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昼下がり  作者: 磯目かずま
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心に蓋

 好きなものを好きといえること。このことは本当に難しいと思う。


 心に蓋をして隠し事で塗り固めて、隠したことを忘れてしまうことで、好きだったものも忘れる。


 好きなものを好きと言えないと人は無気力になる。よいものをよいといえないと人は何もできなくなる。


 自分がやってきたことを否定するのは簡単だ。だが、自分の苦しい時を支えてくれた大切なものを、後から嫌な思い出として捨ててしまうのはよそう。


 人に言えないようなことでも、後ろめたいことでも、それを否定してしまったときに、自分が自分でなくなるようなものを土に埋めてしまっていいわけがない。


 でも、たいていはそういう大事なものは知らぬ間に埋められ、忘れられている。それを思い出すことも、掘り返すことも巧妙に避けられるように心は自分に蓋をする。


 それは、大事すぎて怖いからかもしれない。手元に置いておいたら直接触ってほしくないものに触られてしまうかもしれないと、ふとした瞬間に壊してしまうかもしれないと、そう思うからかもしれない。


 それとも、すでに誰かに土足で踏み荒らされたり、見られたことで何か大切なものが失われるようなものをまじまじと見られたりした経験が、心の蓋をより分厚いものにしているのかもしれない。


 誰だって心に秘密を持っているのだろう。それはやましいことではなく、謎としてあるべきだと思う。


 蓋をめくって中をのぞかれたら、大切なものが失われてしまう。たぶんそこで失われるのは自由という名前で呼ばれている何かなんだと思う。


 それを凌辱されてしまったとき、人はもう二度とそれを見たくもなくなるし、見せたくもなくなってしまう。


 そんな経験をした人は本当に哀しいし、そうではなく大事に自分の中で育ててこられた人は本当に幸せだ。


 わたしはそれをどこにやったか忘れてしまった。蓋の上から漆喰で塗り固めて、どこかの深いところに埋めてしまった。


 わたしは掘り起こしたい、でも掘り起こそうと頑張って頑張っても結局見つからなかったという結末でも、それはそれでいいのかもしれないと、そう思っている。

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