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昼下がり  作者: 磯目かずま
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文月には

 特に取り立てて問題もないように思われる日には、文章など本当は書きたくもなく、書く必要もなく、別の仕事をしたいと思っている。

 そんなときに書く文章は特に意味もなく、手を動かすだけの運動であり、外気温36度の中クーラーで快適な室内でコーヒーを片手にしているがゆえにできるだけの余剰である。


 蝉が鳴いている。じりじりと焼けるアスファルトの上ではからからになったダンゴムシがタンブルウィードのように転がっている。水浴びしたいがために粉塵の清掃を引き受け、外でホースで水を撒いている。きらきらと輝く水は、それだけでどうしようもなく郷愁を誘い、塩素の臭いがプールの記憶を呼ぶ。流れ落ちた粉塵は側溝に浮き、いつか見たあぜ道の赤茶色に浮いた錆のようにも思えた。

 じっとりと汗をまとい、熱中症への活動限界を手元の水で緩和しながら作業をする。首に巻いたタオルで汗をぬぐい、それを水でぬれタオルにしてまた首に巻いた。適当なモップをマットにかけていく。トンボをかける野球部のようにそれを動かす。遠くから金属バットの音と歓声が聞こえる。ちょうど地区予選をしている頃だ。脳裏に泥だらけのユニフォーム姿の球児が浮かぶ。長ズボンとソックスが暑そうだが、彼は気にしてはいないようだった。

 自転車に乗ったおばさんがふうふうと言いながら作業場の前を横切っていく。緩やかな坂道を登った先には交差点があり、時折大きなダンプが地面を揺らす。プラタナスの葉が茂っているが、どれもこれもハダニに食われて白くかすんでいる。真っ青な空には積雲がちらほらと浮かび、ケヤキの葉が風に揺れていた。

 粉塵を流し、器具を干して、自販機へ向かう。ポカリスエットを買う。それを空けて一息に半分ほど飲んだ。冷たいポカリがうまい季節に今年もなってしまったことをしみじみと感じる。皆、暑い暑いと口にするが、内心それを喜んでいるようにわたしには思えた。ラジオから熊谷では38度だと聞こえてきた。熱中症で5名が搬送されたとも。別の場所では豪雨で土砂崩れが起きたという。わたしはそれを、ペットボトルに残ったポカリを飲み干しながら聞いていた。休憩所には扇風機が首を振っていて、すだれがそよそよとそよいでいた。窓際のサボテンがいつになく元気に見える。

 このままここで扇風機に当たって日がな一日過ごしたいのはやまやまだが、ひと段落したのでオフィスに戻らねばならない。作業場のほうがオフィスよりも風情がある、特に夏には。キンキンに冷房を利かせたオフィスも嫌いではないが。

 エアーを全身に吹き付けて埃を飛ばして、何となくすっきりして帰る。自分のオフィスは何の変わり映えもなく、変わっていることといえば、今朝コーヒーを盛大にこぼして書類がいくらか茶色くなっているのと、キーボードをひっくり返して干しているくらいである。そもそも朝一でコーヒーをこぼして仕事にならなかったので干すのを兼ねて作業場に行っていたのだった。帰ってきたら書類はすっかり乾いていたし、キーボードもまあ使えるだろうという感じにはなっていた。メールを見てもめぼしいものは来ていない。今日は会議だがそれまでは印刷物を用意したりしてあとはこうして文章を書いたり、何か仕事をしていればいいだけである。

 耳を澄ますとうっすらとサンダーの音が聞こえる。何かを削る音でさえ夏だと爽やかなものに感じる。日差しがくっきりと影を作る室内に、時折迷い込むオニヤンマ。木漏れ日はゆらゆらと瞬き、木材は乾燥して、きしむように鳴っている。なぜか昔に自転車で田舎を乗り回していたときを思い出す。そこにも何かの加工場があって、高い天井の中、何かを削っていた。そこの前の林から坂道になっていて、そこを一気に下って川へ向かう。緑の中を風のように進むと、栗の花のような青臭い匂いがする。水門がある小さな川と用水路が見える。辺りには軽トラが一台停まり、おじさんが一人何かしている。カエルが跳ねる。オタマジャクシが動いている。アメンボもいるし、タニシもいた。

 そんな景色を思い浮かべる。今でもそれは変わっていないだろう。サンダーの音がやんだ。空調のごうごうとした音が聞こえるのみ。風が汗を乾かし、わたしは温いコーヒーを口にする。平均的な夏の職場なのだろうか。そんなことを言ったら激務で大変な方に殴られるとは思う。ここは何にもない。

 わたしの今の楽しみは、昼に食堂で水ようかんが売っているかどうかということ。あとは、うん、特に何にもないね。そろそろ仕事に戻ろう。

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