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昼下がり  作者: 磯目かずま
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悪夢の優しさ

 気持ちのいい夢を見ると、目を覚ましたくなくなる。もうずっと夢の中にいたいと、布団の中にいたいと、全身全霊がそう叫んでいる。


 悪夢を見ると、目が覚めてしまう。夢ならば早く覚めてくれ、痛くて怖くて声も出せない。そうしていると、脂汗をかきながらいつの間にか目が覚めている。


 気持ちのいい夢を見て現実に帰ると、現実がひどく憂鬱なものになる。会社に行きたくない、起きたくない。


 悪夢を見て現実に帰ると、現実がましなものに思えてくる。会社でも行くか、起きるか。


 悪夢が現実の憂鬱さの引き写しだったとしても、それが地続きであることが感じられるのならば、わたしは夢を見ていたいと思わなくて済む。よい夢を見ることは、それが覚めてしまうものだということで苦しみのもととなる。悪夢であれば、それは生じない。


 これは悪夢の優しさである。苦しいときに悪夢を見るのは、現実に素早く帰って行けるようにという夢魔の計らいなのである。逆に苦しいときによい夢を見るのは、現実に絶望せよという別の悪魔の計らいなのである。


 現実で夢を見ることは、よい夢の悪魔と、悪夢の夢魔の双方からの決別を意味する。現実で見る夢の苦しさに慣れている人は、よい夢から覚めることにも慣れており、悪夢が現実と地続きではないと信じている。


 現実で夢を見る人は、その現実をそのまま生きることができる。それは覚めない夢であり、敗北に似た優しさに背を向けることを意味しているのだ。


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