パーティー加入
さっそく鑑定を使って薬草採りをしてみる。
鑑定さえあれば薬草採りは楽勝だ。
そして、クエストを3回クリアすれば正式冒険者にもなれる。
俺はやる気満々で薬草採りに出向いた。
街の外で鑑定を使うと草の上に名前が浮かんでくる。
雑草
雑草
雑草
雑草
薬草
あった!
鑑定スキル無しでは絶対に見つけられないような草むらの中の薬草を見つけた。
鑑定が無ければ見つけるのに少なくとも5分は掛かってたと思うと鑑定スキルは本当にありがたい。
――『やりましたね』
――「おう! この調子でガンガン行くぞ!」
俺は鑑定を駆使して日没前までに薬草を集め終えた。
納品カウンターへ行きリオンさんに薬草の束を渡す。
「また薬草を集めてきたんだね。随分と早かったから薬草の見極めに慣れてきた?」
「あ、それなんですけど鑑定を使ったんですよ」
「嘘? さっきは鑑定スキルを持っていなかったよね?」
「薬草の見極めをしていたら覚えました」
正確には薬草の納品をしてミッションカードの『Fランクの依頼を達成する。』をクリアして報酬として鑑定を覚えたんだけど、嘘はついてない。
リオンさんは目を輝かせてやたら感心していた。
「たった一日の薬草の仕分けだけで鑑定を覚えるなんてすごいよ。私なんて鑑定を覚えるまで3年も掛かったんだよ」
昔の苦労を懐かしむように遠い目をするリオンさん。
ミッションカードで楽々覚えたとは絶対に言えない。
リオンさんは俺の納品した薬草を受け取った。
「薬草納品一回分ね。これで薬草納品合計三回分。さっきのと合わせて報酬は9000ゴルダだね。この受領証をギルドの受付で渡して報酬を貰うのを忘れないでね」
納品3回が済んだってことは、冒険者として正式採用だぜ!
リオンさんに発行してもらった受領証を手にして受付嬢のエリアスさんのとこに戻る。
一日で冒険者になれるって、俺ってかなり凄いんじゃない?
期待度満点でエリアスさんに受領証を渡す。
「薬草採取3回分の納品完了ですね。お疲れ様」
エリアスさんは報酬の9000ゴルダを俺に渡す。
相変わらず愛想笑いしかしてないのが気になる。
でも、もっと気になることがあった。
正式採用の話が出なかったことだ。
俺はいてもたってもいられず催促する。
「クエストを3回達成したので、冒険者に正式採用ですよね?」
「正式採用はまだですよ」
「いや、でも、3回分の納品が完了したってエリアスさんが今言ったじゃないですか」
「正式採用は3回じゃなく3種類です」
3種類?
嘘だろ?
回数じゃなく種類だと?
初心者冒険者のしおりの正式採用のページを開いてみると確かに3種類と書いてあった。
「マジか?」
なんなんだよ、これ。
「戦闘を一度もせずに薬草採取だけで正式採用になる人が増えたので3年前にルールが変わったんです。武器も持たずに冒険者になる人が増えて色々と苦情が出たので……。それで必ずダンジョンで戦闘しないと正式採用が出来ないようになりました」
世の中、薬草採りだけで冒険者になれるほど甘くはなかった。
Fランクの依頼は次のようなものが出ていた。
・薬草集め
・プレーンラビットの納品
・ダンジョンスライムの討伐
・ダンジョンスネイルの討伐
・ダンジョンラットの討伐
すべて常に依頼が出ている常設依頼。
三種類の依頼をクリアしようとするとダンジョンに潜らずに出来る依頼は二種類だけで、残り一種類の依頼はダンジョンでの討伐が含まれることになりどうやってもダンジョンに潜らないとダメなようになっていた。
――『これは冒険者になるための試験代わりの依頼ですね』
――「少なくとも一度はダンジョンに潜らなければダメってことか」
――『装備を揃えて本気でやる気があるのか、適性があるのか、ふるいに掛けようとしてるみたいですね』
入社試験というか資格試験みたいなものか。
まいったな。
ダンジョンに潜ろうとしても俺のレベルじゃパーティーに入れないから完全に詰んでないか?
しかも3日以内にパーティーに加入できるレベル10まで上げるのは無理過ぎる。
こんなことならよく話を聞いて先にレベルを上げてから冒険者の仮登録をすればよかった。
まあ、今更後悔しても後の祭りだ。
そういえば、金を払えばパーティーに入れてくれるって冒険者がいたな。
あいつら金を払うのはムカつくが背に腹は代えられない。
――「ナビちゃん」
――『はい、なんでしょうか?』
――「さっきお金を払えばパーティーに入れてくれるって冒険者がいたんだけど、パーティーに入るための報酬の相場ってどのくらいかわかる?」
――『お金を払ってパーティーに入るって話を聞いたことがないので、ちょっとわからないですね』
――「本人に直接聞くしかないか」
あの冒険者がまだギルドの酒場に残っていればいいんだけど。
俺は記憶を頼りにあの冒険者を探す。
いた!
いったい何時間酒を飲んでるんだよ。
昼からぶっ続けで飲んでいたのか?
どんだけ酒が好きなんだよ、仕事するためじゃなく飲むために冒険者ギルドに来ているのか?
まあ、冒険者の倫理観なんてどうでもいい。
俺に残された道はこの冒険者とパーティーを組むことだけなのだから。
俺はさっそく話を切り出す。
「前にお金を払えばパーティーに入れてくれるって言ってたんですが、いくら払えば入れてもらえるんでしょうか?」
それを聞いて大笑いする冒険者。
顎が外れそうなぐらい大笑いすると、仲間も爆笑だ。
「がははは! マジかよ、そこまでしてパーティーに入りたいのかよ。そこまで困っていたのか?」
「ええ、本当に困ってるんです」
「そうなのか……。金を払えってのは冗談だったんだけど……そこまで困ってると聞いたんじゃ先輩冒険者として一肌脱がないといけないな。じゃあ明日、一仕事を終えた後、初心者冒険者の指導講習という形でダンジョンに潜るならいいぞ。ただし、タダだとお前も肩身が狭いだろうから礼としてメンバー全員に夕飯とビールをおごる。これでどうだ?」
この冒険者は口が悪いけど、結構いい人だった。
パーティー5人分の食事代とビール代で20000ゴルダ。
今の俺にとっては20000ゴルダは大金だが、冒険者の心得を色々教えてくれるらしいのでそう悪い話でもなかった。
「よろしくお願いします」
「おう、じゃあ明日な!」
これで冒険者登録はなんとかなりそうだ。
問題はお金。
今の残金は16000ゴルダ、夕飯を食べたら15000ゴルダだ。
約束の20000ゴルダにはどうやっても足りない。
俺は必死に金を稼ぐことにした。