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昼下がり  作者: 磯目かずま
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やらかし人間

 不用意なことをしでかすのは昔からだ。毎年一回は何かをやらかさないと気が済まないかのようだし、多ければ月に一回は何かをやらかす。

 わたしは勤務時間に書いているこの文章が示しているように大変怠慢な人間であり、仕事に興味がない。お金をもらっているのだからその分働けということはもっともだが、やるべきことはやっているし、そもそもやるべきことはそんなにない(と勝手に思っている)。

 しかし、仕事への興味のなさが仕事の価値や仕事について回る微妙なニュアンス等を見誤ることにつながり、まるでナビを失った運送屋のように適当なルート取りで適当な梱包で適当に置き配してしまうようなことを平気でやってしまう。

 さっさと仕事を片付けてしまおうという気持ちもこのことに拍車をかけている。メールの返事は瞬時に返してしまい早計な判断で後々面倒になり、他人の仕事に横やりを入れてしまいひんしゅくを買い、不在時に仕事を入れてしまい同僚に対応してもらうことになったりする。

 仕事が早いのはよいかもしれないが、検討する、持ち帰る、ということができない。デキる人からすれば「ネガティブ・ケイパビリティ」が出来ていないということなのだろうか。

 仕事に興味がないのはまだいいとしても、他人に迷惑をかけるのは大変いただけない。勝手な判断で何度上司や同僚に叱責されたかわからない。まあ、全部自分が悪いし、責任をとってもらっているので申し訳ない気持ちしかないが。


 そんなダメ人間のわたしでもたまには挽回したいというような気持になって、張り切って仕事をしようとすることもある。すると、ここでたいていまた何かをやらかす。

 無能な働き者ほど厄介なことはないとよくいうが、わたしは張り切れば張り切るほど空回りをして、余計なことや面倒ごとを散々引き起こして挽回どころか恥の上塗りを繰り返すことになる。

 例えば、ほかの人が取ってきた案件をよかれと思って話を勝手に進めてしまったり、気を利かせて共有アドレスの返信してなかったメールを返信したら、返信タブーの相手で話がこじれたり、書類を整理したら大事な書類をシュレッダーにかけたり、等々である。

 そして、たいていこれらも早計で勝手な判断がそうさせていることが多い。根本的なところで仕事を舐めているわたしは、大事なものとそうでないものの区別がつかないので、仕事を進めておけば何やってたってやったことになるでしょ、という最悪な判断力の持ち主であり、そういう自覚もある。

 

 こんな人間がなぜ職についていられるのかというと、運としか言いようがない。そもそも適当に就活の流れで応募して、選考の時に紛糾してて、先輩がこの人知合いですと言った鶴の一声でこの人でいいや、ということで採用されたのだとその先輩から聞かされている。

 わたしは、その採用の状況からして適当だなと思って自分の評価とかどうでもよくなっているし、入社してしばらくかなり邪険に扱われたこともあってこの会社でどうこうしようという気力はなくなった。

 自分なんて本当に必要とされていないし、迷惑かけない程度に仕事こなしてれば何の問題もない。ここまで自分のやらかし人間っぷりを描写してきたが、これでもたぶん盛っているから実際には世間一般の冴えない会社員の偏差値55くらいのやらかし度だと思う(自分に甘く見積もっての話だ)。

 むしろ、前任者の奔放っぷりを散々聞かされている身からすると、無能なだけで積極的な攻撃性を有していないという点でだいぶ職場に貢献しているといえる(ハードルが地面にくっついているくらいなものだ)。

 

 職場でこんな文章をしたためている人間ならば、仕事はクールにこなして暇だから精神保養も兼ねて書いている、というのならまだなんかかっこいいかもしれない。やらかし人間がいかに文学かぶれの文章を書いたところで滑稽で醜悪なだけだと思う。

 そうして恥の上塗りを重ねて重ねて、ピカピカになるまで恥を塗ることができればたぶんきれいな漆塗りの真っ黒な何か、くらいにはなるのではないかという思いでわたしは今日もこんな文章を書いている。

 今日に関しては、在宅勤務をこっそりしていた先輩のことを、今日はいない日ですよ、と上司にうっかり伝えてしまったことで先輩に怒られた、ということへの懺悔も込めてここに記しておく。

 職場でこっそり在宅勤務をするのは皆でそうしていることであり、わたしがうっかり上の人に伝えてしまえばそのシステムが壊れてしまうから先輩はわたしに注意したのだ。その機微に気づけないような人間だから、わたしは足りない人間なんだろうな。


 今日はいつもの憂鬱とは違って、単純に落ち込んで帰路に就いた。わたしは、いつもの憂鬱の三割くらいは愉悦だったんだなと改めて思った。

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