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昼下がり  作者: 磯目かずま
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躁従しようそうしよう

 気持ちを縛る鎖を一つ断ち切って、食べ過ぎて風呂で立ち眩みをして吐くくらいに美味しくご飯を食べて、いい気分で鼻歌交じりに地下室人を気取ってみる。

 とってもいい気分だ。このまま明日が来なければいいのに。わたしはコーヒーに大さじ山盛りのココアを三杯入れて、さらにスキムミルクも二杯入れて、お湯でぐるぐるとかき混ぜて、どろどろのそれを一気にすする。

 誰も気にしないでだらけた格好でくだらない文章をたかたかと打ち込んで、口の中にはひいふうみの口内炎。思い出になりそうな関係性もなんだか罪悪感のひとかけらと引き換えに捨てることができると知ったわたしは、喪失感を埋めるかのように茶色い澱みをもう一口すする。

 誰彼構わず文句を言うのも疲れたから、わたしは専ら彼らをほめて感謝を述べる。今日もご参加いただきありがとうございました。有難うございました。アリガトウゴザイマシタ。あなたの言うことなんていつも同じ味付けのちくわぶみたいなものだし、もっと言うと繰り返し保存してぼやけてしまったJPGみたいなものだ。

 毎日毎日、足りないものを考えては足りないのにそれを埋めるまでの距離を走り切れない。すぐに立ち眩みをして、わたしは美味しいものをどこかへとやってしまう。ハンバーガーを煩悩の数だけ買って、店員さんに怪訝な顔をされて、気が狂わんばかりにむさぼっては戻してを繰り返すのも今では誰にも言わない武勇伝になって、10年前の鯖缶を見つけて食べたときには意外といけるってことに感心して、今では毎日白米食べて近所のパン屋に朝ごパンをできる身分になった。

 わたしの一日が閑居して不全をなすかのように、地方に飛ばされた役人が嘆くかのように美しく花木を愛でられればと思いながら、言葉は今日も流れるようにかすんでいって、楽し気な思い出は瞬時に後悔へと変貌していく。美しさなんて、美だなんて、いつの間にか胡散臭い水商売のねずみ講みたいな気持ちの中にしか存在しないのだから、切なさはいつも限界突破して凸しないといけないくらいにガチャを回すしか能がないジャンクヘッド。

 窓の外には丸坊主になった百日紅と棕櫚があって、それらがしばらくの間、トルソーでいてくれる間だけは西日にあたって赤黄色の気持ちを味わうことができる。わたしの気持ちはきったないのこぎりで引いてあって断面を小刀で切り戻したり癒合剤を塗ったりもしていないから、傷が全然巻かなくて、不格好な目玉みたいな傷跡で全然品評会に出せやしない。

 ホトトギスがどんどん上手くなるのをまた聴く季節になってしまいそうだ。体が動くうちに動いておかねばならないのに、今日もすぐに横になってはうなされて夜中に叫ぶ毎日。あまりにも叫びすぎてそろそろ施設にでも送られてしまいそう。躁だね、今日も元気だね。

 これはフィクションです、実在する人物や名称とは何の関係もありまセン。そりゃ躁だね、こんなことがあっていいわけがないね。彼のフィクションはリアリズムの皮をかぶった似非フィクションだから、語るに落ちるとはこのことだね。彼は世界を作ることで自分を作ることで、誰かのきったない原型の中にずんずん沈んでいくことで世界平和のるつぼとして共通感覚を培養しているんだね、神のシャーレの上で。真っ黒なモナドの襞の表面で。

 いつか見たロブスターの裏側が、すべてのオオカミと根茎の歩き回る物語としてわたしの心をとらえて離さないから、いつも心に沸き起こってくるけれどもそんなものは捨て去りたいし、どこでもないところから世界を眺めたいし、欺瞞に満ちた生成変容に身を捧げて毎日を新しくしたい。でもでもそんなことは全然できないんだね、自分は自分なんだね、今日も明日も明後日も。

 嘘くさいビオス、偶然性、生物学の法則が作り出した都合の良い複雑性。わたしを規定しているわたしでないわたし。ユルサナイ、そんなのってないよね。そんなクソリプをドーキンスに送った女子学生は今頃元気にしているだろうか。わたしはなんだかんだ言って盲目の時計職人に憧れるんだね。だって彼らは最大限の優しさでわたしを肯定してくれるんだよ。だって全部偶然だからね。でもそれに耐えられないから苦しいんだね。なんでそれを受け入れられないんだろうね。神とか信じないといけないくらいに、人は。

 健康第一!家内安全!諸行無常!なんだって正月に厄払いしたのに百鬼夜行と夜な夜な踊り明かさなければいけないんだ。地べたをはいつくばってみたらすぐにわかるんだよ、そこには八百万の化け物がうごめいていて、彼らのおかげで世界は循環しているってこと。でもわたしはそういうにちゃにちゃした世界じゃなくて、夜間飛行の雲の上をセスナで飛ぶみたいにキラキラと光る星々と雲に囲まれて生きていたい。それがいつしか墜落する兆候だったとしても。わたしは今日も空を眺めて、オリオン座と北極星しか観測できなくて、意外と星が見えるなんて歌った歌に嘘じゃんて嘆くんだ、歌にもならない声で。

 正しさにまみれていられるときは健康の証だね。それが詭弁でも十分だね。神話の世界にも似た絶対的な本当だったらそれはなおよいね。神に伝達するような言葉で自分をそこに書けたらそれは楽園だね。自分でなくてもモノならいいんだよ。それを伝えられたらいいんだからね。でも無理だよね無理無理ムリカタツムリ。

 触発されてしまう。触発されてしまう~。それが他社、あ間違えた他者だった、競合他者。そいつらの顔を見るたび羨望と称賛と憎悪にまみれて今日もわたしはそれらにいいね!を送る。だってそうしないと躁縦桿を握れないからね。いつ墜落するかもわからない星屑のセスナに乗るためのね。

 今日も語りすぎてしまったね。そろそろ黙ろうね。そうしないと闇に飲まれて還ってくるのがたいへんだからね。わたしはよく知ってるんだ。そう言ってわたしはコップに残った茶色の残滓をグイっと飲み干して、今日にサヨナラするんだね。

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