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昼下がり  作者: 磯目かずま
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ハンパンマン

 半端な男、ハンパンマン。彼はパンではない。顔を分け与えることもできない。ただ語呂がいいだけでアンパンマンをもじって名づけられた。


 彼は半パンでもない。いつも真っ黒なスウェットを履いている。なぜなら肌触りが良くて気持ちいし、適度に人前で着ても違和感がないからだ。


 彼は自分の名前についている「ン」の半端さを気に入っている。彼がハンパマンではなくハンパンマンを名乗っているのは、そちらのほうがより半端だからだ。


 彼はパンよりもご飯が好きだ。それでもパンについては人一倍考えている。なぜなら自分の名前を語るたびに、「ゾウのことを考えないでください」と言われてゾウのことを考えてしまう現象のように、パンのことが頭をよぎるからである。そこで想像されるハンパンというのは、乾パンの亜種みたいな無味乾燥した個性のないパンである。


 彼は自分が半端であるということを噛みしめている。それは、何かに熟達してもいないし、何かの個性があるわけでもないという自覚によって、「普通」であることをちょっと卑下してアイロニカルな気分に浸っているということである。そういうとき彼は、グレーのシャツを着て、群衆に埋もれながら、ありきたりの日常を嗤っている。


 彼はなぜ自分が半端なのかわかっていない。そもそも半端の対義語について決めあぐねている。プロ?一流?職人?それとも歯車とか。半端ということの逆を考えたときに、何かの職や属性においてそうであることを示す言葉ばかりでてくる。そうではないものでいうと、一人前、とかだろうか。彼は半人前なのだろうか。人一人分というには何かが欠けている、その何かを彼はまだ知らない(のちに彼は「半端ない」という最適な対義語を見つけることはできた)。


 彼は半端であるがゆえに欠けた部分がある。しかしそれは、ドーナツの穴のように存在と一体化した空虚であるのかもしれない。なぜなら、彼が完璧になってしまったらハンパンマンではなくなってしまうからだ。だから、彼がハンパンマンとして街を歩くときはいつでも彼は半端なのであり、右に行っても左に行っても、より右とより左のあいだの半端さを享受する中庸野郎なのである。


 彼は実のところ自分が他者のすべてであると思っている。なぜなら他者はすべて半端なものではないかと思うからだ。本当に半端でないものがあるとしたら、それは神か世界のどちらかであろう。彼は神ではないし、「すべて」という言葉に完璧でいられるわけではない。ハンパンマンのすべてには半端な例外があるのだから、神や世界もまたどこかにあるのだろう。

 

 彼はいつでもハンパンマンかハンパンウーマンなのだ、そのあいだの半端な領域はグラデーションで表現すればいいだろう。半端であることがダイバーシティとかいうこととして好意的に解釈されることもある。しかし、彼はそんなことは気にしてもいない。ハンパンマンにとってそんなことはあたりまえすぎて陳腐なことだからだ。

 

 彼は今日も半端な日々を生きている。それはミドルエイジクライシスなどという感傷的な気持ちからそんなことを言っているのでもない。彼はそうであることを受け入れている。もちろん、何かになりたい、何かそれでしかないものでありたいと強く願っている。彼が受け入れているのは、そうでしかないものそれ自体が常に何かとのあいだにあるということなのだ。それを半端だといってしまう皮肉は、彼の処世術の一つであり、哲学的に解決しようとすることへの抵抗として彼自身の位置を確かめることでもある。

 

 彼はヒーローではない。彼はヒーローになりたかった。〇〇マンと名がつくものは押しなべてヒーローなのだから。彼はひょっとすると、ヒーローではない存在を代表するようなヒーローなのかもしれない。しかし、彼はそうして自分を慰みものとすることも望めなかった。悲劇のヒーローを気取るには、彼の心の底をもっと叩いて悲しい音を鳴らす必要があったからだ。彼には底なんてない。なぜなら彼は、底の手前にいる存在だからである。同様にして、彼は天使にもなれなかった。部分的に天使と重なり合うことはできたが、どうしても彼は天使とともにいることはできなかった。


 半端な男、ハンパンマン。彼は正義と悪にも半端で、生と死にも半端で、あれかこれかにも半端だ。半端について教えてくれてありがとう、ハンパンマン。また会う日まで。


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