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昼下がり  作者: 磯目かずま
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ぶつけた小指

 自室の敷居に足を引っかけてドア枠に右足の小指を打ち付けてしまった。バランスを崩し右ひじを本棚の角にぶつけて擦りむいた。そのまま情けなく地べたに転がりうずくまり、痛い痛いとうめいた。


 なんだって小指をこんなにしたたかに打ちつけてしまうのだろうか。注意力が散漫だったのだろうか。いらないサブスクを風呂に入る前に解約しようと息巻いて部屋に入ったのがよくなかったのだろうか。そして、だいぶ痛むので骨折していやしないかと心配になり、「小指ぶつけた 骨折」などと検索をかけて本当に骨折している人のブログなどを見て、自分は大丈夫かどうかを当て推量して、結局よくわからないからとりあえず二三日様子をみてだめなら病院行こうということにした。


 風呂に入浴剤をいれて体を温めようと思い、入浴剤の袋を見たら打ち身に薬効があると記載されていて何となく元気になってくる。足が痛くて歩くのも辛く、靴下の締め付けもなんだか体に悪いような気がしてくる。寝るときは寝返りをうてば痛く、ついでに変な格好で寝て筋肉もこわばり寝違えをして首も痛くなった。

 通勤電車で立っているのがつらく、いつもよりもギラギラとした目で席が空くのを待つ。なんだか神経と一緒に精神まで摩耗しているのか、座ったら大変に眠くなり、二駅も寝過ごしてしまった。

 職場では動くのがめんどくさくていっつもちんたらしているが、今日は余計に緩慢になり、きついので移動することはあきらめた。一日デスクワークという名のネットサーフィンをして帰路に就いた。


 家に着いて、そういえば昨日サブスクを解約していなかったなと思い部屋に入ろうとして、敷居をやたらに警戒してそろそろと歩いていく。椅子についたら急に疲れてサブスクのことを鳥のごとく忘れてしまい、Youtubeをつけて適当な音楽を流し始める。足がいつもよりもなぜだかひんやりしているような気がする。動かすのが怖いからだろうか。また、打ち身に薬効があるという入浴剤を入れて温まろう。そうしてそろそろと風呂を汲みに行く。


 怪我や病気をしていつも思うことは、「失われて初めて気づく大切さ」のことである。それらは普段忍者のように隠れて仕事をしているので、活躍に思いをはせることもない。壊れたり失われたりしたときにしか顧みられないようなものに重要なものが多すぎるのかもしれない。最近体にガタが出てきてよくそんなことを思うようになった。そういえばしばらく祖父母にも会えていない。早く会いに行かないともう会えないかもしれない。ふと温かい風呂の中で寒気がした。


 風呂上がりにSNSで「小指 ぶつけた」などと検索していると、「何度もぶつけるたびによく小指って粉砕しないなと感心する」との言葉をみつけた。自分の小指を触ってみて、なんだか痛みが引いてきた気がして、これは骨折してないな、と謎の確信を得たわたしは急に小指のことが気にならなくなり、自分の作業を始めた。


 今、ぶつけてから五日くらいたったが、この文章を書き始めて、少しだけ小指がまた痛み出した気がする。きっと骨折はしてないと、そう信じている。サブスクは今日こそ帰ったら解約しよう。


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