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昼下がり  作者: 磯目かずま
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花火

 帰り道、遠くの空に花火が上がった。ぱあっと広がる色とりどりの光の少し後にくもった破裂音が聞こえる。宵の空に上がる花火は、遠くにあるはずなのになんだかとても近くにあるようで、坂道を登りながら高台から眺めるそれは、少しさびれた城下町に反射してきらきらとまたたいていた。


 そういえば、最近花火を見に行くなんてことはなかったな、と思った。そもそも、わざわざ花火を見るために出かけたのは、小さなころに海の近くに家族で車で行って車から外を眺めていたことと、妻がまだ彼女だったころに人でごった返す隅田川の花火に行ったことくらいである。たいてい花火というものは、どこかで音だけ聞こえてきて、空を見上げてちらりと見えて、ああ、今日は花火だったんだねとしみじみするような、そんなものである。


 打ち上げ花火もいいものだが、手持ちの花火もまたいいものだ。コンビニでパックで売られている安っぽい花火を庭で家族みんなでやる。バケツに水を張って、ろうそくに火をつけて、紙でできたひらひらする部分に火をつけて、ジューと光が出る。煙の臭い。一つか二つ入っているちょっとだけ豪華な花火をつけて、ねずみ花火で騒ぐ。最後には線香花火で誰が一番長く落とさないでいられるか競争する。それで全部なくなった後にバケツに放り込まれた花火たちを見て少し切ない気持ちになる。


 花火の季節は、夏の終わり、お盆、そんなときだ。ひぐらしが鳴いていたり、家の灯りにカブトムシがバチバチ当たっていたり、蚊に刺されたり、そんなときだ。そんなとき、わたしはどうしようもなく切なくなって、夜中に散歩に出かけてしまう。半袖短パンではほんの少しだけ肌寒いような清々しい夜に、わたしは溶け込んだようになって、まばらな灯りの中、虫の声をたよりに海に向かう。海は、月明かりに照らされて少しだけ濃紺に輝き、昼の喧騒を伝えるゴミや轍の跡も、不在を示す廃墟のように感じられる。わたしは砂浜に降りていくところの階段に腰かけて、面白みもない貝殻を拾い上げて手のうちで転がしている。


 ふと見ると、近くに花火のゴミがあった。持って帰らないやつはいつもいるものだ。わたしはそれをゴミ箱に捨てに行くでもなく、ただきれいに並べて満足して、また海を眺める。こんな夜には、きっと渚から沖に向かって歩いて行って、ついぞ海に溶け込んで帰ってこなければ大変風流なことだろうと思われるが、そんなことを試してみる気持ちもない。美しい南の海ではなく、茶色く濁った小汚いアカエイの出そうな海。沖ではボラがたまに飛び跳ねていて、遠くにフェリーが見える。そんな海が、わたしにとっては、花火の切なさと、夏の透明な気持ちの場所なのである。

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