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昼下がり  作者: 磯目かずま
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ウサギと蝶

 祖母は幼稚園児のころに若くして死んでしまった。脳溢血だった。

 そのときのことをなぜかよく覚えている。


 確か死の二三日前に、わたしがいたずらをしていたら祖母に「こら○○|(父の名前)!」と怒られてぽかんとして、「あら、間違えちゃったわ」と言って、「そんなことしちゃいけませんよ」と言われた。

 その夜にはみんなでそばを作って、わたしはそば粉できのこを作って「そばきのこだね」ということでそれを茹でて食べた。真ん中の方は粉っぽかったけど、みんなで食べたその時のそばがとても美味しかった。


 寒い冬の夜、二月の中旬だった。

 わたしは布団でぐっすりと寝ていた。すると、両親があわただしく起きて電気がつけられたのを感じた。家には救急車がやってきた。

 わたしは部屋で待っててねと言われた。しばらくすると青い顔をした両親が帰ってきて、今から車で病院へ行くと言う。なんでもおばあちゃんが死んじゃうかもしれないらしい。

 わたしは服を着替えさせられ、車の後部座席に座って真夜中の病院へと向かった。

 病院は思いのほか遠かった。こんな遠くにまで運ばれて、本当におばあちゃんは死んじゃうんだなと思った。

 真っ暗な道を白黒のカルディナで走った。辺りを照らすオレンジのヘッドライト以外にはあまり灯火もないような道をずっと走った。

 すると、車に並走して真っ白なウサギが走るのが見えた。

 わたしはウサギがいるよと母に言った。母もそのウサギを見た。

 母はきっとおばあちゃんが早く来てって言っているんだねと言った。

 ウサギはしばらくすると見えなくなった。


 病院に着くと、薄暗い院内を歩き、その一角の緊急病棟に着く。

 そこだけがとても明るい病室に祖母は寝かされていた。

 意識は無く、話をすることもできなかった。

 管がたくさん繋がれていて、ドラマでよく見る心電図が弱弱しく動いていた。

 両親は医者と何か話していた。泣いているように見えた。

 その日、わたしは母と家に帰った。父は病院に残った。


 次の日、おばあちゃんは死んでしまった。

 家に帰ってきたおばあちゃんは白く冷たい顔をしていた。

 わたしは、皆が泣いているのと同じく泣いていた。泣きながらピカチュウのリュックサックを傍らに抱えていたのを覚えている。

 いつも泣かない父も泣いていた。ほとんど初めて父が泣く姿を見た。お袋、母ちゃんと言って泣く父は脳裏に焼き付いて離れない。

 祖父も泣いていたように思う。そのころは、祖父に対して何か特別な感情を抱いてはいなかった。

 父とよく喧嘩をして夕食の席が怒号飛び交う嫌なものになる以外は特に。


 お通夜と葬式にもたくさんの人が来た。

 納棺して火葬場に行く黒塗りの霊柩車も来た。

 火葬場で骨を拾った。

 熱くじりじりとするお盆のような場所に散らばった骨をお箸でつまんで、壺に骨を入れた。

 お墓に壺を入れにも行った。お墓の下ってこうなってるんだ、とそのとき思った。


 しばらくして、よく晴れた昼。皆で昼食を食べているときに、「ただいま」と聞こえた。家族皆がそれを聞いた。それは紛れもなく祖母の声だった。そのとき、季節外れの蝶が家に入ってきた。それはひらひらと食卓の上を数度舞い、音もなく外へ飛んで行った。

 母は、祖母が亡くなる前の日に、「もういらないから」と言ってくれたレシピを取り出して、見せてくれた。


 祖母は何が見えていたのだろう。

 蝶が舞うのを見ると、ふとあの日のことを思い出す。

 それは春の訪れを告げるような、おだやかな、おだやかな昼下がりだった。

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