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昼下がり  作者: 磯目かずま
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高架下

 高架下には乾いた空間があって、そこに秘密基地を作って遊ぶ、そんな妄想を車の中からいつもしていた。

 なぜならわたしが見る高架下は、移り行く景色の中のものであって、自分がそこを歩き回る場所ではないからだ。そしてたいてい高架下には柵があったり、ブルーシートの先住民がいたりして、中に入るのも一苦労だ。


 わたしはいつだってああいう雨宿りのハトがたむろしていそうなところが大好きだ。工事の道具が詰まれていたり、中途半端に開発されていたり、うち棄てられたものが転がっているような場所が。

 名前のわからないものが好きだ。それでも人が意味をもって作ったようなものが。そしてそれが意味もなく転がっているところが。

 アスファルトと空き地の境目とか、のび太たちがたむろしていそうな土管とか、よくわからないイネ科の植物と引っ付き虫とか、そういうのが住んでいる場所。


 でも、そんな場所で遊んでいたら、いつの間にか自分も先住民の一種になってしまって、結局名前のわからないものの一つになってしまった。自分はそういう半端な付喪神になって、日光に照らされて風にさらされて、鉱物に還ることだけが救いみたいになって、秘密基地だなんてわくわくする気持ちにはもう帰れないんだなって、高架下を見てそう思う。

 ガラクタに同情することで光と空間を描写してきた自分は、それしかないのにかっこつけてガラクタなんて眼中にないと、専ら幾何学に邁進しているふりをしていた。線を重ねて作り上げるハッチングの包絡線は直線の集合でしかないのにひねくれて出来事を明後日の方向へと投げ返していく。


 今はもうない湿地にはアメリカザリガニがたくさん住んでいて、スルメイカで釣りをして遊んだ。そこのザリガニにはサルモネラ菌がいるから駄目だよと言われて、なんだか恐ろしいように思えたけど、ザリガニ釣りは楽しかった。今はその場所にパーキングエリアと判で押したような住宅街が出来ている。

 高速道路の下をくぐる薄暗いトンネルで壁当てをして遊んだ。一人で壁にボールの跡をつけていく。ところどころスプレーでよくわからない落書きがしてあって、くだらなくて寂しくてなんだか落ち着いた。今ではその壁は近所の小学生が描いた楽し気な壁画で埋め尽くされていて、さすがにその上に落書きも壁当てもできなくなってしまった。

 

 息苦しい?そんなありきたりな感想を言うなよ。これはきっと、埋め立て地を作るときに埋め立てられた大量の生き物たちの怨念が聞こえているだけなんだよ。彼らは地震になったらここぞとばかりに世界を液状化させて、海に還りたい海に帰りたいと嘆いているんだ。わたしたちだって一緒さ。知っているかい、ミトコンドリアは海にいる微生物と同じで、だから体内はいつだって海に近い組成になっているらしいよ。わたしたちは陸にいるのに海を飼わなければ生きていけないんだよ。可笑しいね。


 祖父母の家から帰るときには、車の中から見えなくなるまで二人に手を振る。湿った住宅街に住む彼らの家を車は離れて、高速道路をわたしたちは進んでいく。埋め立て地もアメリカザリガニもすべてがオレンジ色の光の中で高速に過ぎ去っていく。錆びた気分が人工的な道と車の臭いと、120キロの心地よい揺れと共にわたしを運んでいく。

 さよなら、さよなら。わたしは見えなくなってもまだ、遠いところにある海に心の中で手を振って、いつものガラクタの山に還っていくのであった。

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