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昼下がり  作者: 磯目かずま
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白紙の文章

 いつも書き始めはそうだ。

 Wordは親切にも何も書いていない状態からそれを文章だと教えてくれている。

 「・」をそこに打てば、それは黒い点であり、中黒であり、そこから何かの項目が始まったりする。あるいは単なる点として何らかの構図上の意図があるのかもしれない。

 そのような力関係を重ねていくことで網の目のように出来上がっていくのが文章だとすると、白紙の文章とは何なのか。

 普通に考えれば、それは白紙の文章ではなく単に白紙である。それが白紙の文章であるのは、すでにWordによって白紙であるうちからテキストデータとしての性格が与えられているからである。それは文章以外のものになれない白紙だから白紙の文章なのである。


 白紙の文章ではなく、文章の白紙ではどうだろうか。

 その場合は、文章である何某かにおける白紙という意味合いがあるに違いない。

 以前小説のうちに白紙のページが「間」として含まれている作品を読んだことがある。

 その作品は「隔たり」をテーマとしたもので、その白紙は単に白いだけではなく距離の感覚を表現するものであった。

 そして、文章の白紙というものは得てして、その期間文章は紡がれなかった、紡ぐことができなかった、という不在の表象でもある。

 もしある文豪の残した原稿や日記に空白があったなら、その期間に何があったのか知りたくなるのも人情であろう。

 そこに何かがないということは、かえってそこに何かがあったということを暗示するものでもあるのだ。


 白紙というのは単に白かったり紙であったりするものでもない。

 紙はそもそも白いものだなどと言うのは現代に慣れすぎた発想であるし、ここでいう白さや紙はそれぞれ内容と形式という概念を指示しているにすぎない。

 物事が白紙になったという経験をした人は少なからずいるだろう。この感覚は、経験がまるでタブラ・ラサの状態に書き込まれるようなものだということ、それが拭い去られたように感じられるという喪失感を表現したものである。

 その意味では白紙とは人間のことであり、心身の両方が「白紙の人間」として先にフォーマット化されているものである。


 白さというのは逆にすべてを表すというような解釈もある。

 これは、間が幽玄さを表したり、何も書き込まれていないということが無限の可能性を示しているというような解釈でもある。

 さらに、光の三原色を足したら白になるということも、常識であってもにわかには信じがたいことである。プリズムによって白色光から虹色を見出した時の驚きは筆舌に尽くしがたいものがあるだろう。

 また、白は黒との対比で二項対立の根幹をなす要素でもある。

 そしてたいてい、白は正しく、場合によっては神を表象しさえする。


 白は都合よくすべての色に染まり、すべての色を足すと再び白に帰ってくる。

 白に始まり、白に終わる。

 天国と地獄。神と悪魔。昼と夜。光と影。

 回帰する世界の理は、白を基盤として考えられている。

 しかし、実のところ白は希少な存在であり、もっと基本的な単位は黒なのではないか。

 なぜならば、白は光のあるところにしか存在せず、それを基本的な単位だと考えうるのは、地球に住まう人間であるわたしたちだからであって、宇宙に目を向ければ光なんて黒の中に漂う星屑でしかないのだから。

 いうなれば世界は黒紙の上に白で絵を描くようにできているのであって、その書かれた絵の中に白紙の文章や白紙の人間がいるだけなのだ。そもそも白で描かれている世界なのだから、白がすべてであるという構造は当然なのである。

 その際地としての黒はもはや忘れられて、黒といえば白の上に踊る文字や白からの距離として知られるものとなる。

 白がすべてでありすべてでなく存在できるということは、黒によって成り立っているのである。それはメタファーとしてというよりも、本当にそうなっているのだ。


 だから今日も、白紙の文章は黒に染まっていく。

 今この瞬間も。これからもずっと。

 それはきっと、地としての黒への回帰が、白のうちにあらかじめ含まれているからだと、わたしはそう思う。


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