄んだ空に青い山が見える。塗りなおされてモダンな色味になった給水塔が陽光に映えている。まだ紅葉とはいえない色味の銀杏並木は、ところどころすすけたようになっていて、色づく前に散ってしまいそうである。


 このままどこかへ行ってしまいたい。暖かな陽気はまるで春のようで、訪れる冬を忘れさせる。年末調整や予算編成のことなんて本当はどうでもいい。それでも、そうしていることでしか生きられない。ぼんやりとした気持ち。何かの理解が拒まれる。復習しようにも、それを思い出せない。予習しようにも、未来はわからない。

 靴に穴があいた。そこから赤い靴下がのぞいていた。ネックウォーマーはくたびれて、毛玉ができ糸もほつれていた。二週間洗っていないジャケットが流石に臭くなっていた。ひげは二日に一回しか剃らないし、髪はのびてしまい、もう四か月切っていない。そんな状態でもギリギリ保って通勤している。何なら保てていないけど誰も何も言わないのかもしれない。

 社食の弁当も飽きてしまった。チョコを食べるが、口内炎にしみる。歯医者にも行けてない。仕事をしているようでしていない。コーヒーもいろいろ飲んでみたが、なんだか味気なくてどれでも同じに感じる。スキムミルクを入れてもだまになって気持ち悪い。

なんだか同僚同士で仲が悪い人らがいて、お互い合わずにすれ違って、片方は適応障害だとか何とかで休みがちになってる。上手くやってもらいたいのでたまに話を聞いたりなどする。双方が嫌い合っているときに話を合わせるのに苦心する。互いに何かしら尊重するところを持てれば解決するだろうに、物理的に部屋を分けてもらえるように掛け合うという流れになっている。

 無理して一緒にいることはないし、出勤もうまいこと交互に在宅とかにすればと言っておいたが、その交渉をお互いに上手い事やれるような感じでもなかった。たぶん片方が在宅して、片方が黙っててため込んで、なんであいつばかりとなりかねない。普通に話し合ってほしい。


 皆、もっと気圧のせいとか満月のせいとかにすることを覚えたほうがいい。調べたら昨日今日は気圧最悪×満月だった。そういうときは全世界的に何かがうまくいっていないということが、統計的にも生態学的にも言えるはずなのに、そういうことを人は考慮に入れていない。何なら女性ならそこに生理が重なってだいぶ大変になっているかもしれないし、全然そういうことを考えていない男性も、意味も解らず不調になり攻撃的になっているかもしれない。

 結局人間は空気の圧力に気分を左右される程度の存在なのだと自覚したほうがいい。今日は全然仕事できなかったとか言って自分を責めても、原因は何かと問われて自分が頑張れなかったからとそこで終わったらもっといろいろある要因を見落とすことになる。

 集中できなければ寝れていないかもしれないし、栄養が足りてないかもしれないし、臓器が不調かもしれない。椅子が悪いかもしれないし、寝具が悪いかもしれない。職場でストレスかもしれないし、家庭でストレスかもしれない。原因を考えればきりがないが、考えてパッと出てくる要因らしきものがそんなにあるんだったらその時点で問題なのだと気づくべきである。

 そうした要因を一つ一つ解消していくように心がければ、本来の必要な部分への仕事が良くなるに違いない。必要なものが足りていないのと同様に、いらないものも多すぎることがあるし、それは天秤みたいになっていて人間の容量には限界がある。そもそも、一日七時間くらい寝ないと不調をきたしだすように人間はできているのを人は忘れがちである。油断すると五、六時間くらいしか寝なくなるし、それでなんか調子悪いとか言ってもっと睡眠時間削って頑張らないととか言い出す。

 人間は寝ないだけで調子悪くなるし、ちゃんと寝ていたら一日すでに十七時間くらいしか動けない。そこから食事、家事、風呂もあるし、移動、仕事、休憩とかでどんどん減っていく。たいがい八時間くらい人は働くものだけど、そうしたら残り九時間、家事食事等で二時間は減るとして、さらに移動で二時間くらい見積もると残りは五時間、その五時間で何の仕事をするかということになる。

 でも、たいがいその五時間に休みや娯楽が入ってくるのであって、何か仕事をするにしてもその時間は結構疲れていてしんどいこともある。まあ、一般的な社会人であればこのくらいの時間で生きているし、それで生きられてしまっている。そもそも、自分が会社で八時間いることでどのくらいの価値を生み出していてその対価として生存できるだけのお金をもらっているのかということは、実際にはよくわからない。

 例えば、メール対応とか予算作成とかやっているけれども、それが果たして時間当たり正確にどのくらいの価値があるのか?何となく全体として平均的な日本人が生きていくだけの給料+いくばくかの何かとして対価をもらい、何となく生きているに過ぎない。もっと突き詰めればそういうのの仕組みもわかるのだろうが、そういうのは賢い人に任せるしかない。

 そこからさらに自分の仕事をしようというのだが、それもまたなんだかよくわからない。なにがしかを作って納品したりということなのだが、その価値や価格も相場でやっているが、時給換算だと大変なことになるし、そもそもその相場も何もどういう基準で決まっているのかよくわからない。それを作る人が生存できるだけの対価を考慮して作成しているのだろうか。それとも、その制作物が生み出す価値ベースで考えられているのだろうか。それともそれらの掛け算なのだろうか。ラーメン八百五十円、自分はまだまだ足りない。


 そうこうしているうちに一日は終わる。日が落ちるのが早くなった。残業をしてしまいもう九時になってしまった。電車はさすがに少しすいていた。もうすぐ自宅の最寄り駅というところでふと見ると、一匹のかげろうがドアについていた。それは薄緑色をしていて、片方の触角を舐めている様子だった。それがついているのは両開きのドアのちょうど開くところにあるゴムの上であった。

 しばらくそれを眺めていたが、降車する駅が近づく。開くドアはかげろう側のドアだった。わたしは駅につき、ドアが開き切るギリギリまでそれを目で追った。かげろうはドアに張り付いたまま、戸袋に吸い込まれてしまった。

 電車が通り過ぎていく。雑踏に紛れ、夜の街を歩く。コンビニでハムチーズのトルティーヤをチンしてもらい、食べながら帰る。明日は休日だ。でも、休日出勤だ。まあいいや。

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