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昼下がり  作者: 磯目かずま
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都合のよい今日

 こんな夢を見た。

 わたしはある学校(中学校だろうか)の生徒であった。そこでは授業中であるように思われるのだがなぜか生徒が思い思いに過ごしている。

 ある生徒は校庭を歩いていたり、友人と歓談したり、中には廊下で寝そべっている者もいた。

 休み時間かとも思ったのだが、先生の様子から授業中であると察せられた。同時に、何の説明もされていないのに、これが「自由」のための教育の一環だったということを感得した。わたしは納得して、何かしようかと思ったが、自由にしろと言われて自由にするのは癪だし自由ではないように感じられたし、周囲の人間と同じになりたくなかったので、自分の机に座って自習していた。


 すると、教室から窓の外を眺めている数人の生徒が、校庭の木に何か獣がいると叫んでいるのが聞こえた。

 わたしは気になってそれを眺めたが、それは大きなアライグマであった。

 わたしはなぜかアライグマで騒いでいる生徒が気に食わなくなり近寄って行って、

「あれはアライグマだ、そうだ、そうなんだよ。それは当然のことなんだ」

そう言って自分の机に帰った。彼らは唖然としていたが、確かにアライグマだということになり静かになった。


 しばらくして、散らばっていた生徒が教室に戻り、各自席に着いた。教師が教壇に立ち、質問を行うと言った。

 これも、何の説明もないのだが、生徒一人一人にそれぞれ違う質問が出され、それについて回答しなければならないということがわかった。

 わたしは順番でいうと5番目くらいですぐに回ってきてしまうので、自分の回答を考えるので精いっぱいになった。

 質問がまだ出されていないのに、なぜ精いっぱいになるのか、それはわからなかった。

 でも、自分の中にある何か大事なものを煮詰めなければならないと直観的に感じた。

 前の人たちの質問も回答も何も頭に入ってこなかったし、どんな内容だったのかも覚えていない。


 自分の番が回ってきた。

 わたしに対する質問は「都合のよい今日」であった。

 都合の良い今日について何を問うているのか、そもそもそれが問いなのかもわからない何かが提示され、面食らってしまった。

 わたしは考えた。これについて何かを言わなければならない。本当に大事なものを。

 わたしは少しの沈黙のあと、こう言った。


「今日というのはね、ああ、今日は、本当だったらかわいい女の子に囲まれて素敵なことをして過ごしたりとか、そういうことが本当だったらいいのにな、とか、そういう思いの場所であると思うんだよ。でもさ、それはいつだって分割されたものだと思うんだ。だって、世界はそれ自体でそれであるだなんて言えないような代物だからね。なぜなら、世界は言葉によってまず分割されている。今日が存在しているのはそもそも言葉によってであるからね。だってそうだろう、昨日と今日を隔てるものがどこにあるって言うんだ。昨日も今日もない、あるのは地球がぐるぐると回っていて、昼と夜と呼んでいる光の明暗ができて、それに伴って生物が昼か夜に行動するように進化して、それで人間は朝起きて昼に活動して夜に寝るというサイクルで生きるようになっているというだけだからね。それを単位として昨日、今日、明日と呼んでいるのはまさに言葉によってでしかないはずだ、わかるね。本当ならひとつなぎのものを分割して、今日はいい日だったとか、嫌な日だったとか、あっという間に一日終わっちゃったとか、そういうことで一喜一憂するんだ。それはおかしいと思わないかい。だからね、今日というのは基本的に都合のいいものなんだよ、なぜなら今日が存在しているのはある種のユートピアによってであるからだね。今日というものが、今日と呼ばれているあるものがそこに在るとしても、それが今日であるからには分割が必要なんだね。しかもそれは楽園による分割なんだよ。神に捧げる分割なんだ。だから、それは非情なものでもあるんだね。だから、そうなんだよ!だからこそ今日は都合がよくて、それなのにいつだって思い通りにはならないんだ!ああ!」


 こう言ってわたしは席に着いた。

 周りの生徒は、呆気にとられている者もあり、くすくすと笑う者もあり、白い目で見る者もあった。

 わたしは、喋りすぎたということで恥を覚え下を向いて耳を赤くしていた。

 その後、何事もなかったかのように次々に質問がなされていったのであったが、わたしは自分の答えたことを反芻するばかりで、何一つそれらに耳を傾けることはできないのであった。


 そして、今日も、今日という日が始まった。

 目を覚ましたわたしは、よく寝れなかったことを恨みながら、今日という日を、明日のために生きることはしない、明日のために今日があるのではないし、昨日のために今日があったのでもないと、そう思うことで、仮初の分割を持続に変換する虚しさを感じながら、今日を生きている。

 ひとつ気になることといえば、あの獣は本当にアライグマだったのだろうか。それは、わたしには知る由もないことである。

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