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昼下がり  作者: 磯目かずま
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腐乱主体

 自分はよく腐る人間で、擦れていて、厭世的で、皮肉っぽい。

 そういう人間とは距離をとるべきだし、距離ができても何にも気に病むことはない。そういう人たちとは「生きる階層」が異なってしまったと思いましょう。

 そのように有名な方が言っていた。


 きっとこのような人間が放っている腐臭を人は敏感に感じ取ることができる。

 今まで自分が気づかぬうちに多くの人間をそのようにして遠ざけてきたことを、わたしは忘れている。

 人と付き合うことなんてもう久しくしていない。わたしの物語に登場するのは妻か同僚か家族か、道行く名も知らぬ人々だけだ。

 劇的な展開を求めるにはあまりにも過疎である自分の関係性。

 わたしは、今日も誰かを遠ざけ、誰かに遠ざけられている。


 エラーをしたら挽回すればいい。昔そう言われた。

 でも、挽回が追い付かないくらいエラーをしてしまう人はどうすればいいの?

 わたしは挽回するよりもエラーをしないようにすることに明け暮れた。

 そうしていたら、いつしかエラーの数は減ったが、それでも人並み以上にエラーはするままだったので、結局よいところがないただの使えない人間になってしまった。


 そういうとき、自分がそんなにダメな人間だったとしても、周りにしみったれた空気を流さないような明るい人間だったらなんて素晴らしいだろう、そんな漫画の登場人物みたいになれたらどんなにか楽だろうと、思った。

 そういう明るさをもった人間が、本当は我慢して道化を演じているというありきたりの状況にも嫌気がさすが、そういう道化を演じることすらできない自分にはもっと嫌気がさす。


 努力したってなんの意味もないよ、生得的な問題だよ、人生ガチャだよ。

 そんなことないよ、努力は実を結ぶよ、結ばなくても何か意味があるんだよ、人生は変えられるんだよ。

 そういう黒い奴と白い奴が心の中でうざったい問答を繰り返しているのを面倒くさそうに眺めている灰色の自分。

 そんなのどっちだっていいよ、わたしには関係ないし、もうどうだっていいから。


 世界史の授業は何となく好きだったが、それもエジプトからローマあたりまでであり、それ以降はめんどくさくなって全然内容を憶えていない。

 要するに、教科書の最初の方ばっかり読み直すものだからそこだけしか憶えていないのだ。

 それでも、一応受験で使ったわけだから、通史でわかるといえばわかる。

 わたしが世界史を学んで確信を得たのはただこのことだけである。

 すなわち「人間は侵略する生き物だ」ということだ。


 イギリスが英国紳士面をして紅茶をすすっている陰で苦しんだ多くの属国のことを想起すれば世界の構図はつかんだも同然である。

 そういう過去をもった国々が今は、西洋的なあり方というものを積極的に見直そうということをしきりに訴えたりしている。

 そういうときにいつだって参照されるのは漠然とした東洋であり、自然と人間が対立しないで共存しているという混淆性と耳障りの良いカオスなのである。

 

 わたしとあなたが混じりあった場所では、わたしというものはもうすでにあなたであり、その区別に特別な意味はなくなる。

 そういう世界であれば、わたしがあなたを害するなんてことはないでしょう?そして、すべては分かち合えるのだ。

 そういう風に言いたいのかそうでないのかわからないが、この構図をあらゆる二項対立に適用して境界を曖昧にしたがる手合いはいつだって一定数いる。

 でも、それでも力の差というものがあるのだから、一体となった世界においても濃度によって意味が偏って存在するということになるのは当然だし、区別がなくなったところにいるわたしたちは結局、都合よくわたしたち自身を腐らせてずぶずぶに混じりあわせているだけなのではないかと、わたしはそう思う。


 わたしが世界史から学んだことは、そんなことだ。

 そして、自分の人間関係からも、だいたい同じようなことを学んだと思う。

 世界が異なっていくことと混じりあっていくことは、一見して違うことのように思える。

 でも、世界を異なるものとできるという考え方とその影としての腐った世界は、いつだって分かちがたく絡み合っているものなのだ。

 

 わたしは、そういうぬかるみの上を歩いている。

 上というのは正しくないのかもしれない。わたしは全身あるぬかるみの中で進んでいて、単にぬかるみからぬかるみへと流されているだけなのかもしれない。

 べたべたで息苦しいそういう世界は、そこから逃れたければやっぱり転生するしかないのかもしれない。転生した先で別のぬかるみがあるだけかもしれないということは考えないで。


 なんでこんなことを考えていたのだろう?

 きっと、餅をのどに詰まらせたとかいう哀しいニュースが面白可笑しく消費される季節であることを憂いた自分の偽善的な心が、腐って酒を飲んでいるわたしに息苦しさをプレゼントしてくれやがったからだ。

 そう思ってわたしは、年末なのをいいことに今日も昼間から酒を飲むのである。

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