表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昼下がり  作者: 磯目かずま
2
27/68

ゲームは一日一時間

 またやってしまった。

 わたしはいつも妻が買ってきたゲームを先に勝手に進めてクリアしてしまって妻と険悪になる。

 自分ではゲームなんて買わないし、なかったらやらなくても全然生きていけてしまうのに、あったらあっただけやってしまうからよくないのだ。

 

 もっともよくないのは妻のセーブデータを勝手にクリアしてしまうという悪魔の所業である。

 ちょっとならやってもいいよとか、レベル上げくらいならとかいう甘い言葉をもらったが最後、裏ボス倒してやりこみ要素までコンプして、種集めだの最速ターン撃破とかそんなことまでやりだす始末である(一応、免罪符としてセーブデータを分けておいている)。

 これは今まで何回かやったことがあるのでよくわかるのだが、ちょっと進んだくらいのゲーム序盤から中盤あたりから始めるゲームほど楽しいものはない。

 序盤のストーリーがよくわかんないのは難点だが、面倒なチュートリアルとかもなく、そこそこゲーム中の自由度を得て歩き回れるようになったときに街をめぐって盗みを働いたりサブストーリーをやったり、進行度に不釣り合いなくらいにレベル上げをするのはたまらない。

 無駄にカジノをしたり、宝箱を回収したり、熟練度上げをしたり、トロコン要素をちまちまやるのもたまらない。

 そんなことをしているうちに、こらえきれなくなってメインストーリーを進めてしまい、強くなりすぎた主人公たちはボスを軽々と倒して気づけば裏ダンにいるのである。


 勝手に進めないで、良識をもって自分アカウントのセーブデータで進めるという場合もある。

 しかし、この場合でも、ゲーム機を占領してぶっ通しで休日ゲーム漬けにするくらいは日常茶飯事のわたしは、妻のことそっちのけで熱中してしまうので、結局険悪になる。

 現実逃避でやるゲームほど甘美なものはない。

 わたしは食事もそこそこに朝から晩までモニタの前で毛布にくるまってカチャカチャとボタンを狂ったように押している。

 一つのゲームを普通にクリアするには飽き足らず150時間くらい平均でやりこんでしまう廃人のわたしのせいで、コントローラが馬鹿になってすぐに上下に勝手に動くようになってしまう。

 そんなこともお構いなしに目を血走らせながら朝の9時から夜中の3時くらいまでピコピコとゲームをしているような人間がそばにいる妻の心労は計り知れない。しかもたいてい休日だし、なんならわたしが有給使って平日にそれをしていて、仕事から帰ってきたらパジャマでひげ面のわたしが一心不乱にゲームをしている姿を想像していただきたい。

 しかも、わたしがゲームをしていたら当然妻はゲームをできないのである。うちには二つ目のモニタもゲーム機もないからだ。

 もう一つ買えよ、というのが正しいツッコミだが、わたしは自分でゲームを買わないのに妻が買ったゲームをやってしまうというしょうもない人間なので、わざわざもう一台ゲーム機を買うのに及び腰なのである(さすがにダメにしたコントローラは買った)。


 そうこうしていると、妻の堪忍袋の緒が切れて喧嘩になるのは当然のことだ。

 ゲームのやり始めは、いかにも楽しそうにしているわたしを見て、普段の憂鬱を発散できてよかったね、という優しい心でわたしを見られた妻も、度を越してゲーム廃人にわたしがなるころにはイライラを隠し切れなくなってくる。

 わたしはそういう空気を感じ取れないくらいにゲームをしているし、頭もぼーっとして馬鹿になってきているから、超えてはいけないラインを超えてなおピコピコしてしまい、後で後悔してこんな文章を書いて懺悔の気持ちを表明しているのである。

 

 昔、ゲームボーイで同じように狂ったようにピコピコしていたころ、同様にして怒った母に「ゲームは一日一時間」という縛りを与えられたことが懐かしいが、同じ事態に陥った人も多いだろう。

 一時間では全然ゲームした気にならないよと大変に不満で、結局夜中布団にもぐって家族が寝た後にピコピコしてばれて怒られたり、勉強しながらノートの下に隠してピコピコしてこれもまた怒られたりしたのも、それなりの人間がやったことがあると思う。

 今の自分はそんな縛りもなくやりたければ24時間ゲームしたってかまわないし、何なら休みとって48時間やったってかまわない。

 ソシャゲやってる時間も一日平均2時間は超えてると思うし、本当に人生の十分の一くらいはゲームに占められているのではないかと思うくらいである。


 わたしはそんなゲームに踊らされているのは重々承知なのだが、その分助けられているというのも本当なのだと思っている。

 なぜなら、ゲームをして人生を浪費しているその時間は、自分はとても救われた気分になるからだ。

 もちろん、ゲームをしていた時間をすべて「有意義な時間」として使ったら、今自分はもっと違った人生を歩めていたであろうということで頭を悩ますことも度々あるし、そういうときはゲームを憎いとさえ思う。

 しかし、それはゲームが悪いというよりも、それをやってしまうわたしの問題でありゲームは悪くない。そして、ゲームに熱中してしまうくらいには自分の人生はなんだか味気ないものだったり、逃げ出したいようなものだったりするので、それらに向き合いたくないときに居場所をくれたゲームは感謝こそすれ、憎むものではないのである。


 そんな思いを多かれ少なかれ人々が共有しているから、異世界転生してゲームみたいな世界に行くのは一つのカタルシスなのだ。

 そう思いたくなるほどに、今の世界はゲームによって世界観を拡張されているということなのだと思う。

 「一日一時間」を守ってゲームできている人がどれだけいるだろう。全然やらない人は全然やらないのかもしれないし、ログボだけもらってるような人は一時間でもいけるかもしれない。でも、そうではない人がゲームに囚われている時間、道行く人がスマホを片手にイベントを周回して、電車でレイドバトルをしている時間。配信者が仕事のようにゲームをしている時間。友達の家にいって遊ぶことといえばゲームだよねという世界になってから友達とやったゲームの時間、そういう時間は絶対「一日一時間」で収まってないと思う。

 そういう世界の割合がゲームに置き換わっている時間を集めたら、もうたいそうな別の世界が出来上がっているのは間違いなくて、それはすごいことだと思うし、やっぱり少し怖い。


 わたしは、さっきまでゲームやりすぎの件について妻と喧嘩して反省して、仲直りに近所のパン屋さんに行ってお茶をして、でっかいシュトーレンを買ってクリスマスを迎えようというイベントをこなしたあとで、自分の部屋でこの文章を書いている。

 自分の人生はいつだってメインイベントなのに、しがないサブイベントみたいなもので構成されているなあと思って笑えてくる。

 でも、そんなサブイベントをこなすことも嫌いじゃないんだよなあ。そう思ってわたしは、明日の夜に食べるチキンと、いい感じのお酒を買うお使いクエストについて思いを巡らしているのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ